銀の髪の少女B08
ライラは通りかかったドクターに押し付けて、俺たちはミーティングルームへと急いだ。
脳内チップは艦外カメラと同期している。艦外の情報を逸早くキャッチするために。
ハンガーではなく、ミーティングルームへと足を運んだのは理由がある。
先程の強い振動は敵襲ではなかった。別のなにかが、結果としてグラディオスを襲ったのだ。
爆発である。
韓国の放棄された大地を高熱が多い、深く陥没させるほどの。
距離にして数十キロ先だ。グラディオスの望遠カメラがその様子を捉えた。
「済まない。待たせた」
「状況は見ているな! かなりまずいことになっている」
ミーティングルームに到着するなり、俺はメインモニターと艦外カメラを繋げた。その数分後にシドウと、クスドを従えたクランド、騒ぎを聞いて駆けつけたカイドウが入る。
クランドが言う「かなりまずいこと」とは、地面を穿った原因にある。
「くそがっ! この前だって沈められかけたってぇのによう! もうこんなところで再戦になろうたぁな!」
カイドウが毒付く。
穿たれた地面の上空に、物凄い熱源を3つ感知していた。
「Eタイプが、3体も………!?」
「こんなの、勝てるはずがない!」
キルカとマイアは狼狽した末に絶望する。
「いいえ、そんなことはありません!」
それを否定したのが、正式に新参謀となったクスドである。
「決して勝てない敵ではありませんよ」
「クスド、きみの能力は理解している。しかし、なぜそう断定できるのだね?」
クランドが冷静に尋ねる。
「確かにEタイプは強大です。特徴は例にない巨大な体。この地球に生息していると言われているシロナガスクジラでさえ、ひと飲みにできる巨大な顎。しかし、あのEタイプは通常個体です。全長100メートル。そのくらいです」
「………ふむ。確かに」
第2クールから参入したキルカたち、アレン、ハナは愕然としている。
地球の常識として、Eタイプが現れれば、まず勝ち目はないというのが共通の認識だろう。
しかしクスドの言動と、クランドが冷静に納得して首肯したという事実に、正気を疑わずにはいられなかった。
「ひ、ヒナ………あの少年、参謀のクスドといったか………か、彼はなにを言っている? Eタイプだぞ? あれに勝つには一個師団でさえ壊滅させられるほどの………」
「あ、そっか。ハナ姉ちゃんは知らないよね。私たち、Eタイプに勝ってるの。それも倍サイズの特殊個体。2体に挟撃された時は、さすがに死ぬかと思ったよ」
「特殊個体………2体………」
ハナは、もうなにも言えなくなる。キルカたちやアレンも。
いつもなら、そんな彼女たちにそれとなくフォローを入れるのだが、生憎いまの俺にはそんな余裕はない。
「問題は、なぜ3体のEタイプが対空したまま、地上を焼いたのか、です」
「それも焼き払った今も、グラディオスの存在を感知しているであろうはずが、見向きもしない。いったいなぜだ?」
理由は知れている。アンノウンの、それも最大の火力を瞬間的に放射できるEタイプが3体も揃っているのだから。
俺たちは遭遇してしまったのだ。あの赤い悪魔のような化け物と。
「俺が………」
「エース?」
「ドイツ支部で請け負った特務で体験したイレギュラーに類似しています。艦長。やはり………あの赤い化け物がいると考えるべきです。タキオンの出撃許可を」
ザワッとメディカルルームの空気が変わる。
全員抗議する勢いだった。それをクランドが手で制して止める。
「きみは単独で出撃するつもりかね?」
「その必要があると考えます」
「Eタイプがいるど真ん中に飛び込むと?」
「………いえ、この際、Eタイプに斥候をやらせます。本当にアレがいるのかを見極めます。そして、あれがいるようであれば………タキオンで倒します。その時はグラディオスは撤退を。どんな被害が出るかわかりません」
「………許可は、できない」
「艦長!!」
「きみを失うわけにはいかん!!」
怒鳴り合いにまで発展する。クランドの怒号に、ミーティングルームはシンと静まった。
しばらく睨み合いが続く。
その時だ。クスドが「アンノウンに動きがあります!」と告げて、俺たちは視線を逸らすようにメインモニターを注視する。
龍の頭部をするそれが、顎を大きく開き、火球を放とうとした次の瞬間だった。
焼き払われた地面からも、微かだが、赤いなにかが飛び出した。
それがEタイプの口腔に自ら吸い込まれるように突入すると───そのEタイプが消滅した。
「一撃でコアを破壊するだと!?」
通常個体とはいえ、単体であっても連合群の艦隊をも脅かす脅威を、容易く消し去る事実にシドウが驚愕する。
「あれじゃ斥候にもならない! タキオンで出ます!」
「待てエース! 行くな!」
「あの赤いのはすでにグラディオスを捉えています! このままじゃここも危ない!」
こんなところでグラディオスを失うわけにはいかないのだ。
クランドとカイドウの制止も振り切り、ミーティングルームを飛び出した。
乱暴にパイロットスーツに着替えてハンガーを訪れる。
「タキオンを出します!」
「お、おう!」
ハンガーにもモニターはある。外の状況を見ていた整備士たちも、只事ではないと判断し、すでに出撃に備えていた。
『エース。先行は許す。だがその数秒後にはガリウスを出す。これはきみだけの戦いではない。だから………』
右手をスロットに挿入し、タキオンが起動。するとサブモニターに通信が入る。足早にブリッジへと戻るクランドだった。
「………わかってます。先程は申し訳ありませんでした」
『いや、構わない。あの赤い謎の存在の脅威を知っているのはきみだけだ。私は具体すら知らず、通常対応しようとしていた。それが間違いであったと、気付かされた。確かにあれはまともな敵ではない。Eタイプが応戦しているが2体目がすでにやられている。3体目がやられるのも時間の問題だろう。………きみに多くを背負わせるようで心苦しいが、あれを阻止してほしい。すぐに増援を送る』
「………了解」
本当なら増援などほしくはなかった。
タキオンでも苦戦するくらいだ。ガリウスGは改修されたが、それでどこまでやれるのかが課題であり、彼らがあの赤い化け物に追いつけるかすら不明だったのである。
少なくともローマで遭遇した赤い化け物とは別個体だろう。だが、Eタイプを一撃で屠るほどの脅威は同じ。
タキオンがカタパルトに乗せられる。
深く息を吸い、細く吐く。半端ない緊張で胃が搾られるようだったが、泣き言など並べている場合ではない。
「エース・ノギ、タキオン。ブラストオフッ!」
暴力的な加速を得て、タキオンはグラディオスから出撃。
数十キロ先にある戦闘領域では、赤い化け物がついに3体目のEタイプを倒した。3体目のEタイプもただ黙っているだけではなく、搭載していたアンノウンBタイプを射出。迎撃にあたらせていたが、戦いにもならない。
赤い軌跡を空中に描き、Bタイプを丁寧に一撃で潰している。
バーニアをジャケットとして装備したタキオンが、すぐに戦闘領域に突入する。右腕にヒートナイフを展開。すると赤い化け物もタキオンを捕捉。Bタイプを潰し終えたからか、タキオンへ向けて一直線に突入した。
「容赦はしない! 食らえぇええええええええ!!」
まだ変貌はしていない。なにかに変身する前に潰す。
ヒートナイフを突出する。
正面から突入してくる赤い化け物にヒット。手応えはある。
だが、
「な、に!?」
ヒートナイフは受け止められていた。いや、正確に述べるなら止められてはいない。赤い化け物はヒートナイフを掴んで後退していた。
改めてそれを見る。体長は7メートルほど。外見は手足の長い猿のよう。
赤い猿がニュッと顔を上げて、タキオンの頭部を見る。
「っ………!?」
ゾクッとした。
赤い猿は、微かに笑っているように見えたからだ。
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