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第43話 久しぶりの帰宅

久しぶりに城へ戻ると、お父様たちに軽く、


「ただいま〜!」

 とだけ声をかけて――。


 私は真っ先に、ガルドのいる工房へ向かった。

「ガルドー! 聞いて!」


「お、おう?! なんじゃ、帰ってきて早々」


 私はガルドの前まで駆け寄ると、そのまま一気に話し始めた。


「まずね! 飲み物を入れるやつあるでしょ?」


「あるな」


「あれ、冷たいものはずーっと冷たくて、あったかいものはずーっとあったかいままにしたい!」


「……ほう?」


「あとね、あとね! 小さくて手に持てる……ライトじゃなくて……えっと、街灯みたいなの!」


「手に持つ街灯?」


「そう! ちょっと暗いところを歩く時に使うの! この前ね、土魔法しか使えない子が暗いところ歩くの大変そうだったの!」


「なるほどのぉ……」


「それから!」


「まだあるんか?!」


「ある!」


 私はさらに身を乗り出す。


「伸び縮みする盾作って!」


「……盾?」


「うん! この前ね、ラッチュを倒したんだけど、あれ気持ち悪いの!」


「そこか?」


「そこなの!」


「だから盾が欲しい! でも、ずっと大きい盾を持って歩くのは無理でしょ?」


「まあ、邪魔じゃな」


「だから、ちっちゃくして持ち運べるようにしたいの! 使う時だけ、バッて大きくなるの!」


 私は両手を広げて、盾が展開するような仕草をする。


「ねえ! できる?!」


「…………」


 ガルドはしばらく黙ったまま、私の顔を見ていた。


「……お前さん、帰ってきてからまだどれくらいじゃ?」


「え?」


「一気に三つも持ってくるやつがおるか!」


「だって思いついたんだもん!」


「ガハハッ! まあええ! 面白そうじゃ!」


「ほんと?!」


「おう! まず一個ずつ考えるぞ!」

 


少し遅れて、レイも私を追いかけて工房へ入ってきた。


「……追いついた」


「ごめん! 早くガルドに話したくて!」


 レイは少し息を整えながら、私の隣に立った。


せっかくだから、私はもう一度三つの案を最初から説明した。

 レイも隣で黙って聞いている。

 全部聞き終えると、ガルドは腕を組んでしばらく考え込んだ。


「ふむ……なら、作れそうな順にいくかの」


「うん!」


「まず一番簡単そうなのは、手に持てる街灯じゃな」


「ほんと?!」


「この国じゃ、そもそも夜に出歩く者が少ないからの。街道や城下には街灯もあるし、見回りの者は自分の魔法で明かりを作っとる」


「じゃが、よく考えれば火や光を使えん者には不便じゃな。そうじゃない者は、光魔石をそのまま持って歩くしかないの」


「でしょ! でも魔石って、自分の周りしか明るくならないでしょ?」


「うむ」


「だから、光が前に伸びるようにしたいの!」


「なるほどのぉ……手元で光らせるんじゃなく、前方を照らすようにするわけか」


 ガルドは少し考え込んだあと、指を一本立てた。


「光魔石を使えば、手に持てる大きさにはできそうじゃ」

 

 すると、隣で聞いていたレイがぽつりと言った。

「氷魔石を使えば、光を前に反射させられるかもしれません」


「反射?」


「はい。光をそのまま広げるんじゃなくて、後ろ側に氷魔石を置いて前に返すようにしたら……」


「なるほど! それはいい考えじゃ!」


 ガルドがぱっと顔を明るくする。


「それなら光を一方向に集められるかもしれんの!」


「次は、飲み物を入れるやつじゃな」


「冷たいのは冷たいまま! あったかいのはあったかいまま!」


「分かっとるわい」


 ガルドが笑う。


「冷却用と加熱用、それぞれの魔石を使えば温度そのものは作れる。問題は、それをどう長く保つかじゃ」


「あっ」


「そこは、この前作ったルグポカの仕組みを応用できるかもしれんの」


 すると、レイがまたぽつりと言った。

「ルグポカを入れ替えられるようにするのはどうですか?」


「入れ替え?」


「はい。冷たくなるものと、温かくなるものを作っておいて……使いたい方を入れ替えればいいかと」


「おぉ! その考え、いただきじゃ!」

 ガルドが嬉しそうに頷く。

 

 レイも、少し嬉しそうに頷いた。


 そしてガルドが三本目の指を立てる。


「最後が……盾じゃな」


「うん!」


「盾そのものを作るのは得意じゃ。じゃが――」


 ガルドは少し難しい顔をした。


「伸び縮みする、となるとのぉ……」


「難しい?」


「難題じゃな」


 ガルドは作業台にあった金属板を手に取る。


「小さくするだけなら、折り畳むとか分解するとか方法はある。じゃが、いざという時に一瞬で盾にならんと意味がないじゃろ?」


「うん」


「しかも、防御力を落とさずにじゃ」


「…………」


「これはちと、考える時間をくれ」


「分かった!」

 私は素直に頷いた。


『でも、ガルド楽しそう』

 三つともすぐ完成とはいかなそうだけど、ガルドならきっと何とかしてくれそうだ。


 そう思っていたところで、ふと大事なことを思い出した。

 

「あっ! そうだ! ガルドに見てほしいものがある!」


 私はアイテムボックスから、あの七色に光る石を取り出した。


「これ。ガルド、何かの魔石かな?」


 ガルドは受け取ると、じーっと石を見つめた。


「……分からんな。こんなのは初めて見る」


「でも、かすかじゃが魔力は感じるのぉ」


「やっぱり魔石?」


「どうじゃろうな。少し砕いてみるか?」


 ガルドが道具へ手を伸ばそうとした、その時だった。


「待って!」

 突然、ルピカが姿を現した。


「ルピカ?」


 いつもの様子とは違う。

 石を見つめる顔が、ひどく真剣だった。


「それ……そのままにして」


「どうしたの?」


「分からない。でもお願いだ。砕いたり、割ったりしないで」


「え……」


「頼む」


 ルピカは石から目を離さない。


「なぜか分からないけど……僕たちと同じ魔力を、ほんの少し感じるんだ」


「精霊と?」


「うん。だから、このままにしてほしい」


 少し間を置いて、さらに身を乗り出した。


「僕が預かってもいい!」


 その必死さは、十分すぎるほど伝わってきた。


「……分かった。何もしないよ」


 私は石をルピカへ渡そうとする。


 けれど――。


『……なんだろ』


 なぜか、自分で持っていたほうがいいような気がした。

 それでも、そのまま差し出そうとした瞬間。

 ふわりと舞った埃が、鼻先をくすぐった。


『あ、やばい……』

「っくしゅん!」


 くしゃみと同時に、少しだけ魔力が溢れた。

 ふわっと風が巻き起こる。

 すると――。

 石が、淡く光った。


「……え?」


 ルピカが目を見開く。

 その光を見た瞬間、なぜか胸の奥に懐かしいような感覚が込み上げた。


「ルピカ?」


「……フリージア」


「なに?」


「すまない。一度、その石に魔力を流してみてくれないか?」


「いいけど……」


 言われるまま、私はほんの少しだけ風魔法で石を包んだ。


 その瞬間――。

 ぱぁっ。

 今度は、さっきよりはっきりと石が光った。


「光った……」


「うん」


 ガルドにも、レイにも見えている。

 ルピカはしばらく石を見つめたあと、急に私を見る。


「やっぱり、フリージアが持っていて!」


「え?」


「大丈夫。僕が保証する。これは悪いものじゃない」


「でも、何なの?」


「……それは、まだ分からない」


 それでもルピカは、はっきりと言った。


「でも、なぜか君に持っていてほしいんだ」


「……分かった」

 私はもう一度、その石をそっと握った。

 

 ルピカは精霊だ。

 だから、こんなことで嘘をつくとは思えない。


 結局、その石が何なのかは分からないまま。

 それでも私はルピカを信じて、もう一度自分で預かることにした。


「じゃあ、これは私が持ってるね」


「うん。その方がいいと思う」


 私は七色に光る石を、そっとアイテムボックスにしまった。


 謎は残ったままだけど、今はそれでいい。

 とりあえずガルドには三つの魔道具をお願いして、私は一度部屋へ戻ることにした。




 部屋に戻ると、お父様とお母様が待っていた。


「フリージアちゃん、帰ってくるのを待っていたのに……すぐ工房へ行ってしまうんだもの」


 お母様が少し寂しそうに言う。


「私、帰ってきたらフリージアちゃんが抱きついてきて、『会いたかった』って言ってくれるの想像してたのよ?」


「……」


 すると隣で、お父様まで小さな声で、


「……私も少し期待していた」

 と呟いた。


『あっ……』


 ちょっと申し訳なくなる。


「わ、私だって! お父様たちと離れてて、とっても寂しかったですよ!」


 慌ててそう言うと、後ろでフジがくすりと笑った。

 フジは何事もなかったようにお茶を淹れながら、


「お嬢様は学園で楽しく過ごされていたのですね」


「うん!」


 そのまま私は、学園であったことをお父様たちに話した。

 お友達ができたこと。

 初めて魔獣を討伐したこと。

 授業のことも、思いつくままに話した。


 一通り話し終えると、お父様とお母様は満足したように部屋を出ていった。


 フジは静かに片付けを始める。

 そして、私にしか聞こえないくらいの声でぽつりと言った。


「……お嬢様」


「ん?」


「たまにで構いませんので、次はお手紙を出してくださると助かります」


「え?」


 フジは少しだけ困ったように笑った。


「お嬢様から何も届かないものですから、殿下が毎日のように『フリージアは大丈夫か』『何かあったんじゃないか』と……」


「……」


「少々、心配しすぎでございました」


「ごめんなさい。みんなにも迷惑かけたね。お父様、うるさかったよね」


「お嬢様が謝ることではございません」


 フジは優しく笑った。


「楽しく過ごされていることが、一番のよいご報告ですから。ただ、一通でもお手紙をいただければ、こちらの公務ももう少しスムーズになるかと」


「わかった。そうするね!」


「フジ、いつもありがとう」


「ふふ。どういたしまして、お嬢様」

そこで、ふと思い出した。


『そうだ! ラムネ!』


「フジ、ランがどこにいるか知ってる?」


「ランでしたら、裏の庭園で洗濯をしているかと」


「ありがとう!」


 私はさっそくランを探しに、裏の庭園へ向かった。


 庭園には洗濯物がずらりと干されている。

 その間を覗き込んでいると――。


『……いた!』


 見覚えのある、ぷるんとしたフォルムを発見した。


 ラムネが洗濯物を一枚ずつランへ渡している。


『ちゃんとお手伝いしてる』


「ラーン!」


 洗濯物の間から、ひょこっとランが顔を出した。


「お嬢様。お帰りなさいませ」


「ただいま! ラムネ大丈夫だった? 逃げたりしなかった?」


「はい。そのような問題はございませんでした」


「……ん?」


 なんだか、すっきりしない言い方だ。


「なんかあった?」


「それが……」


 ランが言いよどんだところで、洗濯物の向こうからラムネがぷるんっと姿を現した。


「あっ、ラム――」


「…………」


 なんだろう。

 何かがおかしい。


 ラムネは私を見つけると、嬉しそうにぷるぷると身体を震わせている。


『……ん?』


 私はじーっとラムネを見る。


「ラン……」


「はい」


「ラムネさ……お、大きくなった?」


「…………」


 一瞬、ランが黙った。


「はい」


「やっぱり?!」


「ひと回りほど、大きくなられたかと……」


『なんでぇ!?』

「どうしたの?」


「私にも分かりかねます」


 ランは少し困ったようにラムネを見る。


「食事は、私たちより少し少ないくらいの量をいつも食べていたのですが……なぜか少し成長しました」


「このまま、どんどん大きくなるのかな……」


『キング……スライム?!』


『そんなバカな』


「待って。じゃあ、ゴミ場のスライムは?」


「あっ……それも少し問題が」


「えっ?」


 私はランとラムネを連れて、早足でゴミ場へ向かった。


 扉を開ける。


 ぱっと見たところ、ゴミ場はとても綺麗だった。


 でも、よく見ると――。


『一、二、三、四、五、六、七……』


「……ん?」


 増えてる。


 でも、サイズは変わっていない。


「ラン、別に大きくなってないよ。スライム、増やしたんだね」


「いえ、それが……」


 ランが言いかけたところで、料理長がこちらに気づき、近づいてきた。


「フリージア様、お帰りなさいませ」


「ただいま!」


「早速、スライムのことをお聞きになったんですね」


「スライムのこと?」


「あれ、まだでしたか」


 料理長は少し笑った。


「実はですね。スライム、増えたんですよ」


「増やしたんでしょ?」


「いえ。『増やした』ではなく――『増えた』が正しいです」


「?」


「ある日、気づいたら一匹増えていたんです」


「え?」


「最初は、どこかの隙間から入ってきたのかと思いました。でも、そうじゃなかった」


 料理長はスライムたちを見る。


「よく観察していたら、一定の量を食べたところで分裂したんですよ」


「分裂?!」


「はい。ラムネにも、なんとなくですが確認してみたところ、どうやらそれで合っているようで」


「……」


「増えても特に困ることはなかったので、そのままにしていたんですが……」


 料理長が七匹のスライムを見る。


「どうやら今日、ちょうどまた一匹増えたみたいですね」


『スライムって……分裂するんだ』

「でも、このまま増え続けても困るよね?」


「そうですね」


 料理長もスライムたちを見ながら頷いた。


「ここにいてくれるのは、三、四匹くらいでちょうどいいですから」


「そーだよね」


「じゃあ、残りはどこか別の場所に移そうか」


「それは助かります」


 私はラムネのほうを向いた。


「ラムネ。四匹くらい移動したいんだけど、お願いできる?」


 するとラムネは、ひょいっと手を挙げた。


「おっ、お願いできる?」


 ラムネはぴょんぴょんとスライムたちのところへ近づくと、何やら話しかけるようにぷるぷる動き始めた。


 しばらくすると――。


 また、四匹の上に『○』が浮かんだ。


「決まった?」


 ラムネが元気よくぷるんっと跳ねる。


「じゃあ、この子たちをどこに置こうかな……」


 私が考えていると、ラムネが足元をちょんちょんとつついてきた。


「ん?」


 そして、少し先へ進んでは振り返る。


『ついてきてってこと?』


「分かった。行ってみよ」


 私はラムネのあとをついていくことにした

 私はランと四匹のスライムを連れて、ラムネのあとをついていった。


 たどり着いたのは、馬小屋だった。


「ここ?」


 ラムネがぷるんっと跳ねる。


 中では、世話係の人たちが馬の寝床を掃除していた。

 食べ残しもあるし、毎日かなり汚れる場所だ。


『なるほど……確かにここなら仕事がありそう』


 私は近くにいた世話係の人へ事情を説明した。


「ゴミ場にいたスライムなんだけど、増えちゃって。この子たち、食べ残しとか汚れたものを食べて綺麗にしてくれるの」


「それは助かりますね」


 世話係の人は、二匹のスライムを興味深そうに見つめた。


「では、この二匹はこちらで預かりましょうか」


「お願いします!」


 ちょうど馬小屋の隣には、小さなうさぎ小屋があった。


「夜は、あちらで休んでもらうのはいかがでしょう?」


「うさぎ小屋?」


「はい。端のほうなら、スライム用の寝床も用意できます」


「ちょっと待ってね」


 私はラムネを見る。


「ラムネ、この子たち、夜はうさぎ小屋でも大丈夫か聞いてくれる?」


 ラムネはすぐに二匹のところへ向かい、またぷるぷると話し始めた。


 すると――。


 二匹の上に『○』が浮かんだ。


「大丈夫だって!」


「それならよかったです」


 念のため、うさぎ小屋の端にスライムたち専用の寝床を作ってもらうことになった。


 残った二匹は、そのまま家畜小屋へ連れていく。


 こちらにも世話係の人がいたので、同じように事情を説明した。


「この子たちも、ここでお仕事させてもらっていいですか?」


「もちろんです。食べ残しも出ますし、掃除も助かります」


「よかった!」


 すると世話係の人が少し考えてから尋ねてきた。


「夜の寝床なのですが、鶏小屋の端でも大丈夫でしょうか?」


「鶏小屋?」


「はい。空いている場所がありますので、端のほうに寝床を作れます」


 私はまたラムネに確認してもらう。


 しばらくすると、今度も二匹の上に『○』が浮かんだ。


「大丈夫だって!」


 家畜小屋の二匹は、夜になると鶏小屋の端で休んでもらうことになった。


 こうして、ゴミ場に三匹。

 馬小屋に二匹。

 家畜小屋に二匹。


 それぞれに新しい仕事と、ちゃんと休める場所ができた。


『これなら増えても、少しは大丈夫かな』


 私は満足そうにぷるぷるしているラムネを見て、少しだけ安心した。


 ラムネのおかげで、思ったよりずっとスムーズに話が進んだ。


 ひと回り大きくなったとはいえ、まだまだ小さなスライムだ。

 今のところ、特に困ることもない。


「ラン。またスライムが増えたら、ラムネと相談して、お手伝いできそうな場所があれば移動してあげてね」


「かしこまりました」

 


「もし増えすぎて大変になってきたら、森に返してもいいから」


「はい」


「ラムネのほうは、しばらく様子見でお願い」


「承知しました。正直、ラムネがいなければ私たちではスライムたちに何もできませんから」


「うん。よろしくね」


 ラムネは話が分かっているのか、元気よくぷるんっと跳ねた。


こうして、それぞれの場所でスライムたちに仕事をしてもらうことになった。


 ただ、このままだと誰がどこを担当しているのか分からなくなりそうだ。


『目印があったほうがいいよね』


 そこで、ラムネが声をかけてくれたスライムたちには、見分けがつくように目印を作ることにした。


 といっても、大したものじゃない。


 小さなリボンに番号を振っただけの簡単なものだ。


「ラムネ、これ食べないでちゃんと付けてって、みんなにお願いできる?」


 そう言ってバッジを渡すと、ラムネはまた『○』を出した。


「よろしくね!」


 ラムネはぴょんぴょん跳ねながら、バッジを抱えて部屋から出ていった。


『ほんと、ラムネがいると助かるなぁ』


ガルドへの報告も、スライムたちのこともひとまず片づいた。

 けれど、長期休みに入ったからといって、のんびりしている暇はない。


 

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