銀の髪の少女A01
珍しく展望デッキに足を運んだ男がいた。
漆黒の特殊強襲特装艦グラディオス級二番艦。通称アリスランド。
内部構造は兄弟艦のグラディオスと瓜二つで、展望デッキも同じ場所にあった。
「第13話が終われば………ふん。第14話か。撤収させた工作員どもの報告は最悪だったな。やはり特定の条件が揃わないようでは、我が艦のクルーの前にあの少女は現れないか」
アリスランドのすべてを手中に収めた少年、若すぎる艦長代理、ビーツ・クノこと楠木美壱は、漆黒に染まった強化ガラスの向こうを見やり、そのガラスに映る自分の顔に焦点を絞ると、薄く笑った。
「ならば、くれてやる。前もってこちらで回収できれば、小此木への嫌がらせと混乱になるかと思ったが、グラディオスでなければ現れないようであれば仕方ない。………それにしてもだ」
ビーツは脳内チップで調査報告書を再びダウンロードして、すべてを一瞬で読み取る。
「中国支部の支部長も、案外やるじゃないか。お陰でこちらの後手に回るしかないどころか、あんなオンボロガリウスだけで防衛を成立させるとは。駆けつけたグラディオスからの温情も狙っているのだろうが、それ抜きにしても能力のみなら評価はできる。あの男、クズではあったが戦術を組み立てるのもうまい。ふっ。惜しいことをした。あの時、脳を摘出してやればよかったかな………」
ビーツは不敵に笑う。
隔壁をロックして、愛人さえ出入りを禁止にした展望デッキで物思いに耽る。その発言は、とてもではないが愛人らに聞かせてはいいものではなかった。
同時刻。灰色の空を降下する戦艦を映すモニターを見ていた男がいた。
広い部屋のなかで、男はその白い戦艦───グラディオスを見て、ニチャァと笑みを浮かべるのだった。
すべてはこの時のために組み立てた。この機を逃すはずがない。
「来い………来いよ。クランド。俺はここにいるぞ………そしてすべてを手にした時、俺を見下したあの男に………ふ、ふふ………復讐の始まりだ。絶対に後悔させてやるぞぉ」
狂気に塗れた笑みは、途切れることなく、バリアの外側に作るしかなかった、廃墟に囲まれたスペースに着陸したグラディオスをいつまでも凝視していた。
予想はしていたが、廃墟だった。
見渡す限り、廃墟。その奥にも廃墟。あとは瓦礫。
かつて中国の首都として名を馳せた北京が、こんな悲惨なことになるなど、私は想像すら───いや、アニメで見たから知ってはいたのだけど。こうしてまじまじと観察するのは初めてだから、臆してしまったんだな。
「………大丈夫だ。なにが来ても守ってやる」
「あっ、う、うん! 頼りにしてるからね」
んぁあああ脳がトロけるぅうう!
もう、あのモブオスを笑うことはできねぇな。私も最推しキャラと交際してしまったんだから。
グラディオスクルーになる前後で、ドイツで何度かデートしたり、体を重ねてきた。最推しキャラたるコウきゅんには私のすべてを捧げた。私の初めても。すげぇ痛かったけど気合いで耐えた。その代わり、コウきゅんのお尻の処女をもらおうとしたけど、涙目になって逃げられて、それ以降もまだ頂戴できてないから、いずれ機会があれば奪うつもりである。
さて、そんなコウきゅんとせっかくふたりきりに───なれていないんだけど、気分はデートのつもりで、腕を組んで歩く。景色なんて気合いで妄想という名のフィルターをかければ、どうとでもなる。おしゃれなパリの大通りとか。日本の桜並木とか。………匂いはどうにもならねぇけど。
巨人とハムスターみたい。と以前ドイツ支部で同期の整備士野郎がほざいた時には、股間を蹴り潰してやった。あいつは私の予想ではドマゾだ。きっと喜んでる。蹴られてからも涙と汗と泡を吹いてビクンビクンと痙攣するほどだったし。
そして、こうしてコウきゅんとデート………ではなく、そんな気分で歩く北京の市街地は、廃頽の限りが尽くされていて、グラディオスから降り立って30秒でメンタルにきた。気合いではどうにもならなかった。
「………あ、車が来るよ」
ヒナとかいうメスがほざく。
特に興味のないキャラだ。胸がマジで大きくて顔が可愛いだけ。羨ましくも………ぐ、ギギッ。おかしいよなぁ。なんていうか、名前からして日本人と外国人のハーフみたいなんだよなぁ? 髪の毛の色がツッコみたくなるくらいおかしいけどアニメの世界なんだからツッコんだところで無駄だけどさぁ。
それがなんでさぁ。私とほぼ同じ設定なのに、胸がこんなに差があるんだろうねぇええ?
あれか? もしかして、これが女子力? 女子力とかいう未知なパワーがこうやってスタイルに現れるとかぁ?
はは。ふざけんな。
「みんな、あまりグラディオスから離れないようにな。シーナ。こいつらを頼んだぞ」
「………あいよぉ」
私の隣をエースとかいうモブオスが通る。
同じ転生者として………同い年にして、大きな差がついた。
エースはみんなを。私は推しキャラだけを。そうやって選り好みして贔屓するような態度を取らなかったから、エースはみんなから尊敬されている。
なんだか悔しい。エースの方が先を見通している。けれど、そんなエースが役割分担と称して、私にも仕事を与えた。
第14話「銀の髪の少女」は覚えている。作業用BGMにしたこともある。困惑するソータきゅんがマジで可愛かった。
その流れが崩れないようにキープしろってんだろ。
エースが不安視している要点はいくつかある。渡されたメモ用紙にもそれが書かれていた。
原作にない展開。それが敵味方問わずして発生しているということ。
本当は、今私が立っているポジションこそ、エースが立ちたかったのだろう。でも尉官となって仕事が増えたから、変化してしまった物語の原因を確かめる立ち回りをすると選んだ。そこは素直にすごいと思う。もう、あいつがやっていることは推し活の域を超えていた。
多分、それはこれから本格的に激化する戦争に備えるためであると同時に、私にも間接的にだが因縁がある、アリスランドの艦長代理をしているビーツ・クノとかいうクソ野郎に、負けたくないからでもある。
それを考えると、私は思慮も浅く、思考が幼かった。
少なくとも、私が知る限り、エース・ノギ、いや小此木瑛亮という男は、ライトノベルでよくある転生したらチート能力をもらって無双する主人公ではない。その器でもない。
それでもエースは悲観せず、自分にできること以上の働きを発揮して、今のポジションにいる。
「なんだか………悔しいな」
「なにか言ったか? シーナ」
「あ、ううん。なんでもないよぉ」
コウきゅんの大きなおててに、私の指を絡めると、コウきゅんは可愛いくらい照れているのを隠そうとした。
今、こうしてコウきゅんという私の最大の推しキャラがここにいるのも、エースのお陰なのだ。
本当、悔しくなるねぇ。
それなら、やってやろうじゃんか。
あのモブオスにできて、私ができないなんてことは、ない。
私だって転生者だ。だったら、コウきゅん含めて推しているオスたちを、ついでにメスどもも、この第14話の最善へと導いてやるよ。それをエースに教えてやるんだ。
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