銀の髪の少女B11
接触はたった数秒。されども幾度となくその機会があった。システムダウンするまでもなく、ガリウスのレイライトリアクターに触れられたのだろう。
また、ガリウスGは俺のタキオンとは違って、神経接続型ではない。あの不快感がない限り、侵入されたと気付けるはずがないのだ。
してやられた。タキオンへの侵入ばかりを警戒するあまり、ガリウスGに余念できなかった俺のミスだ。
触手がタキオンを猛追する。そのまま海に叩き落とすつもりでいたので、タキオンの両腕のことなど考えていなかった。異常発熱で両腕の冷却が間に合わず、マニュピレーターどころか肘の関節も融解している可能性がある。
ああ、くそっ………どこぞの条約違反の末、新型核エンジンを搭載して光の翼を出すニヒルっぽい顔をした主人公機そのものじゃねぇか。両腕を失ったら戦えないとか、話にならねぇ。なにか対策を考えないと。
それでも両肩の姿勢制御用のサブスラスター以外は生きている。触手が迫ろうと振り切る機動力で飛翔する。
『エー先輩!』
『や、やべぇぞ! こっちにも来る!』
赤い猿が、赤いタキオンの時のように変貌する。もう猿としての原型を、より放棄して肥大化。四肢や胴からも触手を出してガリウスGを襲う。
『みんな離れて!』
より上空で俯瞰していたヒナの六号機が、温存していた誘導弾のすべてを放つ。シェリーもイーグルジャケットの翼に懸架していたそれを放つ。
物量差には物量差だ。2機のミサイル群が多くの触手を迎撃。
ただ、触手は勢いを衰えさせても、その内側にいた第2の群れが爆炎を突破し、9機を襲う。
『うっ………ああ、もう! パピヨンジャケットならこんなの軽々と躱せるのに。鬱陶しいわねぇ………っ!』
『下がれユリン! 被弾した者は離脱しろ。グラディオスへ戻れ!』
『つっても、こっちの壁が薄くなったら話にならねぇっすよ!』
ユリンの二号機がイーグルジャケットを失う。被弾すると手動でパージし、ネイキッド状態になった。ただし、改修前なら装甲、推進器、両腕のいずれか、あるいはすべてを失うのだが、イーグルジャケットはバックパックに接続する、パピヨンジャケットやガンビッドジャケットと同様のタイプで、推進器のみを切り離したため、両腕は残る。戦闘継続は可能かつ変形も問題ない。
ハーモンの三号機は左腕を、コウの四号機は右腕と右足を失う。飛べなくもないし戦えないこともないのだが、戦力の低下どころか回避さえ難しいようでは、赤い化け物の相手などできるはずがない。ハーモンがコウを抱えてグラディオスまで退避した。
タキオンだけでなく、続々と被害が拡散している。戦闘開始からたった数分で劣勢に陥った。
前線にヒナとシェリーも加わる。防衛線を構築しなければ抜けられる。
ともにファイターモードで赤い触手を翻弄しようとするのだが、赤い化け物の手数が多すぎた。
「フレアを散布しろ!」
『え、フレア!?』
「いいから、早く!」
デコイ・フレアとは誘導弾が接近した際、囮として使う兵器のことだ。
赤い触手に通用するとは限らないが、半信半疑で脚部に搭載されているそれを放つと、赤い触手がデコイ・フレアに真っ先に食いついた。
『どういうことだ!?』
「熱ですよ。前もそうだった。この赤い触手は熱源を追う。ガリウスならレイライトリアクターや推進器がそうだ。ならフレアがデコイに丁度いい。でも学習能力の高さから多用はできないでしょう。時間がないってのに………まずい!」
赤い化け物が遊ぶのをやめた。
俺たちを追う触手が極端に減ったからだ。その本体は陸地へと戻りつつある。
どこへ向かうのかは明白だ。
最大の熱量を持つグラディオスである。
『止めろ! グラディオスを守るんだ!』
無茶を言うシドウ。しかしもっともであることに違いはない。
俺たちが帰る場所を失うわけにはいかない。
肥大化したゆえに愚鈍ではあるが、搭載する触手の動きは機敏である。取りつかれればグラディオスとて無事では済まない。
『あの野郎………調子に、乗るなァッ!!』
ソータが吼えた。
心のうちに秘めたる感情を爆発させるような怒号。
タキオンのシステム越しではあるが、神経接続している俺の背筋がゾクッとする。
その正体は畏れ。天才にして、そのなかでも一握りしか至ることのできない領域に達した者だけが発動できる異端───覚醒。
最初に見たのは半年前だった。原作にはない早期の覚醒によって、Eタイプ2体討伐というイレギュラーに対応できたのである。
激しい怒りがトリガーとなるのは原作どおりだが、まだその時ではない。
一号機の挙動が激しくなる。それこそ神経接続型のような。
ファイターモードに変形した一号機が赤い化け物に突撃すると、接近する一号機を迎撃せんと触手群が一斉に襲い掛かる。その時にはすでに変形が終えていて、二振りのロングソードで応戦していた。
『あいつ、また………っ! 一号機をフォローする! 赤い化け物が纏っている触手を減らせ!』
ついにソータの挙動に追いつけなくなったシドウが指示をする。
しかしフォローと言っても、赤い化け物を撃つのは容易ではあるが、それを容易ではなくす要員があった。
一号機である。激しく動き回るその機体まで被弾しないかという懸念が、どうしても逡巡を招き、トリガーを押し込めない。
『私が、やります!』
アイリが叫ぶ。またゾクッとした。アイリまで2度目たる覚醒を発動。今のふたりはコクピット内で瞳を輝かせるエフェクトを纏っているだろう。
八号機はグラディオスからドローンカメラを呼び寄せていた。自信もライフルを掲げ、極限の集中力と脳波で6機のドローンカメラを操り、触手に確実にビームを照射し切断する。勇気があるとか、そういう次元ではない。確実にソータの動きを理解していなければできない射撃だ。シェリーでも困難である。
しかし、
『グラディオス! クランド艦長! 逃げてください! このままでは追いつかれる!』
ソータとアイリの覚醒をもってしても、赤い化け物の動きは止まることはなかった。
触手の数は確実に減っているのだ。一号機はコマのように回転し、二刀流のロングソードで攻撃手段を減らしているとはいえ、赤い化け物の中央にまで剣が届いているわけではない。
やはり別格である。主人公とヒロインの覚醒でも届かない。本編に登場するはずのない敵。イレギュラー。
どうやってこれを倒せばいいというのだ?
………いや、諦めるな。ソータとアイリが気合いで押し込もうとしているんだぞ。
俺が踏ん張らなくてどうする。
なにかある。なにかがあるはずなんだ。
この俺でさえ忘れているなにか。
序盤からこれまでのことを振り返り───
「………そうだ。熱だ。ミサイルの時は微妙だったけど、実弾の時はわずかな変化があった。それなら多段攻撃で………ある一定の熱量を加えたとするなら? ………迷っている暇はない! グラディオス! 十三番機、アレン!」
『ひゃ、ひゃい!?』
「ヘッジホッグジャケット用意! 合図はしない! 今すぐ全火力を、赤い化け物に叩き込め!!」
『りょ、うかい、しましたっ!』
踏んだ場数の少ない新人相手に、大人気なく怒鳴るように指示してしまった。
だが、今はそうするしかない。
アレンが搭乗する十三号機に追加された新たなジャケットは本編に通ずるが出番はまだ先だ。強引に引っ張り出して製造した。
それが今、ベールを脱ぎ捨てて、真の姿を性能を発揮する。
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