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銀の髪の少女B07

「ひな」


「そうだよぉ」


「しぇり」


「う、うん。そうそう」


「ゆり、ん?」


「上手よぉ」


「あ、いり」


「正解だよ。ライラ」


 食堂に集まった面々に、改めてライラのことを紹介する。名前を決めて、それをライラ自身が受け入れたことで、コミュニケーションも円滑となる。


 ところがそこで困ったことがひとつ。シーナがやらかしてくれた。


 あのイカれポンチハムスター、女子の名前と顔を教えていなかったのである。


 ネームドキャラクターにして、重要な人物を自分の化身か、第2の腐女子にするべく英才教育を施していたもんな。ライラではなく自分のハンドルネームたる「腐LOVE雄(ふらぶおす)」と命名しようとしたくらいだ。させねぇけどな。


 ライラ凄まじい学習能力を有しているがゆえ、顔を見て名前を聞けば1回で覚えてしまう。


 女子たちを順番に紹介し、ハナたちも自己紹介を済ませると、では次は男子の顔と名前を覚えてるかな大会に発展する。


「そーた」


「うん」


「はー、もん」


「おう」


「あれ、ん」


「よ、よろしくね」


「えーす!」


「俺の時だけ気合い入ってんなぁ」


「こうきゅんさいこー! ふぉー!」


「昨日より悪化しているだと!?」


 コウにとっては気の毒なことばかりだが、ライラをイカれポンチハムスターと24時間以上ともに行動させた影響だろう。あとで教育的指導を行わなければ。


「ライラは綺麗な髪をしてるのねぇ」


 ユリンがライラの髪に触れて感心する。


「ねぇ、エー先輩。ライラちゃん、これからどうなるの?」


 ヒナが尋ねる。


「一応、難民として収容したから、どこか安全な支部で降ろすって決定が出てるよ」


「けど安全な支部つったって、ここらじゃもう無いんじゃないっすか?」


 ハーモンの意見に、全員が首肯する。


 そのとおり。原作でも中国支部で拾ったライラだが、日本支部なんてとっくの昔に壊滅しており、歴史からその名を消した。


 ゆえにアメリカ支部で降ろすことを予定していたのだ。かなりの日数がかかってしまうことになる。


「アメリカ支部で降ろすことになるだろうな。それまで仲良くしてやってくれよ?」


「別れが悲しくなりますね」


「………そうだな」


 アイリがボソッと呟く。


 俺は、どう答えるべきか迷った末、それとなく肯定した。


 ライラを巡って起こる悲劇は、ソータとアイリにも降りかかる。


 それこそ修復不能にも思えるくらいの溝ができてしまうほど。第2クール序盤では、ソータとアイリは寄り添っていた。それが悲劇によって再び引き裂かれてしまうのだ。


 させない。させてなるものか。


 俺はまた背負ってしまった。すでに常人では背負いきれないものを。


 シーナは多分、気付いてる。俺が異世界転生したとしても、ライトノベルや漫画でよく見る、なんでもできる万能であり最強の主人公には───絶対になれないことを。その器ではないことなど、俺が一番よくわかっていた。


 どう努力しても、足掻いても、凡人なのだ。


 タキオンを受領し、パイロットチームの副隊長になって、尉官となったとしても。全員から一目置かれるようになったとしても。


 俺は、どこまで行っても凡人だ。


 覚醒なんて使えない。ソータのような天才でもない。どうしても不足している部分を機械で補っているだけの、平凡な男なのだ。


 それでも推し活をやめようだなんて、一度も思ったことはない。なにをしても推しの幸せを掴む。


 そのためには、ライラを巡る抗争だって勝ち抜いてみせる。


「───おじいさんと、おばあさんは、幸せに暮しましたとさ」


「しあわせに、くらし、た? しあわせ? しあわせ………なぁに?」


「うーん。とっても嬉しいってことだよ」


 ヒナはサフラビオロスにいた頃から、幼い子供たちの相手をしていたこともあり、腕の端末に絵本をダウンロードすると、ライラに読み聞かせをしていた。


「とっても、うれしい………ライラ、ひな、いっしょ。うれしい!」


「うん。私も嬉しいよぉ」


 思わず笑顔になってしまう光景だな。


 本編では、こうなることはなかった。ライラを教えていたのはアイリで、ソータたちはどう接していいのかわからなかったからだ。


 それが今はどうだ。第1クールで死ぬはずだったヒナとコウがいる。全身に傷を負ったアイリが五体満足でここにいる。


 これこそ、俺が思い描いた、ヒナの言う「幸せ」そのものの構図だ。


 俺はテーブルの端に座って、しばらくヒナとライラを囲むパイロットたちを見ていた。シドウはいないので12人のパイロットたちが、仲良く過ごしている。


 こんな時間がずっと続けばいいのにな。なんて思ってしまうくらいの、至福に満ち溢れる。


 俺は凡人だが、それでも凡人なりに足掻いて這い上がって、傷付きながらもやり遂げたことは、間違いではなかった。そう思えるようになれた。


「おっと。もうそろそろ時間かな。みんな、シミュレーションルームに戻らないと。シドウ隊長から休憩は30分くらいにしておけって言われてただろ。ライラもメディカルルームに戻すよ」


 うっかり制限時間があることを失念していた。


 それを告げると、案の定女子陣から「えー」と抗議の声が上がる。男子たちは渋々と、ナイアたちは苦笑しながらヒナたちを立ち上がらせ───



「アッ………!!」



「ライラ!?」



 ライラが一際大きな声を上げ、痙攣したあとにテーブルに突っ伏した。全員で囲む。


「どうした! おい、ライラ!」


「具合が悪いの?」


「無理したのね。メディカルルームに連れて行かないと!」


 慌て出すコウ、シェリー、キルカ。


 しかし、これをただの体調不良だと断定するには、少し違う気がした。


「オゥ………キ………ァ………」


「おいしっかりしろ! ライラ!」


「ダメだハーモン! 強く揺すってはいけない!」


 微かに奇声を上げるライラが、頭を抱える。たまらずハーモンが手を伸ばすも、ハナによって防がれる。


 なんだ。今の声は。人語ではない。なら───


《ハルモニ。今の、なんだ?》


《シビリアン・ライラより、微弱な高周波が検出されました》


 高周波だと?


 人間の声帯で出せるものなのだろうか?


 いや今はそれよりも、なぜ彼女が高周波を出し、これほどまで怯えるのかの原因を特定しなければならない。


 なぜライラが怯える?


 彼女はアンノウンが人類を学習するために、人間を模して作られたスパイだ。その過程で寝返って、人間側につくことになる。


 だが今はそれを抜きとして、別の可能性を模索する。


 ライラはアンノウンだ。人間の体内構造をほぼ完璧に模しているが、アンノウンであることに変わりはない。


 ではアンノウンがここまで恐怖するものといえば?


 恐怖───敵対する関係の戦力から、攻撃を受ける。あるいは抗争により出てしまう被害への恐怖。


 抗争。戦う。アンノウンと人間?


 違う。アンノウンと人間は戦い続けた。この艦だってアンノウンと戦うために作られた。


 もし人類との抗争に恐怖しているなら、この艦に乗せられた時点で発作的ななにかが起きても不思議ではない。


 つまりこれは、人類とアンノウンではなく、アンノウンが敵対する第3の───




「ッ………艦長!! 戦闘体制に移行してください! 奴が………赤い化け物が、近くにいます!!」




 俺は端末でクランドへアクセスし、大声で非常事態を宣言した。


 その直後だった。


 いよいよ海へと進入するグラディオスを、途轍もない振動が襲った。


たくさんのブクマ、リアクションありがとうございます!


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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