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アリスランドA09

「高田さんたちは、ずっとここで?」


 せっかく山盛りにしてもらった刺身だ。食べながら尋ねる。


「ああ。今まで地下にいたんだ。けど2年前………地上に出てな。俺は連合軍にいたんだ。とは言ってもパイロットじゃない。開発担当だが。支部を覆うバリアの設計図は手元にあったから、着々と準備を進めて、それからバリアだけじゃアンノウンに見つかるかもしれないってことで、あの偽装をすることにした。気付けばもう、30年経ってたよ」


 長きに渡る努力が、こうして日本の一部を防衛してきたというわけか。


 先程、トンネルを使って東京湾に出たと言っていたし、俺たちが立っている地表の下には、蟻の巣のような生活拠点や、製造を可能にしたドックがあるのだろう。


「2年かけて、やっとこれだ。地下で飼育していた家畜を放ち、畜産と農業を優先して発達させた。日本は水源が豊富だ。地下水を汲み上げれば、生活に困ることはない。あとは地下のプラントを併用して、機械的ではなく、ちゃんとした日光を浴びせた農業で、ここまでやって来れたんだ」


 だからか。このドーム内をスキャンしてみたが、3割が住居で、残りは田畑だった。


「ここは新宿ですよね? このドームって、どこまで広がっているんですか?」


「中野や渋谷も入ってるな。準備期間に長い月日を費やしたお陰で、今や噂のドイツやアメリカにも負けないくらいの敷地面積はあるぞ」


「へぇ。かなり広いんですね。あ、納豆はどうやって作ってるんですか?」


「地下のプラントでな。我々日本人のソウルフードだ。鶏卵にも力を入れている」


「わかります。良い味でした。じゃあ醤油などの調味料も地下で作っているってことかぁ」


 気になっていた質問をしてみると、同じ釜の飯を食った仲ゆえか、差し障りない程度で教えてくれた。


 しかし、ここからは差し障る内容になってくるのも、確かなのである。


「自分たちの生存について、なぜ連合軍に報告しなかったのですか?」


「………」


「勘違いなさらないでくださいね。別にこれは尋問とかじゃないですよ。そういうのは、大人同士で駆け引きしてください。俺はただ知りたいんです。俺の故郷のひとつである日本が、密かに活動を再開していて嬉しかったのもあります。安心したんだと思います。うまい飯を食えて嬉しかったのもあります。………クランド艦長にも話しづらいことだってあるでしょう。だから、ここからはオフレコってことでどうです?」


「………まぁ、そういうことにしておくかな」


 拒否も容認もしなかった。


 本当に話しづらい内容なのだろう。予想はできる。ゆえに俺は、持論を展開してみた。


「連合軍本部に報告しなかったのは………できなかったのではなく、したくなかったから」


「俺たちが持っている機材が古くて、本部に連絡が取れなかったのさ」


「バリアを偽装して、廃墟に見せかける。アンノウンは未知数だけど、なんとかそれで欺くことができた。もし………この技術が他の支部に伝わったとして、世界各国の残存する支部が真似をしたとします。地球から人間が一斉に消えてしまったと錯覚するアンノウンはどうするか。諦めるのか? ………いいや、違う。さっきの俺たちみたく、あるいは手当たり次第に放火して手探りする………かもしれない」


「………」


「それで他の支部が発見されたら元も子もない。偽装は偽装でなくなってしまう。アンノウンの学習能力は半端ない。日本だって無事じゃ済まない。再びこの大地を焼かれたくはない。………だから、高田さんたちは連合軍に通達しなかった」


「………参ったね、これは」


 また否定でも肯定でもない答え。でも、やはり肯定の意味があるだろう。


 高田はグラスを掴んで、乾いた口に冷水を流し込む。再び俺と対峙した。


「目敏いな。もう、これ以上隠蔽しても無駄だろう。………なにが望みだい。この件は、どうか内密にしてもらいたい。連合軍にも、そちらの艦長さんにも。あまり金銭は用意できぬが、それでも………」


 表情には出さないが、かなり動揺していた。こういう駆け引きには慣れていないのだろう。それではクランドとテーブルについた数分後には負けてしまう。


 そして、やはり勘違いされている。俺は高田含め、ここにいる日本人を強請りたいわけではないのだ。


「夕飯………」


「え?」


「日本食で有名なもののなかに、すき焼きっていうのがあるでしょう? それを食べたいですねぇ」


「え………あ、いや。それはいいのだが………ほ、他には?」


「特には。あ、もっとあるなら食べたいですね。それから図々しいようですけど、米を少しだけ分けてもらえません? ここから離れても食べたいんですよ」


「あ、ああ。俵で持って行ってもいいが………他には?」


「うーん。飯以外となると難しいですねぇ。あとで考えておきます」


「それで黙っていて、くれるのか?」


「だから、最初からこれはオフレコでって言ったでしょう? ………俺だって、故郷のひとつが残ってくれることに越したことは、ありません。連合軍の上層部は、一部が腐っていて全幅の信頼を寄せられないし。なら、ここは今の会話は墓場まで持っていくことにしますよ」


 高田は目を丸くする。数秒後に握った拳を震わせて、それから誰にも気付かれない程度に頭を下げた。


「………ありがとう。恩にきる」


「いえいえ。ああ、それとクランド艦長も鋭いひとですし、もっともっともな理由を考えておいた方がいいかもしれません。それについては俺も考えますよ」


「わかった。なら、我々も、きみとシーナさんを信頼することにしよう」


「どうも。あ、すき焼きの件、忘れないでくださいよ? 結構楽しみなんです」


「任せておけ。上級の牛肉を出そう」


 俺はこの件を、クランドに伝えるべきか迷った。


 伝えてもいい。クランドなら信用できる。ただ、これは特務だ。クランドも軍人としての責務がある。日本の事情を知れば、軍人として本部に通達しなければならない。


 この偽装ドームを隠蔽して伝えられるとは思えない。仮に秘匿して報告したとしても、本部から多くの調査団が派遣されれば、偽装ドームのバリアに触れて気付かれる。


 その時、高田は元軍人として、情報の共有を怠ったとして罰され、それを口実に本部に根こそぎ持って行かれてしまう可能性も否めないのだ。


 ならば、俺が隠すしかない。言い訳も考える。もっと適切で、信じてもらえそうな理由を。


「あ………そうだ高田さん。ひとつお聞きしたいことがあるのですが」


「うん? なんだい」


「ビーツ・クノって男の名前に、聞き覚えはありませんか?」


()()()()()()()()()!?」


 高田はいきなり大声を上げた。


 失着だったか。日本人とグラディオス勢が一斉にこちらを振り返った。


 グラディオス勢はなんてこともないが、問題は日本人だ。この反応からしてビーツを知っているのは確実だが、もしテンプスのようなアンチ勢だったら、話題に出すことも忌避すべきで───


「そうか。お前もしかしてビーツさんの紹介でここに来たのか?」


「………え?」


「なんだ、違うのか? まぁ別にそんなことはいいんだ。でもビーツさんの知り合いってなら話が早い。いいひとだろ? なんたって、俺たちがこうして地上に出るのをサポートしてくれたひとなんだかだな!」


 ビーツが高田たちをサポートした?


 いったい、なぜ? ビーツにどんなメリットがあった?


 けれど、考えてみれば彼らの言動に偽りがあるとは思えないし、なにより日本といえばアリスランドが製造された場所だ。ビーツも前世は俺たちと同じく日本人。少なからずとも関わりがあったのだ。


たくさんのリアクションありがとうございます!


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この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

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