↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
47/61

第48話 新たな出会い

あのとき、お父様の身体を使って話していた“何か”のことが、どうしても頭から離れなかった。


『あれは……誰だったんだろう』


 私のことを、この世界で生まれていないと言った。

 それに、私の魔力を必要としているとも。


 思い出すたびに、胸の奥がざわつく。


 お父様は本当に何も覚えていないのか。

 あの“何か”は、まだどこかにいるのか。


 考えても答えは出ない。


 それから、お父様は少しずつ回復していった。

 魔力も戻り、普段どおり魔法を使えるようにはなった。


 ただ、ひとつだけ以前と違うことがあった。

 前よりも、魔力切れを起こすのが早くなっていたのだ。


『やっぱり、完全に元どおりってわけじゃないんだ……』


 それでも数日、お父様のそばで過ごしたけれど、あの夜のような異変が起こることはなかった。


 お父様自身も、

「もう大丈夫だ」

 お父様が何度もそう言うので、それから数日後、私は学園へ戻ることにした。

 


学園へ戻る前、お父様を包んでいたあの黒いもやのことや、レミという存在のことを考えながら、私はラムネと城の庭をぶらぶら歩いていた。


「ラムネ、しばらくまた会えなくなるねー」


 ぷるぷるした身体を撫でていると、不意にラムネが妙な動きをした。


「……ん?」


 身体を縦にぐーっと伸ばし、そのまま左右にゆらゆらと揺れ始める。


「なに? どうしたの?」


 何かを訴えているように見える。


 するとラムネは、ぴょんっと跳ねた。


 少し進んでは振り返り、またぴょんっと進む。


『……ついてこいってこと?』


「私についてきてほしいの?」


 ラムネの上に『○』が浮かんだ。


「やっぱり」


 ダリアンと一緒にその後を追っていくと、ラムネが向かったのは城の裏手だった。


 その先には森が広がっている。


 城の敷地と森の境目には結界が張られていて、許可なく出入りすることはできない。


 ラムネはその手前で止まると、森の中へ向かってぴょんぴょん跳ねた。


「……あっち?」


『○』


 目を凝らす。


 最初は何も見えなかった。


「何があるの……?」


 さらにじっと見つめていると――。


「……あ」


 木々の隙間で、ふさふさした何かがわずかに動いた。


『魔獣?』


 でも、それきり動かない。


 距離はそこまで遠くない。結界のすぐ向こう側だ。


 よく見ると、そのふさふさした毛の辺りに赤いものが付いている。


『……血?』


 怪我をしているのかもしれない。


「ダリアン、確かめに行きたい」


「駄目です」


 即答だった。


「でも、怪我してるかもしれないよ?」


「だからこそです。弱っているように見せているだけかもしれませんし、他の魔獣が近くにいる可能性もあります。フリージア様を森へ出すことはできません」


「うーん……」


 それは分かる。


 でも、このまま放っておくのも気になる。


 私は足元のラムネを見る。


「じゃあ、ラムネにまず確認してもらうのは?」


「ラムネを?」


「うん。危なそうだったら、すぐ戻ってきてもらうから」


 ダリアンはしばらく森とラムネを交互に見た。


「……うーん」


「お願い!」


「……分かりました。とりあえず、ラムネに任せてみましょう」


「やった!」


 私はラムネの前にしゃがみ込む。


「ラムネ。あそこにいるのが危険じゃないか、確かめてきてほしいんだけど……いい?」


『○』


「危なかったら絶対すぐ戻ってきてね?」


 もう一度『○』が浮かぶ。


 ダリアンが結界へ手をかざした。


 人が通れるほど開く必要はない。


 ラムネ一匹が通れるくらいの、小さな隙間だけを結界に開ける。


「行っておいで」


 ラムネは一度ぷるんっと身体を揺らすと、その小さな出口から森へ飛び出していった。

  ラムネは結界の外へ出ると、少し進んだところでぴたりと止まった。


 そして――。


「え?」


 突然、ぽんっと身体がいくつにも分かれた。


 分裂したラムネたちは、そのままそれぞれ違う方向へぴょんぴょんと散っていく。


「ちょ、ラムネ!?」


 何をしているのか分からず見守っていると、しばらくして散らばっていたラムネたちが次々と戻ってきた。


 そして同じ場所へ集まると――再び一つになる。


『……またラムネの進化を発見してしまった』


 そんなことまでできるようになってたの?


 私が驚いていると、ラムネがくるっとこちらを向いた。


『○』


「何もいないみたいだね」


「そのようですね」


 ダリアンも周囲を見渡しながら頷いた。


「それにしても……ラムネの新たな発見ですね」


「ね。私も知らなかった」


 ラムネはそのまま、倒れているふさふさした魔獣へ近づいていく。


 そして――。


 ちょん。


 身体の先で、そっと触れた。


 魔獣の身体がぴくっと動く。


「生きてる!」


 でも、それだけだった。


 逃げる様子も、襲いかかってくる様子もない。


「ダリアン、行っていい?」


「いえ。まず僕が行きます」


「えー」


「駄目です」


 今度は有無を言わせない声だった。


「……分かった」


 ダリアンは結界を抜けると、周囲を警戒しながらゆっくり魔獣へ近づいていった。


 ラムネの横まで来るとしゃがみ込み、倒れている魔獣の様子を確認する。


 しばらくして――ダリアンの表情が変わった。


「フリージア様」


「なに?」


 ダリアンは魔獣を見たまま、少し驚いたように言った。


「これは……」

「フリージア様……これは、ネフィルガです」


「ネフィルガ?」


「はい。伝承にしか残っていない、伝説級の神獣です。……たぶんですが」


「たぶん!?」


 私はもう一度、倒れている魔獣を見る。


「そっちに行っちゃ駄目なら、こっちに連れてきて!」


「えっ!?」


 ダリアンが思いきり振り返った。


「そんな、僕だって怖いですよ! 伝説ですよ!?」


「でも怪我してるし……」


「いや、だからこそ――」


 どうしようかと二人でおろおろしていると。


「……あ」


 ラムネが、倒れている魔獣の上に覆いかぶさった。


 そのまま――。


「えっ?」


「……え?」


 ずるん。


 魔獣の身体がラムネの中へ消えた。


「!!!!」


「ラムネぇ!?」


『食べた!?』


 思わず叫んだ、その直後。


「……違う?」


 よく見ると、ラムネの透明な身体の中に、さっきの魔獣がそのまま包まれている。


『包んでる……?』


 しかも明らかに重そうだ。


 ラムネは身体を大きく膨らませたまま、ぴょん……ぴょん……とゆっくりこちらへ向かってくる。


「が、頑張れラムネ!」


 いつもの軽快な跳ね方とはまるで違う。


 結界のところまで戻ってくると、ラムネは倒れている魔獣を傷つけないようにするかのように、身体をゆっくり広げた。


 ぬぺ〜……。


 そんな感じで、地面へそっと滑らせるように魔獣を外へ出した。


「……そんなこともできるの?」


『今日だけでラムネの新機能、何個見つかるの……?』


 改めて近くで見ると、やっぱり虎に近い。


 ただ、毛が長くてふさふさしているせいか、普通の虎よりずっと大きく見えた。


 毛並みは泥や土で薄汚れていて、本来の色もよく分からない。


 それより気になるのは――。


「血……」


 身体のあちこちから血が滲んでいる。


 傷も一つや二つじゃない。


 爪で裂かれたようなものもあれば、深く抉られたような傷まである。


 ダリアンも慎重に観察しながら眉をひそめた。


「……本当にネフィルガなのか? ただのタイガーかもしれませんね」


「分からないの?」


「僕も実物を見たことなんてありませんから」


「そっか……伝説だもんね」


「それにしても――」


 ダリアンの表情が険しくなる。


「こいつにこれだけの重傷を負わせるなんて、一体何と戦ったんだ……」


「ねぇ、近くに行っていい?」


「うーん……」


 ダリアンは倒れている魔獣とラムネを交互に見る。


「ラムネが触っても反応しなかったですし……今のところ襲ってくる様子もありませんから、大丈夫だとは思いますが――」


 そう言いかけて、すぐに首を振った。


「待ってください。城の中へ入れるのはまだ駄目です」


「じゃあ?」


「まず、この場に結界を張ります」


 ダリアンが魔力を流すと、倒れている魔獣を中心に、私たちとの間を囲うように結界が展開された。


 万が一突然暴れ出しても、すぐに城の中へ飛び込めないようにするためらしい。


 それを確認してから、ダリアンが私を見る。


「……こちらへ来ていいですよ」


「ほんと?」


「ただし、僕から離れないでください。絶対に触らないでくださいね」


「分かった!」


「……本当に気をつけてくださいよ」


 私は頷いて、ゆっくりとその魔獣へ近づいていった。

 近くで見ると、傷は思っていたよりひどかった。


「……痛そう」


 毛に隠れて見えにくかったけど、お腹の辺りにも傷がある。


 見ているうちに我慢できなくなって、私はそっと手を伸ばした。


「フリージア様、危ない!」


 ダリアンの声が飛ぶ。


 でも、もう遅かった。


 私はそのお腹をそっと撫でていた。


 その瞬間――。


「……あ」


 何かが、私の手のひらから伝わってきた。


 魔力だ。


 でも、嫌な感じはしない。


 むしろ、とても静かで、優しい魔力。


 ほんのわずかだけど、向こうから私の中へ流れ込んでくる。


『……大丈夫』


 なぜか、そう思えた。


「もう……すぐそうやって動くんですから……」


 ダリアンが頭を抱えるように嘆いている。


「でも、大丈夫だよ」


「何が大丈夫なんですか!」


「この子、怖くない」


「それを今判断しないでください!」


 それでも私は、そのまま傷へ手を添えた。


「治してあげる」


「ちょ、ちょっとフリージア様!?」


 淡い光が手のひらから広がる。


 治癒魔法。


「待ってくださいって!」


 ダリアンは止めたいらしいけど、もう魔法は始まっている。


 どうすることもできず、結局すぐ隣で身構えた。


 いつでも私を引き離せるようにしているらしい。


 光が傷を包み、裂けていた皮膚が少しずつ塞がっていく。


 血も止まり、目立っていた傷はほとんど消えた。


「よし……」


 だけど。


「……動かないね」


 傷は治ったのに、その子は目を閉じたままだった。


 呼吸はしている。


 でも、起きる気配がない。


「だいぶ弱ってるね……」


 私が呟くと、ダリアンもようやく構えていた身体から力を抜いた。


「そうですね。傷だけじゃなく、かなり衰弱しているのかもしれません」


 私はもう一度、その大きな身体を見つめた。


『一体、何があったんだろう……』

 しばらくその姿を見つめていたけれど、やっぱりこのまま置いていく気にはなれなかった。


「ダリアン。私、この子助けたい」


「えっ!?」


 ダリアンがぎょっとした顔をする。


「それは危険ですよ! 回復したら襲われるかもしれません。このまま放っておきましょう!」


「でも、このままにしたら他の魔獣に襲われるよ」


「それでも、こっちも危険です!」


「じゃあ、この結界だけでもそのままにしてあげて!」


「結界を?」


「うん! ダリアンの結界なら、それなりの魔獣じゃ簡単に破れないでしょ?」


「それは……まあ」


「ダリアン、強い護衛隊なんだから!」


「いや、それとこれは――」


「この結界があるだけでも全然違うと思うの! ね? お願い!」


「…………」


 ダリアンは頭を抱えた。


「わ、分かりました! これだけですよ!」


「やった!」


「それ以上は絶対しないでください!」


「はーい」


「では、もう戻りましょう」


「分かった。ラムネ、戻ろう」


 歩き出しかけたところで、ふと気になった。


「ダリアン」


「はい?」


「……このこと、お父様に言うの?」


「えっ」


 ダリアンの足が止まる。


「あー……」


「言わないでね!」


「え?」


「だって、伝説級かもしれないんでしょ? そんなこと言ったら城中大騒ぎになるよ!」


 ちょっと大袈裟に言ったけど、嘘ではない。


「それは……そうですね」


 ダリアンも考え始める。


「もし本当にネフィルガなら、大ごとになりますし……上にも報告が必要でしょうし、魔法省の人間を呼ぶ話になるかもしれません。場合によっては他国にも――」


 そこまで言って、ダリアンの顔がどんどん面倒そうになっていく。


「……黙っておきましょうか」


「そうしよ!」


 即答した。


『よし』


 なんだか、うまく誘導できた気がする。


 私は少しだけ満足しながら、ラムネと一緒に城へ戻った。 だけど――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。