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再起動B03

『グラディオス前方の山間にて、火事を確認。生体反応は確認できませんが、アンノウンの出現が予想されます。各員、所定のポジションに配置してください。本艦は消火弾を放ち、山火事を防ぎます』


 人命はないが、山には自然があり、そこに住う動物がいる。そこら一帯が燃えてしまえば、どんな影響が出るかもわからない。事前策として、グラディオスは山火事の消火活動を決定した。


 シミュレーションルームにいたクルーが騒然となる。ひとがいない今、山火事は自然発火とは考えられもするが、もうひとつの可能性の方がどうしても高くなる。アンノウンだ。


 アンノウンは高熱の塊である。その熱を浴びた山が、燃えないことなどないのだ。


 アンノウンが出撃したとあらば、パイロットはガリウスに搭乗して殲滅しなければならない。


 俺は艦外カメラにアクセスし、外の状況を探る。


 確かに遠くの山間から出火し、黒煙を上空まで上げている。放置すればいずれ、炎は山を覆い尽くすだろう。


 だが、望遠カメラで捉えた映像は、なにも山火事だけを見ているわけではない。


 それは、ほんのちょっとした偶然だった。


「───ッ!!」


「エー先輩?」


 息を呑む男をヒナに聞かれた。


「え、どうしたんすかエー先輩。厳つい顔してるっすよ?」


「汗も凄いですし。もしかして、体調悪いんですか? 出撃なら私たちだけで行いますよ」


 ハーモンとシェリーが尋ねるも、答えられる余裕などない。


 ()()()()()があったのだ。地面が深く沈没するほどの。現地の地図を照会する。山ひとつが消えるほどの範囲。


 間違いなかった。


 意識を肉体に戻す。腕の端末に向かって叫ぶ。すでに通信をカイドウに繋げていた。



「おやっさん! タキオンの出撃準備を! 2分で向かいますッ!!」



『お、おお? まだアンノウンが出るって決まったわけじゃねぇだろ。てかなに興奮してんだお前?』



「ローマでの特務で遭遇した、ヤベェ敵がいるかもしれないんですっ! あれはタキオンレベルじゃないと倒せない! ロングソードをありったけハードポイントに接続し、左腕のヘビィガンのマガジンをロングタイプに換装、右腕にはヒートチェンソーも接続を! もしあの敵だったらマズい! タキオンで時間を稼ぎます! 下手をしたらグラディオスが沈む!!」



『そんな敵が………わかった! 2分でオーダーどおりの換装を行う!』



 カイドウは優秀なメカニックだ。俺の要望を聞き漏らさず、きっと出撃時にはすべてが完了している。


 俺が豹変したように怒鳴ったため、シミュレーションルームはシンと静まり返っていた。


「なにをしている! パイロット以外は配置につけ!」


「は、はいっ!」


「了解した!」


 改めて思うが、少尉だからこその命令権というやつだな。


 階級が下の人材相手ならともかく、整備科と砲雷科のベテランにも怒鳴ってしまった。


 それでも不満を漏らすことなく、ダッシュでシミュレーションルームからポジションへ移動していく。


 改めて、周囲を見る。


 シドウ以外の12人のパイロットがこの場に揃って、唖然としながら俺を見ていた。


 みんなになにか声をかけるべきなのだが、相応しい言葉が見つからない。2分で行くと言った手前、遅れるわけにもいかない。俺は黙って踵を返す。


「ま、待ってエー先輩! 待ってったら!」


「出撃とはどういうことだ!?」


「まさかとは思うけど、単独で行くつもりじゃないでしょうねぇ?」


 慌てたヒナを先頭に、パイロットたちが俺を追う。


「エー先輩! せめて、俺も一緒に行く!」


「ダメだ! パイロットは全員ハンガーで待機! これは命令だ!」


 初めて───ではないだろうが、感情的になって命令するのは初めてだな。


 そりゃ、ソータを同行させれば心強いのだろうけど。それはどうしてもできない。


「後方支援くらいできます!」


「いざとなったらグラディオスを守るのはお前たちだ! ローマで遭遇した敵は、タキオンよりもヤベェんだよ。お前たちまで失うわけにはいかない、うおっ!?」


 走っている途中で、左腕を掴まれて、強引に足を止められた。


 ヒナだった。目に涙を浮かべ、俺を睨んでいる。


「………死ぬ気なの?」


 脳裏には、あの赤い化け物の姿が張り付いて、どうしても離れない。


 ローマではもう1機、ビーツが駆る、アークの愛機たる漆黒のタキオンがいた。


 オフェンスとディフェンスが明確に分担されたからこそ討伐できた。


 その分担を可能にした機体こそ、タキオンなのだ。いくら改修したとはいえ、ガリウスGでどこまでやれるか。


 あの赤い化け物に蹂躙されるヒナの泣き声。死に様。絶対に見たくはない。


「死なない。でも、死ぬつもりでやらないと、勝てない。守るよ、お前たちを。だから行かせてくれ。………また後で会おうな」


 不安になっているヒナの頭を撫でて、額にキスをする。すると左手の拘束が緩む。その隙に抜け出して、ハンガーまで全力疾走した。俺を呼ぶ声が続くが、気にしていられない。


「おやっさん!」


「来たか! ってお前、パイロットスーツすら着てねぇじゃねぇか!」


「時間が惜しいので、このまま出ます!」


「………しゃあねぇ。パイロットスーツ無しとなりゃ、負担も増すからな。そこんとこ考えて操縦しろや。死ぬんじゃねぇぞ!」


「はい!」


 軍服のままシミュレーションをしたのが災いした。せめてパイロットスーツに着替えてからシミュレーションでハナと決闘をするべきだったのだ。


 それでも後悔している場合ではない。急ぎワイヤーに飛びつくと、それが巻き取られ、足がすくむくらいの高さまで上昇。


 整備士たちが俺を見上げて敬礼する。四号機を見た。シーナもそこにいて、敬礼している。


 これが事前に言っていた、有事の際だ。アイコンタクトを送ると、首肯が返る。


 タキオンのコクピットブロックのハッチが閉まる。ハンガーのコンソールで操作して、レイライトリアクターの回転は開始され温められていた。


 スロットにインターフェースを叩き込む。システムが起動。タキオンが俺の体となる。


 クレーンで懸架されるタキオン。巨大な隔壁の向こうへ吸い込まれるように収納されたその時、パイロットたちが駆けつける。


「おやっさん。他のパイロットたちは、敵の襲撃を受けるまで絶対に出さないでください」


『………わかった。お前ほどの男が言うんだ。信じる』


 ハンガーではカイドウに猛抗議するソータたち。隔壁が閉鎖され、完全に見えなくなった。


『エース。これはどういうことだ? 私は出撃を命じたわけではない』


 タキオンにクランドの通信が入る。最終的に、クランドに認めてもらえなければ、カタパルトは使えない。


「ローマ支部跡地で見た敵が潜伏している可能性があります。俺が調べ、潜伏しているようなら応戦します。グラディオスはその隙に退避してください」


『馬鹿な! きみを見捨てろと言うのか!』


「グラディオスが落ちたら本末転倒です! ………覚悟はできてます」


『っ………承知した。タキオンの発進を、許可する』


 クランドにとっても辛い判断だと承知している。でもやるしかない。


「エース・ノギ、タキオン。ブラストオフッ!!」


 タキオンは開いたハッチの向こうに、カタパルトを利用して飛び出した。


リアクションありがとうございます!

次回は13時に更新します!


作者からのお願いです。

この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!

誤字脱字報告、ご質問も大歓迎です!

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