再起動B01
ドイツ支部を出て24時間が経過した。
グラディオスはロシアを経由しモンゴルの上空を進み、そして中国へと入る予定である。
世界、地球は思っていたよりも広いもので、なおかつ連合軍に共有されているアンノウンが頻繁に出現する区域を回避すべく蛇行するようなルートを進んでいるため、かなりの時間を要してしまった。
雲の上を飛ぶグラディオスは、ようやく中国の国土の空域に到達した。
中国支部はやはり北京を中心に発展している。モンゴルから入っても相当な距離だ。
しかしあと数時間もあれば北京に到着するだろう。そこで戦闘が始まるのだ。
AパートならびBパートでは飛翔するグラディオスの描写は少なく、どちらかと言えば艦内に焦点が絞られていた。
ソータは半年間の療養で気力を取り戻し、食欲も戻った。次の戦いのために備える軍人としての自覚が芽生えたのかもしれない。
そのソータを中心に物語が進む。新たなキャラクターたちとの会話。第1クールから行動を共にした仲間たちとの会話。回想と苦悩。出航してしまったグラディオスの艦内で、変化しつつある精神と肉体に困惑する。
けれども負傷から立ち直ったアイリとの会話の描写も思ったよりも多く、距離感も近くなりつつもあった。あれを見た俺は昇天しそうだったね。スタッフへ感謝した。
けれども今、俺の度重なる努力の果て、ソータとアイリの距離は極端に近くなるどころかゼロなんだけどねグヘヘェ。
そんなことを思い出しながら廊下を歩く。やることが山積み過ぎて、どれから着手するべきか迷っていたところだ。それでいてイベントの進行の遅さに、もどかしさを覚える。中国支部に到着してからは怒涛の忙しさが予想されるため、暇を持て余すのなんて今のうちなのだと、自分に言い聞かせて誤魔化すので精一杯だ。
ところが、そんな俺の暇を打ち破るイレギュラーが現れる。
「エース副隊長」
「………ハナ」
昨日、俺を敵だと布告したハナが、通路の曲がり角で待ち構えていた。
グッバイ、心の平穏。内心で呟いて、俺は逃げ出さずにハナと対峙する。
「どうした? また殴りに来たか? いいぜ」
「殴りはしない。シドウ隊長に言われたとおり、先日パイロット全員の聴取を終わらせ、あなたのことを聞かせてもらった」
「早いな。そっか。それで、答えは?」
「ヒナの命を救い、なおかつ仲間の危機を救った。身を挺し、グラディオスクルーの命さえ守った。右腕を失い、脳死となってもなお立ち上がる。そんなこと………同い年ではあるが、とてもではないが私にはできない。私はあなたを勘違いしていた。あなたは立派だ。軍人として」
「そりゃあ、ありがとうよ」
「しかしだ。だからと言って、まだヒナのパートナーであると認めるわけにはいかない。肉体を維持するために肉欲に溺れるなど、言語道断だ」
そりゃ、そうだ。昨日、激昂するヒナへ述べた心境までは、俺の経緯を聞いてもなお、そう簡単に疑念を払拭できはしないし、すべてを納得できるはずもない。
「じゃあ、どうする? 俺を殴りたいなら、好きなだけ殴ってもいい。不敬罪には問わない。それで少しスッキリするなら、やるといいよ」
「いや。それをやると、本格的にヒナに嫌われる。これを矛盾………と呼ぶのだろうな。私はあなたを認めないが、ヒナに嫌われたくはないんだ」
「安心しろ。それが普通だ」
ハナは自らの多様性を理解しつつ、他人に押し付けることをやめたらしい。
本当に立派だ。自分がどうしたいか、自分がどうあるべきかを考えている。
誰しもそれで悩み、答えを得ようと努力する。そこで間違う行為といえば、自身の変化の代償に、他人を巻き込むこと。これをやってしまうと、他人から悪意だけを突きつけられてしまう。「私は私の理想のために働くから、あなたはそれに共感して、私と共に同じ理想のために働いてください」という身勝手な理論よりも「私はあなたの理想のために働くので、あなたは私の理想のために働いてくれませんか?」と持ちかけた方が、まだ印象はいいものな。
ハナはそれに一番近しいところにいる。俺に思想を押し付けようとしないのが証拠だ。
「そうか。………ならば、私はエース副隊長に決闘を申し込む」
「え………決闘? 悪いけど、俺そこまで喧嘩が強い方じゃ無いから、平等とは呼べないんじゃないかな?」
「近接格闘戦も悪くはないが、安心してほしい。平等であるため、機体を用いて───ああ、実際に搭乗はしない。シミュレーションだよ。そこで決着をつけたい。それならあはたも全力を出せるのだろう? 私は、私が愛したあの子を、私よりも弱い男に譲るつもりはないよ」
「へぇ。なるほど、そういうことなら応じさせてもらおうか」
ハナから向けられる敵意こそ変わらないが、悪意や嫌悪といったものは感じなくなった。
あくまで平等。シミュレーションなら結果がすべて。仮想現実ならば怪我はしない。実戦に影響のない配慮と妥協をしてくれた。
「全力を出してもいいのかな?」
「もちろん。舐めているのか? タキオンは実物を見せてもらった。普通のガリウスではないことは承知している。だが………これでも実戦経験は上だ。たかがFよりも速く飛べる程度で、私に勝てるとは思わない方がいい」
「へぇ。じゃあ、遠慮はしない」
「それでこそだ。副隊長。実は前々から興味があったんだ。私と同い年の、整備士上がりが駆るガリウスに。同年代にしてパイロットチームのサブリーダーに就任。コネもない。実力主義の縮図での成り上がり。そうして構築された過程。そのすべてがあなたの操縦にあるとすれば、シミュレーションでぶつかれば理解できるだろう」
これは………あれか。
ハナは本編でも本音でぶつかっていくタイプで、拗れそうになれば本気で喧嘩をして和解する性格ゆえなのかもしれない。
だからこそ彼女が愛するものを諦めるために、俺が実力で奪えと言って───はいないだろうな。未だ俺からヒナを奪う気でいる。
ならば、俺も本気でぶつかる他ないだろう。
「………艦長。シミュレーションルームの使用許可を願います。使用するのは私と、ハナ・ケビンレイ。ええ。一騎討ちの勝負です」
腕の端末でクランドに直接連絡を取る。尉官かつ副隊長であれば、ブリッジにメッセージを送るだけで申請を取れるも、ハナとの真剣勝負となるなら、クランドに直接連絡を取るべきだと思った。現に、クランドも俺とハナが昨日諍いを起こしたという報告を聞いているようで、重苦しい声で「承知した」と答えた。
「俺たちがぶつかるとなれば、観客も増えるだろうな。ギャラリーが賑わせるだろうけど、勘弁してくれな?」
「構わない。全員が見ている前で負かす」
「おお、怖い怖い」
肩をすくめながら歩く。
俺の先導でシミュレーションルームへと移動した。
ちなみに地球に降りてからは、すべてが重力に囚われるため、二重隔壁は常に上がっている。重力発生装置など無意味だ。区画を隔離する必要がない。
シミュレーションルームは、予備パイロットで賑わう───わけではない。
十三機のナンバーズのパイロットがすべて決定した以上、予備パイロットが意味をなさなくなり、ドイツ支部で各セクションに再配置された。
今は正規パイロットたちの訓練場として利用されているそこには、あの中堅女性パイロット3人と会話をしている整備士しかいなかった。
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