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再起動B05

 甲板の上に立ち、すぐに飛び立てるよう警戒を続けること20分。クランドから『もういいだろう?』と指摘を受け、俺は渋々グラディオスのハンガーへと降下した。


 グラディオスの前方へ飛翔し、減速。相対速度を合わせ、開いたハッチからカタパルトに降り立つ。カタパルトにも着艦システムの一環として天井にクレーンがあり、タキオンの肩を掴むと懸架され、ハンガーの内部へと戻されるのだ。


「う、わぁ………」


 俺は、できるならもう1回発進したくなった。哨戒を言い訳にして。


 ハンガーにはパイロットがまだ勢揃いしていて、大半が不満気な表情でタキオンを見上げていた。


 で、クレーンがタキオン専用のブースに機体を固定すると、パイロット勢は断固としてそこに居座った。意地でも俺が降りて来るのを待つつもりだ。


「お、おやっさん。エマージェンシー。エマージェンシー。あいつら退けてくださいよ。ほら、いつもの調子で怒鳴ったりして」


『馬鹿言うんじゃねぇよ。こいつら連れてかなかったのお前じゃねぇか。自分でなんとかしな』


 くっ………普段はなにかと気を遣ってくれるカイドウも、こういう時は無力になりやがるんだから。


 けれども、結局は同じだ。もうすでに離陸してしまって、隠れられる場所も限られてしまっては、ハンガーから全員を追い出したところで隠れんぼと鬼ごっこもできやしねぇ。すぐに発見される。


 どうせ吊し上げられるなら、早いとこ済ませて休みたい。次の戦いは目前だ。


 コクピットハッチを開いて、ワイヤーの先端に備えられたフックに片足を乗せ、降下する。


「う、わぁ」


 近付けば近付くほど、迫力が顕著となる。恐怖したベテラン整備士でさえも近寄りがたい空気。さながら、水流から突き出る岩のよう。


「エー先輩? 私たちを出さず単独出撃するなんて………これじゃ、私たちの教育が足りないみたいじゃない? そうは思わないのぉ?」


 うわぁ。ユリンがブチギレてる。超怖ぇ。


 いったいどうしろってんだよ。こんな人外魔境に住う化け物と化した3人を筆頭に、憤る後輩たちの怒りを、どう鎮めろと?


「あー………コホン。まぁ、なにもなかったんだしさ。良かったじゃん」


「良くないよね?」


「………はい」


 ソータもかなり怒ってる。いつもと迫力が違う。


 誤魔化すべきか、異なるべきか。


《………ハルモニ。どう判断するよ?》


《特務の緘口令は発生しておりません。その詳細を説明するのも手段のひとつかと》


《いや、でもさ。タキオンの映像って記録できないようになってるじゃん。あれを口頭で説明するの、かなりきついぞ?》


《確かに、タキオンの映像記録、画像記録、音声記録は抹消済みです。しかし例外がひとつあります。輸送機の映像記録です。それはドイツ支部に返却する前に抹消されますが、キャプテン・クランドの命により、保存されております》


《あ、そっか。ならそれをダウンロードしてくれ。最後の戦いのでいい》


《イェス。メカニック・エース》


 思わぬ抜け道を発見した。


 輸送機はドイツ支部のものだし、映像記録を抹消すれば返却時に問題は発生しないし、それを保存するなとは言われてないものな。


「ねぇ? 聞いてるの? エー先輩。私たち怒ってるんだよ?」


 ズイ。とヒナに詰められる。その大きな胸が俺の胸の下に押し当てられ、広がるほどの距離感。至福と罪悪感を覚える。


「聞いてるよ。今、ちょっとハルモニに法について確認を取っていただけだから」


「………法?」


 ヒナの眉根が寄る。怒ってるヒナも可愛い。抱きしめたくなるのをグッと我慢する。


「みんなが怒ってるのも確かだな。俺も同じことやられたら怒る。だから、なんで俺が単独で出撃したのかを説明するよ。法の確認ってのは、規約とかに背いてないかどうか。結果、問題ないってわかった。見せてやるよ。ローマで俺がなにと戦ったのか」


「え、それって大丈夫なの?」


「なにも言われてないしな。ということでおやっさん。ハンガーのメインモニター借ります!」


「あんましショッキングなもん見せるんじゃねぇぞ」


 カイドウはそこまで驚いていない。ということは、すでに輸送機が記録した映像をクランドとともに見たということだ。道理で、クランドもカイドウも、俺の単独出撃についてうまく合意してくれたわけだ。


 ハンガーのメインスクリーンは巨大だ。ミーティングルームよりも大きい。


 そこにダウンロードしたばかりの映像を流す。音声はない。ただの映像記録。


 ビーツと再会した日のことだ。


「と、まぁアリスランド艦長代理が乗ってたタキオンもいて、俺はその艦長代理にこき使われるだけのパシリになったわけだ」


 メインスクリーンを見上げるパイロットたちに説明する。いつの間にかシドウもいた。整備士たちも興味があるのか、大勢が足を止めて見入っている。情報の共有をするため、カイドウが許したのだろう。


「問題はここからだ。このクレーターの底から………ああ、出てきた。この赤いのが伸びてきたんだな」


「なにこれ………アンノウンを食ってる?」


「アンノウンの敵なんですか?」


「少なくとも、第三勢力って考えるのが妥当だろうな」


 赤い化け物が巨木と化したところまで流すと、ソータが呻き、シェリーが質問をする。それが合図となり、多くの質問を受けて、丁寧に答えた。


「けど、それが本番ってわけじゃなかった。一旦冷やして封じたまではいいけど、その数日後に復活。タキオンを侵食して学習。………最終日に、この形態となった」


「赤い………タキオン!?」


「そうだ。半端なく強かった」


 最終日は輸送機が戦闘に巻き込まれないよう遠くに退避させた影響で、望遠カメラでの映像記録しかない。画質はそこまで良くはないが、ギリギリで各々がなにをしているのかがわかるくらいの記録にはなっている。


「なんていうハイマニューバ………エース副隊長は、本気を出すとこうも速く飛べる………いや、これがタキオンか。黒いタキオンも赤いタキオンも、化け物じゃないか………」


 映像記録に、ハナは絶句しっ放しだった。


 キルカ、ナリア、マイアも同様。彼女たちはドイツ支部では中堅のパイロットで、ガリウスにも慣れているだろうが、タキオンでの戦闘はガリウスFとは別次元だ。望遠カメラでも姿を捉えられず、軌跡のみとなっても、その具体を想像しただけで恐怖したのだろう。


「よく………こんな敵を相手に………また変化しただと!?」


 コウは叫んでしまうほどの衝撃を受けた。


 赤いタキオンを追い込むと、より化け物へと変貌したからだ。


 その後、オフェンスとディフェンスを分担し、推進力を生み出すスラスターを潰して海に叩き落とすところで映像が終わる。


 もう、誰もなにも言えなくなっていた。


 俺のタキオンを整備する音だけが響く。


「………ま、というわけだ。この赤い化け物を海に落とすために必要だったキャパシティは70パーセント以上。俺もギリギリだった。タキオンでなければ勝てなかった。そういうのが、さっきは出るかもしれなかった。仮にナンバーズを出すとしても後出しの方がいい。しかも海はかなり遠いからな。………みんなを死なせたくなかった。今後、こういうのが出てきたら俺がやる。それしか勝機がない。………わかってくれよ?」


 勝てたのが奇跡だったとしても、犠牲を出したくなかった。


 俺はこの空気が耐えられなくて、メインモニターを消して、ハンガーを出た。


 誰も追っては来なかった。


ブクマ、リアクションありがとうございます!

次回は19時頃に更新します!


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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