再起動B06
極度の緊張、そして用意のなかった緊急出撃。これにより、俺の肉体はかなりダメージを受けた。
「ベルトだけじゃ、ダメージも大きくなるか………」
「そりゃそうだ。あんな化け物にパイロットスーツ無しで乗れば、筋肉を傷めるだろ。ほら、脱げよ」
「シーナ?」
更衣室に入り、救急セットから湿布を取り出す。どこが痛むとかではない。身体中が痛い。タキオンのフルスロットルで内臓にも負担をかけた。ベンチに座ると治療の手が止まってしまう。今すぐ寝転びたくなるような疲労が襲った、その時。ドアをスライドさせてシーナが現れた。
「本編でも異常だったタキオンが、グラディオスにあるだけでも異常でさ。こうして整備士やってると、想像の5倍以上は化け物だって痛感したよ。パイロットスーツも無しで乗るなんて正気とは思えない。よく無事に帰って来れたな、お前」
シーナだからこその見解に、俺は弁明の余地すらない。
渋々とインナーシャツを脱ぐと、シーナは背中の方から診る。
「うわ、これ………酷い内出血だな。湿布で治るとは思えないけど」
「あー、今の俺、治療ポッドにジャブジャブ漬けられた影響で、体内にナノマシンを飼ってるんだよ。培養してるって言った方がいいのかな? これくらいならすぐ治るから。気にせずやってくれ」
「ナノマシンって………お前、人間やめたの?」
「脳死してる時点で、もうほぼ人間とは呼べないかもしれないな」
「イカれてるよ。お前も、タキオンも」
「知ってる」
シーナは湿布を貼ったり、包帯を巻いてくれる。ドイツ支部で習ったのだろう。慣れていた。
「………あんな化け物、本編じゃ見なかった。いったいどういうことだよ」
グラディオスに乗ってから、シーナにとっては初めての経験ばかりだ。尋ねるためにも、丁度ひとりになった俺を追ってきたのだろう。
「本編には出なかった敵。製作陣でさえ予想もしなかった敵。………うまいこと音声記録が無くて助かったよ。あの赤い化け物、俺たちの脳内チップに直接通信しかけやがった。………転生生活は楽しいか? ってさ」
「な、なんだよそれっ………まるでお前の正体を知ってるみたいじゃんか!」
「わけわかんねぇよな。………ああ、そうだ。まだ言ってなかったっけ。アリスランドの艦長代理のこと」
「う、うん?」
困惑するシーナを、さらに驚愕させてしまうだろうが、グラディオスのクルーとなり、転生者として協力関係になった以上、情報の共有を惜しむつもりはない。
適切な時間だと判断し、俺の因縁のことについても教えることにした。
「アリスランドの艦長、覚えてるか?」
「確か、テンプスとかいうデブなおっさんだったな。クランド艦長の同期だったっけ。でも代理ってどういうことさ。テンプスはどこ行ったの?」
「死んだ………というか、今の艦長代理が殺したらしい」
「殺した!? なんだよそれ………じゃあ今、アリスランドは………」
「ビーツ・ノギ。前世の名前は楠木美壱。俺が通っていた大学の同期だ。サークルで知り合った。俺が文系で、あいつは理系。楠木は成績優秀で人望もあった。女子からモテた。サークルの同期と先輩の女子で、抱かなかった女はいないんじゃないかって思う」
「………クズじゃん」
「まぁな。クズじゃなければ親友になりたいと思った。女遊びが激しくなければ完璧だった。アニメ好きで、天破のグラディオスの大ファン。理系の観点からメカニックの考察ができた。………でも」
「転生したら敵艦だった、と?」
「………ああ。で、俺がグラディオス側にいることを恨んでるらしい」
「じゃあ、お前と楠木っ奴は、もうお互いが転生者だって知ってるんだ?」
「ああ。そうなる」
「うわ………知り合い同士で戦うとか、泥沼だな。楠木って奴もスゲェクズなのな。女遊びが激しくて、テンプス殺して自分が艦長になるなんてさ」
「それだけに飽き足らず、アリスランドの女全員を囲って、本物のハーレムやってるよ」
「は? 死ね」
女を道具や性欲の捌け口としか思っていない野郎はクズだ。俺もそう思う。憤ったシーナは、グリッと俺の肩を掴んで握る。かなり痛い。
でもシーナだって、推しキャラ以外はどうでもいいスタンスだし、クズ度は低いがちょっと似てるところがあるんだよなぁ───と述べたら殺されるかもしれない。
「………ちょっと待て? 楠木………美壱? どこかで聞いたような………あーっ! 思い出した!」
「うるさっ………耳元で叫ぶな」
「楠木美壱っていや、私が勤めてた工場の新卒ちゃんを合コンでお持ち帰りして、散々遊んだ末に捨てたクズだ! うわ、偶然ってあるんだなぁ。同姓同名かもしれないけど、話し聞く限り100パー合致してるじゃん。こりゃあ、ビーツってクズはダメだな。許せない。その新卒ちゃんさ、私と同じ嗜好しててさ。初めて職場で意見が合って、可愛がってたのに………それからショックで塞ぎ込んで、辞めちゃったんだよね。ハァ………仇を取らねえと」
なんか、本当に偶然ってあるんだな。俺も初めてだ。こんなところで繋がりがあったのは。
「お前もガリウスに乗るつもりか?」
「馬鹿言うなって。自殺したくないよ。だから拘束するまではお前に任せる。捕まえたら、私が一発ぶち込む。なんならお尻にデカいのをくれてやるよ! あの子の痛みを思い知らせてやる!」
「お、いいね。是非ともやってやれ。………話が逸れたけど、さっきの映像で見せた赤い化け物が、あれで終わり………ってこともないかもしれないんだ。考察もクソもないけど、厄介なことにならないように。だからいざって時は、みんなを頼みたい」
真剣な顔をして振り返る。
「馬鹿言うなって。私にお前と同じことしろっての? 命が何個あっても足りないだろ」
「別に、戦場に出ろって言ってるわけじゃない。コウが好きなんだろ? なら、お前はお前の仕事をしながら、それとなく方向性を示してやればいい。俺だって最初は手探りで、全員に疑われて、村八分になったり、メンタルブレイクしたけど………そこまでしなくていいから。これは俺たちにしかできないことだ。だろ? ………あ」
「うん? あ」
その時だ。更衣室のドアがわずかに開き、複数の目がトーテムポール状に重なっていることに気付いた。
「………随分と仲が良さそうねぇ」
やっと俺を追ってきたユリンたちだった。それとコウまでいる。
俺たちが気付くと、ドアが開いて4人が男子更衣室に入った。
話しを聞いていたにせよ、かなり終盤だろう。更衣室のドアは分厚く、密閉されているし、会話程度の音が外に漏れるとは考えにくい。開かなければ聞こえはしない。転生者云々の話題は知られずに済んだだけでも、御の字だ。
「ま、教師と生徒の仲っていうかな。やましいことは誓ってしてないよ。お前たちと、コウに嫌われたくないし。そうだろ? シーナ」
「ウ、ウン。ソウダネ………」
シーナめ。まだ疑われる目に慣れてないからか、緊張するあまり変な声音になってやがる。そういうのが余計な疑問を浮上させるというのに。本当になにもしていないのだから、胸を張ればいいものを。それとも張れる胸がないってか? あ、なんか睨まれた。まさか俺の思考を読んでいるだと?
その後、俺はヒナたちに抱えられ、シーナはコウに連れ出され、問答無用の時間となったのだった。
ブクマ、リアクションありがとうございます!
ラストは21時頃を予定しております。
久々に13話分を書きました。途轍もない疲労感ですが、忘れてはいけませんね。ラストと、明日の分を書かなければならないということを! 最低でも6000文字………やってみせます!
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
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