再起動B02
「あら、副隊長。それにハナまで」
「どうしたの? こんなところで」
「もしかして喧嘩の続き?」
3人は遠慮なく尋ねる。
「ま。そんなところです。決闘するんですよ。俺たち。だから見ていてくださいね」
「見学してもいいの?」
「もちろん。ハナの実力を知った方が、キルカさんたちも今後のフォーメーションが組みやすくなるでしょ?」
3人のパイロットたちの名前は、キルカとナリアとマイナである。ドイツ人ではなく、他の支部から流れ着いた元難民だ。志願して軍人となり、パイロットとなるべく日々鍛錬に励んだという。
「へぇ。………ね、ねぇハナ? よく聞いて欲しいのだけど」
「アドバイスなら結構。タキオンとやらの機動性を言いたいのだろう? 私も予想はしているが、決して勝てない相手ではないはずだ」
「う、うーん。最初はみんなそう言うのよ? 私たちだってそうだったし。でもねぇ………」
マイナは俺とハナを交互に見た。
ドイツ支部での最初の合同演習で、俺は実際にタキオンの動きを彼女たちに見せた。ゆえに異常性は痛感しただろう。それをハナに教えようとしているのだが、本人が拒絶していては、どう伝えようかと悩むのも仕方ない。
「心配感謝する。是非とも見ていてほしい。私は第七世代ガリウスGに乗れることが嬉しいんだ。どれだけピーキーな機体だろうと操ってみせる。その上でタキオンを倒してみせる!」
やる気に満ち溢れている子だこと。
それぞれがコクピットブロックを模したカプセルに搭乗する。俺はタキオン専用に作られたカプセルに乗るしかない。操縦桿の下にスロットがあるタイプだ。人工皮膚を外して、義手をインターフェースとして挿入。脳内チップを介して、システムに神経接続を開始。
「フィールドは大気圏内。山岳地帯。制限時間は10分。弾数は無限。コクピットに被弾すれば負け。3ポイント先取すれば勝ちでどうだ?」
『異論はない。さぁ、やろうか副隊長!』
本気で来いと言ったのは、ハナだしなぁ。
意識が仮想現実へとダイブする。タキオンのレイライトリアクターの最奥部にある空間に似ているが、あれほど曖昧ではない。かと言って実機よりも負担はない。肉体への負担も半減以下。普段は設定は中央にあるメインコンソールで行うのだが、脳内チップを使えばオンラインで設定が可能。
仮想現実に現れるふたつの機影。タキオンと九号機。
コクピットにブザーが鳴る。
じゃあ、思い知らせてやるとしますか。
10分後のことだった。
「当たらない………だと………銃弾も、剣も………第七世代ガリウスGだぞ? 大気圏内装備、イーグルジャケットとかいう追加ブースターもあるのに………私は一度も………タキオンに、追いつけなかった………なんて………馬鹿な………」
「うんうん。わかるわかる。エー先輩のタキオンって、本当頭おかしいの。それを操縦するエー先輩も、ある意味頭おかしいの。ハナ姉ちゃんが愕然とするのも、当然のことだから。不安にならなくていいんだよ?」
俺とハナが決闘をするという噂は、あっという間に拡散された。キルカたちとシミュレーションの件で話していた整備士たちが情報を拡散させたのだろう。
昨日の夜から、俺とハナの因縁が噂として拡散されていたし、ならば決闘の結末が気になる───はずもないが、ハナがどんな反応をするのかと、パイロットや整備士、砲雷科の人間たちがシミュレーションルームに大挙して押し寄せたのだ。
結果なんて最初から知れたこと。
タキオンの圧勝。だって本気でやれって言われたんだもん。仕方ないよね。
ハナは豪語するとおり、かなりの実力者だった。本編でもガリウスG九号機に乗って暴れ散らかしていたくらいだ。オールマイティなヒナとは異なり、近接戦に重きを置いた戦い方。距離を詰められればロングソードが襲いかかり、防げばもう片方の手に携えたマシンガンで集弾を浴びる。そうやってアンノウンを確実に仕留める戦い方を好む。実際、ガリウスFでもそうやって戦ってきたのだろう。
愕然としたまま床に這いつくばるハナを、あまりの落胆ぶりに急戦を申し出たのかヒナが頭を撫でて慰めている。
「いや、頭おかしいとか………そういう次元じゃない………なんなんだ。あの挙動………ガリウスで可能とするのか? あんな使い方をすれば空中分解もあり得るのに………」
「確か、人間の骨格と関節をほぼトレースした上で、サブスラスターもナンバーズより上で………だからあんな動きができるんだと思うよ?」
「だとしてもだ。私の背後にピタッとついて飛ぶとか………恐怖だぞ。あれは」
「大丈夫。すでに隊長がその洗礼を受けてるから。ハナ姉ちゃんと同じ反応だったから。ほら、起きてハナ姉ちゃん。自信を無くさなくたっていいんだよ?」
「反応速度も馬鹿げてる………人間のそれとは思えない」
「それは昨日説明したじゃない。エー先輩はガリウスと神経接続してるから、操縦桿を操作するよりも速く操縦できるって。むしろ10分も戦えただけマシだよ」
「10分間、おもちゃにされてる印象だった………」
「あー………それはエー先輩の悪い癖だから、あとで叱っておくね。やるならさっさとやれって」
ジーッとヒナに睨まれる。
どうやら、やり過ぎたようだ。遠慮しないでいいって言われたし、どうせならハナがどこまでやれるのか試したくて、常にハナの九号機の背後に張り付いて挙動を観察する作戦は、ハナに予想以上のトラウマを植え付けたらしい。
「化け物だ………タキオンも、エース副隊長も………化け物だ………」
「それは同感かな。エース副隊長、ドイツ支部との合同演習で、こっちが100機以上いるのに単騎で勝ちに来たし。あれは私たちも怖かったなぁ」
「うんうん。ヒートナイフとヘビィガンだけで数秒でガリウスFを薙ぎ倒すんだもんね。それでいてタキオンはノーダメージだったし」
「100機を相手に単騎!? 馬鹿げてる………」
マイアとナリアがあの日のことを語ると、ついにハナは青褪めて、俺に本当の化け物でも見る目を向けてきた。
「………勝てない………あなたには、勝てない………」
「いや、タキオンのお陰だから。俺だって普通の操縦をすればハナに通用するかわからねぇし」
「そうだとしても、タキオンの性能をフルで発揮できるあなたのそれは、才能なのだろう。Eタイプを倒しただけはある………私の負けだ。これまでの無礼を、どうかお許しいただきたい。副隊長」
あまりにも不憫になってきて、勝者の俺までハナをフォローしてしまう。
ところがそれがとどめとなり、ハナは服従を示す。大勢のギャラリーが「おお」と沸いた。こうなるとはわかっていたけど、ハナが可哀想になってきた。せめて出入り口を封鎖しておくべきだったか。
「許すさ。だから顔を上げてくれ。俺は別に、ハナに服従してほしいわけじゃないんだからさ───!?」
言葉の途中で、シミュレーションルームにてアラートが鳴り響く。差し伸べようとした手を止め、顔を上げた。
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いつの間にか300話を突破していました。4ヶ月で300話書いていたのは初めてです。そんな私を褒めていただけると幸いです。
次回は12時に更新します。
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この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
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