第60話 会議
議題は、あの魔獣について。
「話ができる魔獣……魔人の存在」
昔、封印の森で戦ったことがある。
だが、あれは決して一人でどうにかできる相手ではなかった。
「それほどの魔獣に……フリーとレイの二人だけで、あれほどのダメージを与えたとは……」
その力は、測り知れない。
ザルヴァニアが重い口を開いた。
「視察に行ったが……魔獣の数がかなり増えている。これは、まずい傾向だ」
「封印が解ける可能性がある」
「……もって、数年かもしれない」
部屋に沈黙が落ちる。
「恐らく……サネカゲが亡くなったことが始まりだ」
「封印が一つ、解けた」
「私たちも亡くなれば……さらに解けるだろう」
ザルヴァニアがお父様の胸を指差し
「しかも……エル、その爆弾を抱えていることは、命を狙われた証拠だ」
「私たちは……たぶん、狙われている」
お父様は、静かに口を開いた。
「エルド、ブロム。お前たちはここで暮らせ」
「なんでわしらが、こんなキラキラした場所に住まなきゃならんのだ……」
エルドが不満そうに言う。
「さっきの話を聞いていただろう」
「私たちは狙われてる」
「それに……私たちは、封印の鍵なんだ」
その言葉に、二人の表情が変わる。
「おそらく、まだ奴らは気づいていない」
「だからこそ、ここで力を合わせるんだ」
すると、ブロムが鼻を鳴らした。
「ふん……要するに、わしらが弱いって言いたいんだろう」
お父様はニッと笑った。
「まあ……そういうことだな」
そして、少し真剣な表情になる。
「私は、友を黙って見捨てるつもりはないからな」
「部屋は用意しておく。すぐに準備してこい」
その話を聞いていたお母様は、嬉しそうに微笑んだ。
「みんなと一緒に過ごすなんて……いつぶりかしら。」
お母様は穏やかに微笑んだ。
その表情には、久しぶりに家族が揃った温かな時間を噛みしめるような優しさが浮かんでいた。
しかし、その空気をアイリオン先生が静かに引き締める。
「……それと。」
先生は私と眠るレイへ視線を向けた。
「フリージアとレイ、それに他の子どもたちも、これまで以上に鍛えなければならない。」
部屋の空気が変わる。
「今回のことで分かった。」
「相手は、今までの魔獣とはまるで違う。」
ザルヴァニア様も黙って頷いた。
アイリオン先生は続ける。
「正直に言おう。」
「今の私たちでは、あの封印をもう一度施せるとは思えない。」
その言葉に、誰も反論できなかった。
先生はゆっくりと私を見つめる。
「……今、一番可能性があるのは。」
「フリージアだ。」
フリージアの名前が挙がっても、お父様もお母様も反論しなかった。
親として反対したい気持ちは、誰よりも強いはずだった。
それでも、二人は現実を理解していた。
フリージアは、まだ未熟だ。
戦いの経験も浅く、精神的にも幼い。
しかし、その内に秘めた力だけは違う。
あの七色の魔力。
光と闇を同時に操る才能。
それは、自分たちをはるかに超える可能性を秘めている。
だからこそ、その力から目を背けることはできなかった。
部屋には重苦しい沈黙だけが流れていた。
その後、私たちは治療と休養に専念することになった。
そして数日後――
フリージアとレイシオンの怪我もすっかり治り、久しぶりの登校の日を迎えた。
朝、部屋で支度をしていると、同室のカグラが申し訳なさそうな顔で私を見つめた。
「フリー……ごめんね。」
「私がもっと早く動けていたら……守れたかもしれない。」
その声は震えていた。
私は首を横に振り、笑顔を向ける。
「そんなこと、全然気にしてないよ。」
「カグラが悪いなんて、一ミリも思ってない。」
「ほら、怪我もちゃんと治ったし。」
私は軽く腕を動かして見せる。
「だから、本当に気にしないで。」
何度もそう伝えると、カグラはようやく少しだけ笑顔を見せてくれた。
そして二人で教室へ向かう。
久しぶりに教室へ入ると、すぐにクラスメイトたちが集まってきた。
「フリー、大丈夫だった?」
「怪我はもう平気?」
「レイシオンも無事なんだよね?」
次々と心配の声が飛んでくる。
「うん、もう大丈夫。」
私は笑顔で答えた。
その一方で、少し離れたところから小さな囁き声も聞こえてくる。
「やっぱり王族だから狙われたのかな……。」
「普通の魔獣じゃなかったって聞いたよ。」
「王族って大変なんだね……。」
聞こえないふりをした。
すると、すぐ後ろから聞き慣れた声がした。
「フリージア!」
振り返ると、セレスたちがこちらへ歩いてきた。
セレスは私の顔を見るなり、にやりと笑う。
「元気そうで何よりだ。」
そして胸を張りながら続けた。
「やはり魔獣も、フリージアの美貌に魅了されたんだな。」
「そんなわけないでしょ!」
思わずツッコミを入れると、周りから小さな笑い声が上がる。
サスケも頭をかきながら笑った。
「フリーは綺麗だからな、仕方ねぇ!」
「……でも、ごめんな。俺たちが駆けつけるのが遅かった。」
その言葉に、私は首を横に振る。
「気にしないで。」
「みんなが来てくれたの、ちゃんと分かってたから。」
その言葉に、サスケは少しだけ安心したように笑った。
その時。
教室の扉が開き、先生が入ってきた。
「はい、みなさん席についてください。」
教室は静かになり、それぞれ席へ戻る。
先生は教壇に立ち、私とレイを見て穏やかに微笑んだ。
「まずは、フリージアさんとレイシオンくん。」
「怪我が治り、無事に戻ってきてくれました。」
「先生は本当に嬉しく思います。」
そして、表情を引き締める。
「……同時に、教師である私がいながら二人を危険な目に遭わせてしまったことを、心から謝罪します。」
先生は深く頭を下げた。
教室がざわつく。
生徒たちは驚いたように先生を見つめていた。
先生は顔を上げ、静かに続ける。
「今回の出来事は、確かに想定外でした。」
「しかし、それを言い訳にするつもりはありません。」
「私は、生徒を守る責任がありました。」
「そして今回、皆さんにも学んでほしいことがあります。」
教室中が先生の言葉に耳を傾ける。
「魔獣は、いつ、どこで現れるか分かりません。」
「突然、私たちの命を奪おうと襲ってきます。」
「今回狙われたのがフリージアさんだったからではなく、次は自分かもしれない。」
「その意識を、決して忘れないでください。」
「戦う時は、どんな相手でも油断せず、常に周囲へ気を配ること。」
「それが、自分の命だけでなく、仲間の命を守ることにも繋がります。」
教室は静まり返り、生徒たちは真剣な表情で先生の言葉を受け止めていた。
先生は教室を見渡し、話を続けた。
「そして、この出来事を機に、授業の方針を少し変更します。」
教室がざわつく。
「皆さんも知っていると思いますが、最近、各地で魔獣の出現数が増えています。そのため、皆さんの訓練を少し早めることになりました」
先生は一度、教室全体を見渡す。
「今後は、より実戦的な魔獣討伐の授業を増やしていきます」
その言葉どおり、それからの授業は今までよりずっと実戦的なものになった。
特に私は、細かく指導されることが増えた。
あんなことが目の前で起きた以上、私自身も今まで以上に真剣に取り組んだ。
レイやカグラ、サスケたち、いつも一緒にいる班のメンバーも同じだった。
みんな口には出さない。
でも、以前とは明らかに集中力が違う。
『みんなも、思うところがあるんだろうな……』
授業が終わったあとも、私はお兄様たちやザルヴァニア様に頼んで、できるだけ実戦形式で相手をしてもらうようになった。
とはいえ、ずっと重たいことばかり考えていたら疲れてしまう。
だからこそ、いつもどおり友達と遊んだり、ガルドと新しいものを考えたりして、なるべく普通の毎日も大切にしていた。




