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第40話 友達

今さら実感が湧いてくる。


 すると前方から見慣れた声が聞こえた。


「フリー」


『あ』


 そこには腕を組んで待っているアスターお兄様の姿があった。

 教室を出ると、校舎の入口近くで見慣れた顔が待っていた。


「フリー!」


 真っ先に手を振ったのはアスターお兄様だった。


「アスターお兄様!」


 思わず駆け寄る。

 その隣にはリリィお姉様とシルヴァンお兄様もいた。


「初日はどうだった?」


 シルヴァンお兄様が優しく尋ねる。


「楽しかった!」


「それは良かった」


 ほっとしたように微笑んだ。


「質問攻めにされてたけどな」


 アスターお兄様がニヤニヤしながら言う。


『見てたの!?』

 思わず目を丸くする。


「学園中で話題だったぞ」

「えっ。」


 するとリリィお姉様が軽くため息を吐いた。


「当然でしょう。フリーは王族ですもの」


「それだけじゃないと思います」


 レイがさらりと言う。


「レイ?」


「皆様、フリージア様に見惚れていました」


「……」


「……」


 お兄様たちの空気が少しだけ冷えた。

 レイは気付いていない。

 いや、気付いていて言っている気もする。

 そんな中、リリィお姉様が話を戻した。


「さて」


 ぱん、と手を叩く。


「寮へ向かうわよ」


「みんなで?」


 そう尋ねると、リリィお姉様は首を横に振った。


「男子寮と女子寮は別よ」


「あっ」


 そうだった。


「だからここから先は私が案内するわ」


 リリィお姉様は胸を張る。


「安心しなさい。寮のことは全部教えてあげる」


 どこか嬉しそうだ。

 妹の世話を焼けるのが楽しいのかもしれない。


「レイはどうするの?」


「俺たちが送る」


 即答したのはアスターお兄様だった。


「男子寮はこっちだからな」


「ありがとうございます」


 レイが礼を言う。

 するとアスターお兄様はふん、と鼻を鳴らした。


「別にお前のためじゃねぇ」


 完全に照れ隠しだった。

 シルヴァンお兄様が苦笑する。

「アスターお兄様」


「なんだよ」


「素直じゃありませんね」


「うるせぇ」


 そんなやり取りに思わず笑ってしまう。

 そして私たちは寮へ向かう分かれ道へたどり着いた。

 右が女子寮。

 左が男子寮。


「じゃあまた明日」


 レイが言う。


「うん!」


 私は手を振った。

 レイも小さく手を振り返す。

 その様子を見ていたお兄様たちの表情が微妙だったことには気付かなかった。


「行くわよ、フリー」


 リリィお姉様が優雅に歩き出す。

 私は慌ててその後を追った。

 こうして、私の学園寮生活が始まるのだった。

  女子寮へ向かう途中だった。


「フリージア様!」


 後ろから声が聞こえた。

 振り返ると、一人の女の子が駆け寄ってくる。

 艶のある黒髪。

 額には小さな角。

 鬼神族の少女だった。


「やっぱりフリージア様でした!」


 嬉しそうな笑顔を浮かべる。


『あれ?』


 どこかで見たことがある。

 首を傾げていると、少女は少しだけ苦笑した。


「覚えておられませんか?」


「ご、ごめんなさい……」


「お披露目会でご挨拶しております」


「あっ」


 思い出した。


 確か――


「サネカゲ様のお孫さん? えーと……カゲツグ様がお父様だよね?」


「はい」


 少女は嬉しそうに頷いた。


「カグラと申します」


 綺麗な所作で一礼する。

 さすが名家のお嬢様だ。

 すると隣のリリィお姉様が微笑んだ。


「久しぶりだね、カグラ」


「リリィ様、お久しぶりです」


 どうやらリリィお姉様とも面識があるらしい。


 カグラは再び私を見る。


「同じクラスになれて嬉しいです」


「そうなの?!気づかなくてごめん」


 そう答えると、カグラの表情が少し柔らかくなった。


「これからよろしくお願いいたします、フリージア様」


「よろしくね!」

 私は少し考えてから言った。

「ねえ」


「はい?」


「同じ学年なんだから、様はいらないよ。カグラだって王族の人だし。」


 カグラがぱちりと目を瞬く。

「ですが……」


「私もカグラって呼ぶから」


 にこっと笑う。


「だからカグラもフリーって呼んで?」


 一瞬、カグラは固まった。

 貴族社会ではなかなかない申し出なのだろう。

 だが次第にその顔がほころぶ。


「……では」

 少しだけ照れたように笑った。


「よろしくお願いします、フリー」

 その言葉に私も笑顔になる。


「うん!」


 こうして私には、学園で初めての女の子の友達ができたのだった。


⸻


 そのまま私とカグラは、リリィお姉様に案内されながら女子寮の廊下を歩いていた。


 寮の中は想像していたよりもずっと綺麗だった。

 磨かれた床。

 大きな窓。

 淡い魔法灯の光。

 どこかお城にも似た雰囲気がある。


「女子寮は二人部屋よ」


 リリィお姉様が説明してくれる。


「何か困ったことがあったら寮母さんか私を頼りなさい」


「うん」


「はい」


 私とカグラは揃って返事をした。

 そして廊下の奥へ進んでいく。

 部屋番号が並ぶ中、リリィお姉様が一つの扉の前で立ち止まった。


「フリー、あなたの部屋はここよ」


「あっ」


 私は扉に掛けられた名札を見る。

 そこには確かに、

 ――フリージア・フェリア

 と書かれていた。


「じゃあ私はここで――」


 そう言いかけた時だった。


「え?」


 隣でカグラが声を上げる。

 見るとカグラも同じ名札を見ていた。


「どうしたの?」


「その……」


 カグラが隣の名札を指差す。

 そこには、


 ――カグラ・ノクツキ


 と書かれていた。

 私は数秒固まる。

 カグラも固まる。

 そして同時に口を開いた。


「「この部屋!?」」


 声が綺麗に重なった。

 一瞬の沈黙。

 次の瞬間、


「同室なの!?」


「みたいです!」


 カグラがぱっと笑顔になる。

 私も思わず笑ってしまった。


「すごい偶然!」


「はい!」


 さっき友達になったばかりなのに。

 まさか同じ部屋だったなんて。

 そんな私たちを見て、リリィお姉様はくすりと笑った。


「良かったじゃない」


「お姉様知ってたの?」


「ええ」


 さらりと言われた。


「知ってたの!?」


「言ったら面白くないでしょう?」


 どうやら最初から分かっていたらしい。

 私は思わず頬を膨らませる。

 するとリリィお姉様は満足そうに微笑んだ。


「それじゃあ私は戻るわ」


 そう言って私の頭を優しく撫でる。


「友達と仲良くするのよ」


「うん!」


 リリィお姉様は最後にカグラにも微笑みかけた。


「フリーをよろしくね」


「はい、お任せください」


 どこか真面目な返事に、私は思わず吹き出してしまった。

 そしてリリィお姉様を見送った後――

 私とカグラは顔を見合わせる。


「入ろうか」


「うん!」


 こうして私たちは、同じ部屋での寮生活を始めるのだった。

 部屋へ入った後、私とカグラは荷物を整理しながらたくさん話をした。

 最初は少し緊張していたけれど、それもすぐになくなった。

 元々顔見知りだったこともあるし、同じ貴族同士ということもあったのかもしれない。


「カゲツグ様はお元気?」


 私が聞くと、カグラは嬉しそうに頷いた。


「はい! 相変わらずです!」


「相変わらず?」


「毎朝鍛錬してます」


『元気だなぁ……』


 思わず苦笑する。

 あの立派な体格を思い出した。


「この前なんて父様に『まだまだ鍛錬が足りん!』って言ってました」


「お父様に?」


「はい」


 カグラは真顔で頷く。

 なんだか納得してしまった。

 そんな話をしているうちに、話題は自然と家族のことへ移った。


「それにしても……」

 カグラが少し遠い目をする。


「フリーのお兄様たちは本当にすごいですね」


「そうかな?」


「そうです!」


 即答だった。

「ロータス様なんて出てきただけで講堂が揺れそうでしたし!」


「あー……」


 確かにすごかった。

 私とレイが耳を塞ぐくらいには。


「リリィ様もすごく綺麗でした」


「うん」


「シルヴァン様も優しそうでしたし」


 そこまでは分かる。

 だが――

 カグラは少しだけ頬を赤くした。


「それで、その……」


「?」


「実は私……」


 もじもじしている。

 珍しい。

 今まで堂々としていたのに。


「アスター様に憧れてるんです」


「へぇー」


 私は素直に頷いた。

 うん。

 分かる。

 格好いいし。

 強いし。

 人気もある。

 ……少し問題児だけど。


「今日も優秀賞をもらってましたし!」

 カグラの目がきらきらしている。

「魔法もすごいですし!」


「うん」


「空間魔法なんて普通使えませんし!」


「そうだね」


 私は相槌を打ちながら聞いていた。

 するとカグラが急に慌てる。


「ち、違いますよ!?」


「何が?」


「別に好きとかじゃなくて!」


『あっ』

 今のはそういうやつだ。


「純粋に尊敬してるだけです!」


「うんうん」


「本当です!」


「うんうん」

 私が笑いながら頷くと、カグラは顔を真っ赤にした。


「信じてませんね!?」


「信じてるよ?」


 たぶん半分くらい。

 そんなことを考えていると、カグラはますます慌て始めた。

 その様子が面白くて、私はつい笑ってしまう。

 こうして気が付けば、窓の外はすっかり夕暮れ色に染まっていた。

 初めての学園。

 初めての寮生活。

 そして初めての女の子の友達。

 思っていたよりずっと楽しい一日だった。





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