春のある日、
春。中学入学を目前とした、肌寒い朝。僕は彼女と公園に居た。僕より、少し背の高い、赤茶の髪を肩に揺らし、僕に微笑む彼女。それを受け流す僕。
ひょんなことから、ある山(今では消えた三上崎山)に二人で行った。確か彼女がこの街を一望したい、と言ったのだ。それぐらいなら、いいだろう、と僕は思った。
僕が自転車をこぎ、彼女が荷台に座る。何かの青春映画か、と思いながらも、僕は幸せだった。
山の頂上。一望できる街は小さく感じた。僕の家は街の中心から離れている。水瀬高校は歩いても2時間はかかる、そんなところに僕の家はある。
彼女が言った。
「普段広いと思う世界も、ちっぽけなものだね。でも、そんな中にも私たちはひとりひとり意思を持って暮らしている。今を生きようとしている。それって、素晴らしいことよね」
彼女は、たぶん、この日常が大好きで。愛おしくて。僕にはそれが喜ばしく感じられる。
「ね、キスしよっか」
唐突な、彼女の言葉。僕は固まる。
沈黙。その後、ゆっくりと動く僕。縮まる彼女との距離。そして・・・。
事件は帰り道。僕の後ろに乗っていた彼女があるものを見つけたのだ。洞窟。幼い冒険心と好奇心が僕らの歩を進める。引きつけられるように。体は奥へと向かっていく。何かが導くように、何かを追うように。奥への道には、謎の文様があった。文字にも似たそれを不思議に思いながらも、僕らの足は止まらない。
1時間は、歩いただろうか。光が先から零れる。僕たちは走った。走った先に。
いたのは・・・。
鎧神慨装。
そう、今、思い出した。何故、忘れていた。僕は一度、鎧神慨装を見ていたのだ。カイザリオンとは違う、鎧神慨装を。
スパークと共に、跳躍してきたそれは、僕らに紅く光る瞳・・・僕には血走っているように見えたのを、僕らに向けて。
ナツキが倒れた。
僕は彼女を呆然と見る。そして、よぎる数々の思い出。
山の頂上、誰も見ていない二人だけの世界で、キスする二つの影・・・・・・・。
世界が歪む。その瞬間、僕の世界はぼくを中心に崩壊していった。崩壊した世界には、僕と奴。
『その痛みを忘れるな』
響く声。
『過ちを、犯すな』
『彼女を失くしても、君は使命を果たせ』
『さもなくば、君自身が君の倒すべき敵となる』
『忘れるな、そして、刻め。己の運命を』
気づいた時には洞窟は無くて。僕もナツキも生きていて。でも、僕は彼女を殺してしまったのだと、思いこみ、彼女を自宅に送って、それから、僕は。
誰も寄せ付けないことを決意した。何よりも大切な彼女を傷つけないために。
永久に続く、螺旋に少年は閉じ込められる。その先にあるのは、絶望への誘い・・・。
夜剣 廻・・・主人公。高校2年生。17歳。身長は160㎝に満たない。趣味は読書。友人は皆無であり、孤独を貫き通している。カイザリオンの搭乗者にして、物語の鍵。今後、彼のたどる運命はいかなるものなのか・・・。




