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第31話 生産が。。

私が作ったドライヤーが、飛ぶように売れていたのだ。

 最初は学園の生徒たち。

 そこから家族へ話が伝わり、貴族や商人へ。

 さらにトーキア国でもナナト様の奥様が宣伝してくれたことで、噂はあっという間に国外へまで広がっていった。


 髪を乾かす時間が大幅に短くなる。

 魔力を持つ者なら比較的安価なものを。

 魔力をほとんど持たない者でも、魔石を使ったものなら使用できる。

 特に髪の長い女性たちからの評判は凄まじかったらしい。


 結果――。


「生産が追いつきません!」


 工房は大変なことになっていた。

 注文してもすぐには手に入らず、完成待ちの状態。

 職人たちは朝から晩までドライヤーを作り続けている。

 それだけなら、まだよかった。

 問題はもう一つ。

 ドライヤーそのものだけでなく、それを作った技術まで注目されてしまったのだ。


「ぜひ弟子にしていただきたい!」


「一度でいい! 工房を見学させてくれ!」


「あの魔道具を作った方に会わせてほしい!」


 各地から魔道具職人や研究者が押し寄せるようになり――。

 ついには、城門の前に毎日のように人だかりができるようになってしまった。


「…………」


 窓から外を覗いた私は、そっとカーテンを閉めた。


『なんでこんなことになってるの……?』


 工房は城内にある。

 つまり工房へ押しかけようとすれば、当然みんな城門で止められる。

 その結果が――あれだ。


「ガルド殿! どうかお取り次ぎを!」


「弟子入りをお願いしたい!」


「フリージアってのは、ここの姫君の名前だろ?」


「本当に姫君があの魔道具に関わってるのか?」


「まだ幼いって聞いたぞ」


「まぁ、それはいい! 一度ガルド殿に会わせてくれ!」


 今日も城門の外から、そんな声が聞こえてくる。


『……まだいる』


 ドライヤーが売れるのは嬉しい。

 私が関わったものをこんなにも多くの人が認めてくれたことだって、もちろん嬉しい。


 でも――。


さすがに毎日となると、お父様も放っておけなかったらしい。

 ある日、私に声をかけてきた。


「フリージア。あれをどう思う?」


 お父様が窓の外へ視線を向ける。

 今日も城門の前には、弟子入りを希望する人たちが集まっていた。


「……すごいね」


「嬉しいことではあるんだがね」


 お父様は苦笑する。


「このまま毎日、城門に集まられても困る」


「それはそうだね……」


 そこでお父様は、ガルドへ視線を向けた。


「ガルド。あれをどう思う?」


 ガルドも城門の方を見て、少し困ったように頭を掻いた。


「嬉しいは嬉しいんじゃがのぉ。わしにはすでに工房の弟子がおるからの」


「だが、生産は追いついていないだろう?」


「……そうじゃの」


「なら、あそこにいる者たちから何人か選んで弟子にしろ。選ぶ基準はガルドに任せる」

 

「わしが選んでよいのか?」


「もちろんだ。実際に一緒に働くのはガルドたちだからな」


 お父様はさらに続ける。


「生産を止めるわけにもいかない。人手を増やそう。今の工房では手狭になるというなら言ってくれ。すぐに広げる」


「そこまでしてもらえるなら助かるのぉ」


「これだけ注文が来ているんだ。必要なことだよ」


 ガルドはしばらく城門に集まった人たちを眺め――。


「分かった。何人か見てみるとするかの」

 ガルドはそう言って頷いた――かと思えば。


「それと、工房を大きくしてくれると言ったな?」


「ああ。必要ならすぐに手配するよ」


「なら、遠慮なく言わせてもらおう」


 ガルドの目がキラリと光った。


「まず、今より火力の強い釜が欲しい」


「ああ」


「それから、もっとでかい作業場じゃ。人数を増やすなら今の広さでは足りん」


「分かった」


「魔石専用の保管庫も必要じゃな。属性ごとに分けられるよう棚も多めにしてくれ」


「それも手配しよう」


「武器庫は特に頑丈にな。剣や防具だけじゃなく、作りかけの物も置くからの」


「……分かった」


 ガルドの要求が止まらない。


「あとは、わし専用の作業部屋」


「専用?」


「当然じゃろ。集中して細かい作業をする場所が欲しかったんじゃ」


「…………まあ、いいだろう」


「それから、その部屋の隅にフリーとレイの作業台も作ってくれ」


「私たちの?」


 突然名前が出てきて、私は顔を上げた。


「お主ら、どうせまた何か作りに来るじゃろ」


「……たぶん?」


「毎日来るわけではないから、大きいものはいらん。二人で使えるくらいのコンパクトなやつでいい」


『私たち専用の作業台!』


 それはちょっと嬉しい。


「それから、作業場、倉庫、釜、保管庫。全部の動線はしっかり考えてくれよ。行ったり来たりするだけで時間を取られるような作りは嫌じゃ」


「……ずいぶん具体的だな」


「前から考えておったからの」


『絶対これ、言う機会を待ってたよね?』


 お父様も同じことを思ったのか、若干呆れた顔をしている。


「まだあるぞ」


「まだあるのか?」


「もっと言えば――」


 ガルドは窓の外を指さした。


「わしらの住んどる城の横に、新しく建てられんか?」


「…………」


「…………」


『工房を広げる話じゃなかったっけ?』


 いつの間にか、新しい工房を丸ごと一棟建てる話になっていた。


「ガルド」


「なんじゃ?」


「ここぞとばかりに要求してないか?」


「工房を大きくしたいなら言えと言ったのはお主じゃろ?」


「……言ったな」


「なら問題ない!」


 ガルドは満足そうに笑った。


『強い……』


 結局、お父様は少し考えたあと、


「……分かった。場所も含めて検討しよう」


 と答えた。


「おお! 頼んだぞ!」


新しい工房の話がまとまると、ガルドはさっそく弟子の選抜に動き出した。

 翌朝、城門の前に一枚の通達が貼り出された。


『ガルド工房 弟子選抜試験』


『採用人数――十名ほど』


『種族は問わず』


 ただし、その下には大きく一つの条件が記されていた。


『選抜試験を受ける者は、城門を通った時点で国王陛下の配下となることを了承したものとする』


『その条件を受け入れる者のみ、この門を通れ』


 城門の前には、百人近い人が集まっていた。

 けれど通達が貼り出されると、一気にざわめきが広がった。


「国王の配下になるのか……」


「弟子入りするだけではないのか?」


「それでは簡単には国へ帰れないぞ」


 ガルドの技術を学びたい。

 けれど、そのために今までの生活を捨て、この国に仕える覚悟まであるのか。

 それはまったく別の話だった。

 一人、また一人とその場を離れていく。


 そして――。


 しばらくして城門の前に残ったのは、二十人ほどだった。


「……ずいぶん減ったのぉ」


 ガルドはその様子を見ながら呟いた。


「でも、これでも採るのは十人だろう?」


「そうじゃ。ここから半分じゃな」


 残った二十人は、もう誰も帰ろうとはしなかった。


「条件を承知した者は、門を通れ!」


 門番の声が響く。


 一人目が城門をくぐった。


 続いて二人目。

 三人目。


 やがて残った全員が、城の中へと入っていった。

 百人近くいた弟子入り希望者は、ここで二十人ほどにまで絞られた。

 でも、これはまだ選抜ですらない。

 ただ――覚悟があるかを確かめただけ。

 本当の試験は、ここから始まる。


城門をくぐったのは、二十人ほど。


 集まった者たちの種族はさまざまだった。


 ドワーフ族、ヒューマ族、オーク族、鬼神族――ほかにも見たことのある種族、初めて見る種族までいる。


 年齢もばらばらで、男女問わず集まっていた。


『ほんとに種族関係ないんだ』


 そして私とレイは、ガルドと一緒に試験会場をこっそり覗いていた。


 もちろん、受験者たちからはこちらの姿は見えない。


「ガルドは行かなくていいの?」


「最初はな」


 今回、最初の試験を担当するのはガルドではなく、もともと工房にいる弟子たちだった。


「最初から魔道具を作らせるのかと思った」


「そんなもんは後じゃ」


「そうなの?」


「知識や技術なんぞ、弟子になってからいくらでも叩き込める」


 ガルドは腕を組んだまま、二十人を眺める。


「まず見たいのは、こいつらにどれだけ熱意があるかじゃ」


「熱意……」


「うむ」


 国王の配下になるという条件を呑んでまで、ここへ入ってきた二十人。


 それだけでも覚悟はあるように思えるけれど、ガルドからすれば、それだけでは足りないらしい。


「腕がいいだけの奴ならいくらでもおる。じゃが、わしが欲しいのは、知らんことを知ろうとする奴じゃ」


 ガルドがニヤッと笑った。


「さて――どれだけ残るかのぉ」


『なんか楽しそう……』


 隣を見ると、レイもじっと試験会場を見つめていた。


 やがて、ガルドの弟子の一人が受験者たちの前へ出る。


「それでは、これより第一の試験を始める」


 二十人の表情が、一斉に引き締まった。


『熱意を見る試験って……何するんだろ?』


 私も少しだけ身を乗り出した。


「それでは、これより第一の試験を始める」


 ガルドの弟子たちが運んできたのは、いくつもの古びた魔道具だった。


 壊れているのか、どれも動く気配がない。


 それが一人に一つずつ配られ、その横にはいくつかの工具が置かれた。


「今から、この魔道具を好きにしてください」


「……好きに?」


 受験者たちがざわついた。


「以上です」


「直せということですか?」


「好きにしてください、とだけお伝えします」


「制限時間は?」


「この砂時計が落ちるまで」


「……は?」


『え、それだけ!?』


 私も思わずガルドを見る。


「ガルド、これ何する試験なの?」


「だから言ったじゃろ。熱意を見るんじゃよ」


 ガルドは楽しそうに二十人を眺めていた。

 試験が始まる。

 すぐに工具を手に取って魔道具を分解し始める者。

 まず外側からじっくり観察する者。

 魔法陣らしきものを見つけ、紙に書き写し始める者。


「これは何に使われていた物ですか?」


 監督役の弟子に質問する者もいた。


「質問していいの?」


 私が小声で聞くと、ガルドは頷いた。


「もちろんじゃ」


「教えちゃうの?」


「聞かれたことはな」


「それじゃ、いっぱい聞いた人の方が有利じゃない?」


「それでいい」


「え?」


「分からんことを分からんままにしておく奴より、頭を下げてでも聞ける奴の方がええ」


「なるほど……」


 しばらくすると、受験者たちの違いが少しずつ見えてきた。

 直そうと何度も試す者。

 直せなくても、中の仕組みを夢中になって調べ続ける者。

 一度組み直したのに納得できず、また分解する者までいる。

 逆に――。


「こんな古い魔道具、直せるわけがない」


 早々に工具を置いてしまう者もいた。

 ガルドが小さく鼻を鳴らす。


「あやつは落とす」


「早っ!」


「直せんからではないぞ」


「諦めたから?」


「そうじゃ」


 ガルドの視線は、もう次の受験者へ向いていた。


「知らんことも、できんことも、わしが教えてやれる。じゃが――」


 楽しそうに魔道具を分解している一人を見て、ガルドがニヤッとする。


「知りたいと思う気持ちまでは、わしには教えられんからの」


『おぉ……』


 なんかガルド、師匠っぽい。


「そこまで! 工具を置け!」


 砂が落ち、監督役の弟子の声が響いた。


「あぁ……あと少しだったのに」


「まだここが……」


 名残惜しそうに手を止める者もいれば、完成した魔道具を満足そうに眺めている者もいる。


 結局、一時間で魔道具を直せた者は数人だけだった。


『やっぱり難しかったんだ』


 けれど、試験はそれで終わりではなかった。


 今度は監督役の弟子たちが、一人ずつ受験者のところを回り始める。


「何をしようとしていた?」


「この部分の魔法陣が途切れていたので、そこを繋ぎ直そうとしていました。ただ、魔力の流れがうまくいかなくて……」


「続ければ完成できそうか?」


「はい。原因は分かったので、もう少し時間があれば」


 弟子は頷き、何かを書き留めた。


 別の者は、魔道具をほとんど直せていなかった。


「何をしようとした?」


「最初は魔石が原因だと思ったんですが、途中で違うと気づきました。それで全部調べ直していたところです」


「では、今は?」


「たぶんここです」


 そう言って指した場所を見て、監督役の弟子がまた何かを書き込む。


『完成してなくてもいいんだ』


 私は小声でガルドに聞いた。


「あれも見るの?」


「当然じゃ。完成したかどうかだけでは分からん」


「じゃあ、何を見るの?」


「何を作ろうとしたのか。なぜそう考えたのか。そして、完成しておらんのなら、その先に完成の見込みがあるかじゃな」


「なるほど……」


 たまたま上手くいかなかっただけなのか。

 それとも、そもそも考え方が何もないまま触っていただけなのか。


 そこを見るらしい。


 そして、すでに魔道具を直していた者のところでは――。


「おお、直ったか」


「はい」


「そうかそうか。どうじゃった?」


「……どう、とは?」


「久しぶりに触る魔道具じゃったろ。楽しかったか?」


「え?」


 あまりにも普通の会話のように聞いたので、私も一瞬、試験の質問だとは思わなかった。


「はい! 途中で昔の構造が出てきた時は興奮しました。今の魔道具とは魔力の通し方が違っていて――」


 急に楽しそうに話し始める。


 ガルドがニヤッとした。


『あ、これも試験なんだ』


 反対に、


「別に。直すだけなら難しくありませんでした」


 そう答える者もいる。

 ガルドは何も言わない。

 ただ、その人物の名前の横に何かを書き込んだ。


『何書いたんだろ……』


「ガルド、今の人すごくない? ちゃんと直してたよ」


「腕はあるのぉ」


「じゃあ合格?」


「さてな」


 ガルドはそれ以上答えなかった。


「わしが欲しいのは、ただ直せる奴ではないからの」

 

「第二試験を始める!」


 十八人の前に、種類の違う魔石がいくつも並べられた。


「これより、魔石に関する知識を確認する」


 問われるのは、魔石の属性や品質、含まれている魔力量。

 どのような魔道具に向いているのか。

 そして、扱う際に注意すべきこと。


「この魔石の属性を答えよ」


「次。この二つのうち、より多くの魔力を蓄えられるものを選べ」


「この魔石を加工する際、最も注意すべきことは?」


 次々と問題が出されていく。


『今度はちゃんと知識の試験なんだ』


「ガルド、これは知らなかったらダメ?」


「全部知っておる必要はない」


「そうなの?」


「知識は後から教えられるからの。ただ、今どれくらい知っておるのかは見ておきたい」


 ガルドは腕を組んだ。


「それに魔石は扱いを間違えれば危険じゃ。最低限の知識があるか、それと――」


「それと?」


「知らんことを、知らんと言えるかじゃな」


『なるほど』


 適当に答えて危険な扱いをする人より、分からないから触らないと判断できる人の方がいいらしい。

 第二試験が終わり、しばらくして結果が発表された。


 十八人いた受験者のうち――。


 落とされたのは、五人。


「えっ、五人も!?」


 思わず声が出た。


『意外……』


 試験を見ていた限り、みんなそれなりにちゃんと答えていたように見えた。


「ガルド、なんで? みんな結構答えられてなかった?」


「答えてはおったな」


「じゃあなんで?」


 ガルドは落とされた五人を見ながら、ふんっと鼻を鳴らした。


「知ったかぶりじゃよ」


「知ったかぶり?」


「分からんものまで、さも知っておるように答えておった」


「でも、たまたま間違えただけかもしれないよ?」


「間違えること自体は構わん」


 ガルドはきっぱりと言った。


「考えた末に間違えるのと、知らんことを知っておるふりをするのは別じゃ」


「……なるほど」


「わしは知ったかぶりする奴が嫌いでな」


 ガルドが監督をしていた弟子たちを見る。


「あやつらも同じ意見だったようで、よかったわい」


 どうやらガルドが口を出す前に、弟子たち自身がその五人を不合格にしていたらしい。


『そこまで見るんだ……』


 特に魔石は、扱い方を間違えれば危険なものだ。


 知らないなら、知らない。

 分からないなら、分からない。


 それを素直に言えることも、ここでは必要らしい。


 これで残ったのは十三人。


 採用されるのは十人。


『あと三人か……』


 いよいよ次が、最後の試験だった。

 

これで残ったのは十三人。


 今まで試験を任せていた弟子たちに代わり、ここで初めてガルド本人が受験者たちの前へ出た。


「わしがガルドじゃ。よろしく」


「……!」


 十三人の間に小さなどよめきが起こる。

 城門の前にまで押しかけ、弟子入りを願っていた相手がようやく目の前に現れたのだ。

 

『おぉ……やっぱりガルドが出ると空気変わる』


 私とレイは、変わらず試験を受ける人たちから見えない場所でその様子を見ていた。


 受験者たちの前には、たくさんの材料が並べられている。


 大小さまざまな魔石。

 金属や木材。

 武器を作るための素材に、魔道具に使う部品。


 工房にある材料が、惜しげもなく用意されていた。


 ガルドが十三人を見渡す。


「最後の試験じゃ」


 全員がガルドの言葉を待つ。


「ここにあるもんを好きに使え」


「……好きに?」


「そうじゃ」


 ガルドはニヤッと笑った。


「好きなものを作れ」


 ざわっと十三人が顔を見合わせる。


「武器でもええ。魔道具でもええ。自分が作りたいと思ったもんなら、なんでも構わん」


「設計も自由ですか?」


「自由じゃ」


「工房の設備は?」


「好きに使え。ただし壊すなよ」


 ガルドが窓の外へ目を向ける。


 まだ日は高い。


「時間は――日が沈むまでじゃ」


「…………」


「完成させられるかどうかも、何を作るかも、お主ら次第じゃ」


 ガルドはそれ以上、何も説明しなかった。


「ほれ、始めろ!」


 その一言で、十三人が一斉に動き出した。

 真っ先に材料へ向かう者。

 その場に残って何を作るか考える者。

 魔石を一つずつ確認してから選ぶ者。

 さっそく紙を広げ、何かを書き始めた人もいる。


それぞれが作業を始めたのを確認すると、ガルドは試験会場を離れ、私とレイが待つ場所へ戻ってきた。

 

「ガルド、最後は何を見るの?」


「全部じゃ」


「全部?」


「何を作りたいと思うのか。材料をどう選ぶのか。作る途中で失敗した時にどうするのか。時間の使い方もじゃ」


 ガルドは工房へ散っていく十三人の背中を見ながら続けた。


「それに――」


 少し楽しそうに口角を上げる。


「こいつらが、何を作ってわしを驚かせてくれるのかも見たいからの」


『……最後だけガルドの趣味も入ってない?』


 隣を見ると、レイも同じことを思ったのか、少しだけ笑っていた。


十三人が作業を始めると、工房の中は一気に騒がしくなった。


 金属を叩く音。

 木を削る音。

 魔石を加工する小さな音。


 私もレイも、いつの間にか真剣にその作業を見つめていた。


 ガルドもじっと一人だけを見るわけではなく、時折場所を移動しながら、それぞれの手元を覗いている。


 しばらく見ていると、少しずつ何を作ろうとしているのか分かってきた。

 一人のドワーフ族の男性は、剣を作っていた。


 ただの剣ではない。

 何度も刃の厚みを確認しながら削り、柄との重さの釣り合いまで細かく調整している。


『すごい……細かい』


 別の場所では、ヒューマ族の女性が小さな魔道具を作っていた。


 何に使うものなのか最初は分からなかったけれど、どうやら暗い場所を照らすためのものらしい。

 大きな明かりではなく、手に持って使えるよう小さくしようとしている。


『あれ、便利そう!』


 その少し奥では、オーク族の男性が金属板と木材を組み合わせていた。


 何度も組み立てては外し、削って、また組み立てる。


「……何作ってるんだろ」


「たぶん盾だと思う」


「盾?」


 レイに言われて見ていると、ようやく形が見えてきた。


 普通の大きな盾ではなく、腕に取り付ける小さな盾だ。

 邪魔にならないよう、できるだけ軽くしようとしているみたいだった。


 そして、もう一人。


 鬼神族の若い女性は、さっきから失敗ばかりしていた。


 作っているのは、小さな魔道具。

 けれど組み上げて魔石を取り付けても動かない。


「あ……また」


 私は思わず呟いた。


 彼女は一度大きく息を吐く。


 それでも投げ出さなかった。


 もう一度分解して、原因を探している。


『あの人、さっきからずっとやり直してる』


 ガルドも何度か彼女のところを見に行っていた。


 何も言わない。

 ただ手元を見て、また別の人のところへ向かう。


 私も夢中になって作業を眺めていると――。


「どの人が気になる?」


「んー……」


 私は工房を見渡した。

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