↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
34/61

第35話 ルグポカ

お兄様たちが毎週ずらして帰ってきていたことも分かったし、スライム様という素敵なサプライズもあった。


あとは、入学までに少しでも魔力を自分のものにできるよう、頑張らないといけない。

 そんなことを考えているうちに、本格的な冬が始まった。


 


 訓練以外では、ほとんど部屋でぬくぬく過ごす毎日。


 そんなある日――。


 ついに、ガルドから連絡がきた。


『カイロだ!』


 私はすぐに工房へ向かった。


「できたの!? ガルド!」


「おう! 完璧じゃ!」


 ガルドが、キランと歯を光らせる。


「見せて! 見せて!」


「ほれ」


 差し出されたのは、大人の手のひらくらいの大きさのカイロだった。


 一つは、ころんとした可愛いうさぎの形。

 もう一つは、飾りのないシンプルな形をしている。


「かわいい!」


「そっちの可愛いのは、お前さん用じゃ」


 ガルドがうさぎのほうを指さす。


「もう一つは大人向けじゃな」


「ありがとう!」


 私はさっそく、うさぎのカイロを両手で包んだ。


 そして魔力を流してみる。


「……あったかい!」


 じんわりとした暖かさが手のひらに広がっていく。


 魔力を流すのを止めて、しばらく待ってみる。


「…………」


 まだ暖かい。


「ガルド! 消えないよ!」


「ガハハッ! じゃろう!」


 前みたいに、魔力を止めた途端に冷たくなる様子はない。


『できた……! 本当にカイロだ!』

 

「ちと、光魔石を選ぶのに時間を食ってしまっての。すまん」


「全然気にしないよ!」


 私はすぐに首を振った。


「ガルドの作るものは愛情がこもってるし、作りにも信頼してるから!」


「……」


 ガルドは一瞬、何も言わずに私を見つめた。

 それから、少しだけ顔をそらす。


「……そうか」


 いつも豪快に笑うガルドが、珍しく照れていた。

 胸の奥が、じんわりとあたたかくなる。

 それは、ガルドにとって感じたことのない種類のあたたかさだった。

 手の中のカイロよりもずっと――。

「……おっと、そうじゃ」


 照れを隠すように、ガルドがカイロへ視線を戻した。


「これの商品名、どうするよ」

『んー。ホッカイロでもいいけど……』


「ねえガルド。これに使った魔石の魔獣って、なんて名前なの?」


「こいつか? ルグナじゃ。大人しい魔獣なんじゃが、何でも食ってしまうからの。増えすぎんよう、定期的に狩って数を調整しておる」


「ルグナかぁ……」


 私は手の中のカイロを見つめる。


「じゃあ、ルグポカって名前はどう?」


「ルグポカ?」


「うん。ルグナとポカポカをくっつけて、ルグポカ!」


『……結構安易かも。私、ネーミングセンスないな』


 けれどガルドは、うんうんと頷いた。


「分かりやすくていいんじゃないか!」


「ほんと?」


「おう! それで決定じゃ!」


「やった! じゃあ今日からこれはルグポカね!」


ルグポカは無事に完成した。


 ただ、すぐに大量生産できるほどの準備はまだ整っていなかった。

 必要な魔石の確保や、作る人手、細かい調整もある。

 だから本格的に売り出すのは、次の冬に間に合うよう準備を進めることになった。


 その代わり、ガルドは私とレイの分と宣伝用に、試作品を十個ほど用意してくれた。

 私はさっそく一つをいつもポケットに入れ、ランとダリアンにも一つずつ渡した。


 すると数日後。

 意外にも、ランよりダリアンのほうがものすごく気に入っていた。


「フリージア様! 部隊のみんなに自慢しましたよ!」


「自慢?」


「はい!」


 どうやら冬の狩りに出た時、かなり役に立ったらしい。


 ダリアンは楽しそうに、その時のことを話し始めた。


「お前、いつも寒い寒いって騒いでるのに、今日はずいぶん平気そうだな」


「聞きたいか?」


「なんだよ、その顔」


「これだ! フリージア様たちが作ったルグポカ!」


 そう言って、ダリアンは得意げにルグポカを取り出したらしい。


「ほら、試しに持ってみろ」


「……なんだこれ! あったけぇ! めちゃくちゃポカポカするじゃねぇか!」


「だろー! すげぇだろ! これ持ってるだけで全然違うんだよ!」


「これ、くれ!」


「やだ! フリージア様から頂いたものだぞ! あげるわけないだろ!」


「じゃあ、いつ売るんだよ!」


「発売は次の冬前だと思う。ガルド殿が言っておった」


「くそー! そこまで待つのか!」


 ――そんなやり取りがあったらしい。


 それ以来、第一隊の中ではルグポカの話でかなり盛り上がっているそうだ。


『まだ売ってもないのに……』


 しかも、ルグポカは私が前世で知っていたカイロより、ずっと暖かい範囲が広いらしい。

 胸元や腰のあたりに入れておくだけでも、体全体がじんわり暖かくなるという。

『やっぱり魔石ってすごいなぁ』


そして、お兄様たちが長期のお休みで帰ってきた。


 せっかくだから、私はみんなにルグポカを一つずつプレゼントすることにした。


「はい! これ、お兄様たちに!」


 渡しただけでも十分喜んでくれたけれど、使い方を説明して実際に暖かくなると、反応はさらに大きくなった。


「これ、すごいな!」


「本当に暖かい!」


「フリージアが作ったの?」


「ガルドとレイと一緒にね!」


 そんな中、ロータスお兄様だけはルグポカを手に取ると、少し確かめるように眺めていた。


「なるほど……光魔石に魔力を溜めて、それを少しずつ流しているのか」


「えっ」


 まだ詳しく説明してないのに。


「それに、この暖かさ……中にはルグナの魔石も使っている?」


「……うん」


『さすがロータスお兄様……』

 仕組みをほとんどすぐに理解してしまった。

  すると、ルグポカを手にしていたアスターお兄様が、ぽつりと言った。


「これ……俺の剣にも利用できないか?」


「剣に?」


「ああ。今も火魔法を助ける魔石は付けてるけど、持つところにこれを仕込んでさ。冬用の剣みたいにできないか?」


 アスターお兄様は、自分の剣の柄を軽く叩く。


「俺は火属性だから寒さはほとんど気にならないけど、他のやつらにはいいんじゃないか?」


『……あ』


 その言葉を聞いて、私はハッとした。


『それ、面白いかも!』


 ルグポカは、ポケットに入れて持ち歩くだけじゃなくてもいい。

 寒い場所で使う道具そのものに組み込むことだってできる。


「アスターお兄様、それいいかも!」


「だろ?」

 アスターお兄様が得意げに笑った

 今度は、リリィお姉様がルグポカを眺めながら、ぽつりと言った。


「じゃあ、これ……お茶のカップの下に置けない?」


「カップの下?」


「うん。冬ってすぐ冷めちゃうじゃない? ずっと暖かいままだったら嬉しいなって」


『おっ! それも素晴らしい!』


「お姉様たち、さすがです!」


 私が感心していると、アスターお兄様が得意げに笑い、リリィお姉様も嬉しそうに微笑んだ。

 そんな中、シルヴァンお兄様だけは何も言わず、ルグポカを手にしたままじっと考え込んでいる。


「これ……鉢の中に入れて使えるかも」


「鉢?」


「うん。暖かい時にしか咲かない花も、これを使えば冬でも咲くかもしれない」

「あっ」

「野菜にも使えるかも……?」

 シルヴァンお兄様はルグポカを見つめながら、ぶつぶつと独り言を続ける。


「土の温度が上がれば……今度、実験してみよう」


 そして突然、ぱっと顔を上げた。

「フリージア! これ、僕が実験に使ってもいいかな?!」


「う、うん! もちろんです」


「ありがとう!」

 もう頭の中は実験のことでいっぱいらしい。


『みんな使い方が全然違う……』

『やっぱり、お兄様たちは秀才だわ……』

 私はルグポカを見つめる。

 ただ暖まるだけの魔道具だと思っていたのに、使い方はまだまだありそうだ。

 そして冬が終われば、私とレイの入学式がある。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。