第7話 契約って。
ちょうどダリアンたちが戻ってきたので、図書館へ行きたいとお願いした。
ダリアンとランと一緒に、図書館へ来た。
二人は黙ったまま、いつものように物語の本棚へ向かおうとする。
私は慌てて声をかけた。
「待って。今はそれじゃなくて……まけいけいやくについて書いてある本って、どこにあるの?」
二人は一瞬、虚を突かれたような顔をしたが、すぐに反応した。
ダリアンが苦笑いを浮かべる。
「オレ、そういうのは今まで避けてきたので……」
その横で、ランがすぐに一歩前に出る。
「こちらです。お嬢様」
案内されたのは、いつもとは反対側の本棚だった。
上には〔法律・契約〕と書かれた看板が掲げられている。
ランがその中から一冊を取り出した。
「フリージア様には、こちらが分かりやすいかと。」
表紙には、こう書かれている。
『さまざまな契約について』
(おー……なんて分かりやすい題名)
私はその本を受け取り、ページをぱらぱらとめくる。
隣でランが読んでくれた。
やがて――
【“魔誓契約の使い方”】という項目を見つけた。
そこには、こう書かれていた。
契約とは、絶対的な約束である。
一度結ばれた契約は、当事者同士の同意がない限り、解除はできない。
契約には段階があり、
【緑、黄、青――そして赤】
色によって、その重さが分けられているらしい。
(……赤?)
その瞬間、ふと思い出す。
あの時――サインの色が、赤だったこと。
胸が、ひやりとした。
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赤の契約を破った場合――
【“死をもって償う”】
「……っ」
思わず顔を上げる。
ダリアンとランを見ると、二人はすでにこちらを見ていた。
優しく。
何も変わらない表情で。
……
沈黙が落ちる中、先に口を開いたのはランだった。
「フリージア様。私は同意の上で契約しています」
やわらかな声で、はっきりと言い切る。
「フリージア様をお守りするためですから……あの契約など、何ともありません」
続けて、ダリアンも口を開く。
「それに、ただ外に漏らさなきゃいいだけです!」
少し笑って。
二人の言葉は軽く聞こえるのに――
その裏にある覚悟が、はっきりと伝わってきた。
私は、小さく息を吸って。
「……ありがと」
かすれるような声で、そう呟いた。
静かに本を閉じかけて――ふと、最後のページの端に視線が止まった。
紙の隅に、小さな文字が書かれている。
『王族による高位契約は、通常契約よりも強い拘束力を持つ』
その一文に、思わず手が止まる。
さらに視線を滑らせる。
『契約内容によっては、対象の意思決定に干渉する場合がある』
「……え」
小さく声が漏れた。
その瞬間、隣にいたランが僅かに眉を動かす。
「どうかされましたか?」
私は答えず、もう一度その文章へ視線を落とした。
『高位契約は、契約者の魔力・命令権限・血統によって性質が変化する』
その下には、さらに細かな文字が並んでいる。
『特に王族による契約は例外扱いとされる』
胸の奥が、嫌な音を立てた気がした。
ただ秘密を守るだけの契約じゃない。
そんな考えが、頭の奥をゆっくりと冷やしていく。
ダリアンも何かを察したのか、表情を引き締める。
「……何が書いてあるんですか?」
私はすぐには答えられなかった。
「んー。よく意味が分からないの」
本を持つ指先に、じわりと力が入る。
もしこれが、本当に私の考えている通りなら――
あの契約は、ただの“口止め”なんかじゃない。
『高位契約は、契約者同士を魔力で繋ぐ』
その一文に、背筋が冷えた。
繋がっているからこそ、秘密が漏れればすぐ分かる。
誰が漏らしたのかも。
どこから漏れたのかも。
全部、伝わる。
だから――死に繋がる。
(……この二人は、これを知っているのだろうか)
胸の奥がざわつく。
少し迷ってから、私は顔を上げた。
「……ねぇ。契約って、どこまで知ってるの?」
その言葉に、ダリアンはきょとんと目を瞬かせる。
「どこまで……って?」
一方で、ランは静かに視線を伏せた。
その反応だけで、何となく察する。
「……ランは知ってるの?」
「はい」
ランは小さく頷いた。
「契約違反が重い罰になることは」
やはり知っていたのだ。
けれど、その続きをランは口にしない。
私は本へ視線を落とす。
王族による高位契約。
命令権限。
魔力接続。
そんな気がした。
『でも、今の私がこれを全部理解してるっていうのも……さすがに無理があるよね。』
私は少し考えてから、ダリアンとランを見上げた。
「んー……なんか、きっと大変なことな気がするから。」
「契約してる人同士でも、なるべくこのお話はしないでね?」
少し間を置いて、二人をじっと見る
「え?」
ダリアンが目を瞬かせた。
私はちょっとだけ目を細めて、じーっと睨む。
「わ・か・っ・た?」
「は、はい!」
ダリアンは慌てたように何度も頷いた。
その隣で、ランは静かに目を伏せる。
「……承知しております。」
『よし。』
これ以上は、私も知らないふりをしておこう。
短い返事。
けれど、その声はどこか重かった。
自分でもうまく説明できない。
けれど、本能みたいに危険だと感じていた。
私はゆっくり息を吐き、本を閉じる。
ぱたん、と小さな音が静かな図書館に落ちた。
「……ラン、これもお片づけして」
笑顔で本を差し出すと、ランは静かに受け取った。
「かしこまりました」
そのまま慣れた足取りで、本棚の奥へ向かっていく。
私はダリアンと並んで、その場でランを待った。
しばらくして戻ってきたランへ、私は小さく声をかける。
「もどろっか」
「はい」
ダリアンが元気よく頷き、ランも静かに頭を下げた。
そして私たちは、図書館をあとにした。




