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アリスランドA10

 話を聞けば聞くほど深まる謎。


 高田たちはこぞって俺の前に集まる。老若男女が口々にビーツを賞賛する。


 ビーツの偉業とやらに興味はないが、その見聞によって人柄───というよりも狙いがわかるかもしれない。嬉しそうに語る彼らの言葉に、ひとまず耳を傾けた。


 その多くが「とにかく偉い」という茫漠とするものだったが、気になる点がいくつかある。


 ライフラインをともに整えただの、トンネルを一緒に掘っただの。


 つまり、今の生活の基盤を作った立役者だという。


 それが今から3年前だという。野郎、俺との会話で2年前とか言ってたのに。テンプスは2年半前に出会ったとか言ってたから、その頃から疑問に思っていたが、まさか3年以上前だとは。


 ビーツの外見は俺とそこまで変わらない。17か18歳。それか19歳か。


 子供の頃から日本に関わりがあったということだ。


 外見は日本人とかけ離れているが、日系人だと述べて日本語を扱い、同じ釜の飯を食えば仲間。そうやって高田たちに溶け込んだ。ビーツは周囲を巻き込んで仲良くなるのが得意だったとテンプスは述べていたし、前世でもたくさんの友人がいた。高田たちと仲間になるのは時間の問題だったわけだ。


 軍人に志願して整備士になるにも、だからってアリスランドに配属されるだろうか。いかに優秀だろうが若すぎる。


 あるいは今も太いパイプがあるというオルコットとかいう連合軍の重鎮に取り入ったか。


 わからない。ビーツについて、俺はなにも知らなさすぎる。


「そういえば、お前たちの艦………随分とアレに似てるなぁ。なんつった?」


「アリスランドだよ。しっかりしなよ、あんた」


「ああ。そうだったそうだった。随分と可愛い名前だからよ。轟天とかなら覚えやすいんだがなぁ」


 俺たちに鮪を振る舞ってくれた漁師が述べる。その妻と思える女性の補佐で、アリスランドの名前をやっと聞くことができた。


「アリスランドのことを知っているのかね?」


『あなたはアリスランドのことをご存知なのですか?』


 俺たちの会話を聞いていたクランドが歩み寄る。質問はすぐにハルモニが通訳した。


「あ、ああ。知ってるよ。山梨側のドックで製造してたしな」


「ヤマナシドック?」


「ああ。富士山の近くにドックがあるんだ。俺らはそこら出身よ。新造されたドックと、俺たちが住んでいた地下壕が隣接していてな。拡張工事の途中で、繋がっちまったんだ。そこで会ったのがビーツさんってわけよ」


 それが発端か。


 出会いは偶然か、あるいは必然か。


 いや、必然だ。ビーツが彼らの存在を知らないはずがない。


「ドックと繋がった………では、みなさんの存在はそこで連合軍に知られたのではないのですか?」


 極端に連合軍と、外界と繋がろうとすることを恐れている彼らにしては、ビーツとの繋がりを嬉しそうに語るものだから、違和感を覚える。


「まぁ一旦はな。けど、ビーツさんと交流している内に、俺らの拠点を東京に移すこと、その支援を約束する代わりに、俺たちもアリスランドとかいう黒い、お前たちが乗ってる艦の色違いバージョンの製造を手伝ったわけよ。人材が増えれば納期も大幅に短縮できるし、当時から地下壕には日本支部に勤めていたメカニックも多かったしな。で、アリスランドが作られて、トンネルも拡張してこの地下に伸びてから、ビーツさんは連合軍の本部に、こう報告したわけだ。現地民と交流し、アリスランドの製造の補助を受けたが、完成した直後に発生した毒ガス充満事件で全員死亡ってな」


「当時の艦長………ああ、確かテンプスとかいう野郎もムカつく野郎だったが、俺たちに興味がなかったようで、案外すんなりと信じたらしいな」


「そうやって、私たちは第二の人生を、こうしてお天道様の下で送れるってわけさ。本当、ビーツさんには感謝しかないよ」


 それが高田たち、最後の日本人たちの第2の歴史なのか。


 農業と漁業と畜産で食べ物を揃え、地下のプラントを利用して必要なものを揃え、生活を豊かにした。


 莫大な予算がかかりそうだが、ビーツのことだ。どうせテンプスの見ていないところで偽ってちょろまかしたに違いない。


 まったく意味がわからない。ビーツになんのメリットがある? そんなことをしてもビーツに得がない。まさか前世が日本人であっただけで、彼らに同情的になって全面協力を申し出た?


 初見からどこか狂っている野郎だとは思っていた。人間を人間と思っていない。クズの度合いでいえばテンプスといい勝負をしているくらいだ。


「ところで、ビーツ艦長代理は今、ここに帰って来ているのかね?」


「いや、そんな報告は聞いてないな。ドックは今も使っているし、帰ってきたら整備を俺たちも手伝うために、あのドックまでトンネルを車で移動するしな」


 クランドの質問に答える高田。その表情や声音から、なにかを隠している様子はないと脳内チップの分析が告げる。


 ここからトンネルを通って隠しドックまで行けるのか。少なくとも、大型車両が通行できそうな幅のものを掘ったのだろう。


 レトロに見えて、案外現代化している部分もあるのだ。優先順位さえ上がれば、ここに集合住宅どころか高層ビルだって建てられるようになるのだろうな。


「それにしたって、数奇な巡り合わせだよな。まさかビーツさんの知り合いが来てくれるなんてさ。坊主も、あれかい? ビーツさんに恩があるのかい?」


「恩ではなく………少なくとも借りがあります。それを返したいと思っています」


 間違ってはないだろう。俺たちの間にあるのは、ある意味で因縁のようなものだ。それについて白黒をつけることも、本編を進む上では急務なのである。


「高田さん。そのドック、俺たちも行くことは可能ですか?」


「見学って意味かい? それなら………うーん。どうだろう。ドックは無人稼働してる状態だし、整備する時は私たちも駆けつけて、アリスランドのクルーたちと協力してやってるんだ。たまに足を運ぶこともあるんだ。掃除をしたりしてね。その際は許可証が必要なんだけど………ビーツさんの知り合いってことなら、入れない………こともないのか。今度、ビーツさんがいらした時に聞いてみよう」


 日本の隠しドックについては富士山の麓であることは知れている。強行突破も可能だろうが、アリスランドがいないのであれば、そんなことをしても無駄だろう。そして内部から入ろうにも、許可証が必要と。


 脳内チップでハッキングを仕掛ければいけるだろうか。いや、ビーツがそれを考えないはずがない。対策もしてあるだろう。


「ご馳走様でした。たくさんいただきました。少し、風景を見て腹ごなししてきます」


「おう。ここらの空気はうめぇぞ。ほら、これ持ってけ」


 牛乳瓶を手渡され、それを一口飲みながら、集団から離れる。


 そこから全員を見てみた。


 握り飯を食べるソータたち。食の壁をなんとか乗り越えたようだ。クランドたちは村の重鎮らと話している。まだ勤務中であるため、清酒を飲めないカイドウは嘆いていた。シーナは歳が近い女性たちに囲まれている。


 俺は牛乳を飲みながらさらに歩く。グラディオスの近くへと。


 脳内チップで意識を飛ばす。東京湾に置いてきた小型無人潜水機へアクセスした。


 ソナーやレーダーには未だ反応はない。グラディオスのレーダーも同様。


「………どうなってやがる。陸海空と万全を整えられたのに、ビーツはまだ仕掛けて来ない。山脈の裏側に隠れてる? けど………俺たちを懐に招き入れたようなものだ。安易には仕掛けられないはず………」


 わからない。


 ビーツがなにを考えているのか、まったくわからなかった。


とにかくビビるくらいたくさんのリアクションありがとうございます! 250件くらい入っててびっくりしました!


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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