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第24話 共同開発

「前から何か作ってみたいなって思ってたの。それで、この前お父様からもらった魔石があったでしょ?」


「ああ」


「その中から火と風の魔石を使ったの」


「……二つ使ったのか?」


「うん」


 お父様の表情が少し変わったけれど、私はそのまま話を続ける。


「でも私じゃ形にできないから、ダリアンに工房へ行きたいってお願いしたの。それでガルドに会わせてもらった」


「なるほど」


「こういうのが欲しいって私が説明して、ガルドが作ってくれたの。最初はただの筒みたいだったんだけどね」


 そこから、火と風の魔石を一緒に動かしてみたこと。


 風が両側から出てしまったこと。


 レイが風を一方向に流す方法を考えてくれたこと。


 火の魔石では温度が安定せず、ガルドがヴァルガの魔石を選んでくれたこと。


 そしてガルドが、今の使いやすい形に仕上げてくれたこと。


 全部、ちゃんと説明した。


「だから、私一人で作ったんじゃないよ。ガルドとレイと一緒に作ったの」


「…………」


「お父様?」


 なぜか黙ってしまった。


 お父様はドライヤーを手に取ると、しばらく眺めてから尋ねた。


「フリー。これがどれだけすごいものか、分かっているか?」


「え?」


「お母様の髪を乾かすものでしょ?」


「……そうなんだが」


 お父様は小さく息を吐いた。


「そこじゃない」


『え?』


「これは、異なる属性の魔石を一つの魔道具の中で同時に使い、それぞれの力を一つの目的のために働かせている」


 お父様は火と風の魔石が入っている場所を順番に指した。


「しかも、使う者自身が火や風の属性を持っている必要がない。少量の魔力を流すだけで、誰でも同じ結果を得られる」


「あ……」


「お母様は『フリーからもらったのよ』と嬉しそうに使っていたが――」


 お父様が少しだけ苦笑する。


「私はこれを見て、そんな呑気な話ではないと思った」


『お母様……』


 なんとなく想像できる。


 きっと便利とか発明とかより、私からもらったことの方が嬉しかったんだろう。


「フリー」


「はい」


「これを売るつもりはあるのか?」


「えっと……」


 私は少し考えてから頷いた。


「ガルドは売れるって言ってた。使ってくれた人たちからも、早く売ってほしいって言われてるよ」


「やはりか」


 お父様は少し考え込んだあと、私を見た。


「ならば、売り始める前に話しておかなければならないことがある」


「なに?」


「この魔道具の権利と、そこから生まれる利益についてだ」


「…………権利?」


『あ』


 そこでようやく、私も気づいた。


『そうか。作って売ったら終わりじゃないんだ』

 お父様はドライヤーを机の上に置くと、話を続けた。


「これを販売すること自体は構わない。これだけ評判がいいのなら、欲しがる者も多いだろう」


「うん」


「だが、売るとなれば、ただ作ればいいという話ではない」


 お父様は一つずつ説明するように、指を折った。


「まず、これを作るための材料が必要になる。職人に作ってもらうなら、その費用もかかる。使う魔石だって、いくらでも手に入るわけではない。どこで採れるのか、どれだけ確保できるのかも考えなければならない」


「……うん」


 なんだか急に難しい話になってきた。


「そして、もう一つ大事なのが――これの権利だ」


「権利?」


「そうだ」


 お父様はドライヤーを指した。


「フリーにはまだ少し難しい話かもしれない。でも、これはフリーが考えたものだ。だからこそ、きちんと考えなければいけない」


「……何を?」


「誰がこれを作っていいのか。誰が売っていいのか。そして売れた時、その利益をどうするのか」


「…………」


『そんなこと、全然考えてなかった』


 欲しいものを思いついて、ガルドに相談して。

 できたら嬉しくて、みんなにも使ってほしいと思った。


 それだけだった。


「もちろん、今すぐ全部フリー一人で決めろとは言わないよ」


 お父様は少し表情を和らげた。


「でも、『分からないから全部大人に任せる』ではいけない。フリーが生み出したものなんだからね」


「……うん」


「ガルドやレイとも話してごらん。誰が何をしたのか、それぞれがどうしたいのか。まずはそこからだ」


『権利に、利益に、生産費……』


 私は机の上のドライヤーを見つめた。


『物を作るって、完成したら終わりじゃないんだ……』


 五歳の私には、ちょっと難しい。


 いや、かなり難しい。


『……ガルド、そこまで考えて「売りつけよう!」って言ってたのかな』


 なんだか、ものすごく怪しい気がしてきた

  私はその足で、ガルドの元へ向かった。


 まずは、みんなに使ってもらった結果を報告する。


「すっごく評判よかったよ! お母様も喜んでくれたし、メイドたちも使いやすいって。魔力もほとんど使わないし、風魔法が使えない人でも髪を乾かせるから便利だって!」


「ほれ見ろ!」


 ガルドが嬉しそうに胸を張った。


「だから売れると言ったじゃろ!」


「それに、リリィお姉様が学園に持っていったら、どこで買えるのかいっぱい聞かれたって」


「ガハハ! そりゃあいい! なら、さっさと作って売るぞ!」


「おー!」


 私もつられて拳を上げる。


「…………あ」


 危ない。


 勢いでそのまま進めるところだった。


『違う違う。お父様に言われたばっかりじゃん』


「待って、ガルド!」


「なんじゃ?」


「売る前に決めなきゃいけないことがあるの」


「ん?」


「お父様に言われた。作るためのお金とか、魔石をどうやって集めるかとか……あと、権利と利益!」


「ほぉ」


 ガルドは少し意外そうに眉を上げた。


「ちゃんと考えてから売りなさいって」


「なるほど。さすが王子じゃな。その辺りは抜かりない」


『やっぱりガルドは考えてなかったの?』


 じーっと見つめると、ガルドが豪快に笑った。


「ガハハ! わしは作るのが仕事じゃ! 商売の細けぇことは専門外じゃ!」


『やっぱり!』


「でもね、これ、私だけで作ったものじゃないでしょ?」


 私は完成したドライヤーを指さした。


「考えたのは私だけど、形にしてくれたのはガルドだし、途中でレイもいろいろ考えてくれた」


 だからこそ、お父様に言われた『権利』をどうすればいいのか、私にはまだよく分からない。


「ガルドはどうしたい?」


 そう尋ねると、ガルドは少しだけ驚いた顔をした。

「わしは権利なんぞいらん!」


 ガルドは迷うことなく言い切った。


「こいつはお嬢ちゃんが思いついたもんじゃ。権利は全部お嬢ちゃんにやる」


「んー……」


 私はドライヤーを見つめた。


 確かに、作りたいと言い出したのは私だ。

 前世にあったものを思い出して、こんなものが欲しいとガルドに頼んだ。


 でも――。


「それは私が嫌なの」


「なんでじゃ?」


「だって、私一人じゃ作れなかったもん」


 私はガルドを指さした。


「形にしてくれたのはガルドでしょ?」


 次にレイを見る。


「風を一方向にする方法を考えてくれたのはレイだし、魔力がない人でも使えるようにしようって考えたのもレイ」


「僕はそんなに――」


「したの!」


 レイの言葉を遮ると、レイはそのまま口を閉じた。


「だから、これは三人で作ったものなの。権利も三人のものにしたい」


 私は三本の指を立てた。


「…………」


 ガルドがしばらく私を見つめる。


「お嬢ちゃん、権利ってもんが何か、本当に分かっとるか?」


「……だいたい?」


「ガハハハ! 正直でよろしい!」


「でも、私だけのものにするのは違うってことは分かるよ」


「まったく……頑固なお嬢ちゃんじゃな」


「ガルドに言われたくない」


「ガハハ! そりゃそうじゃ!」


 豪快に笑ったあと、ガルドは今度はレイを見た。


「坊主はどうじゃ?」


「僕?」


「お嬢ちゃんはこう言っとるぞ。お主も権利を持つことになる」


 レイは少し考えてから、私を見る。


「……フリージアがそうしたいなら、それでいい」


「じゃあ決まり!」


「まだじゃ」


「え?」


「三人のものにするなら、次は取り分を決めにゃならん」


「取り分……」


『あ、お父様も利益がどうとか言ってたな』


 私は少し考えた。


 三人で作った。

 三人の権利。


 だったら――。


「三等分でいいんじゃない?」


「…………」


 ガルドが黙った。


「三人だから、三等分」


「お嬢ちゃん……」


「なに?」


 ガルドが大きなため息をついた。


「売った金をそのまま三等分する気か?」


「違うの?」


「違うわ!」


 また大きな声を出されて、思わず肩が跳ねた。


「材料はどうする! 魔石はタダで湧いて出てくるんじゃないぞ。採りに行く者がおる。運ぶ者もおる。加工する職人にも賃金を払わにゃならん!」


「あ……」


「店で売るなら、それにも人がいる。壊れた時の修理も考えにゃならんじゃろう」


「…………」


『いっぱいある……』


 お父様が言っていた生産コストって、こういうことか。


「じゃあ、それを全部払って、残ったお金を三等分!」


「そう単純でもないんじゃが……」


「まだ違うの!?」


 思わず声が出た。


 作るのはあんなに楽しかったのに。

 売るとなった途端、急に難しいことばかりだ。


「権利を三人で持つことと、売れた利益を三等分することは別の話じゃ。わしはこいつを作る工房の人間でもあるからな」


「……もう分かんない」


「わしも商売の専門家ではないわ!」


「ガルドも分からないの!?」


「細けぇ金勘定なんぞ、わしに聞くな! わしは作る方じゃ!」


『さっき偉そうに説明してたのに!』


 横を見ると、レイも難しそうな顔で考えていた。


「……お父様に聞こう」


「それが一番じゃな」


「うん」


「そうした方がいいと思う」


 レイまで即答した。


 こうして私たちは、三人揃ってお父様のところへ相談に行くことになった。


 ◇◇◇

「それで、三人で来たのか」


「はい……」


 事情を説明すると、お父様は少し笑っていた。


『なんか楽しんでない?』


「でも、三人で権利を持ちたいというフリーの考えは分かったよ」


「できる?」


「もちろんできる。ただし、権利と利益の分配は分けて考えた方がいい」


 お父様は紙を一枚取り出した。


「まず、この魔道具を作って売るために必要なお金を考える。魔石、材料、職人への賃金、運搬にかかる費用。それらは売上から先に差し引く」


「うん」


「それとは別に、この魔道具を考えた者には権利がある。誰かが勝手に同じものを作って売ることがないよう、三人の名で登録しておけばいい」


『やっぱり特許みたいなものだ』


「そして、販売した利益の一部を権利を持つ三人が受け取るようにする」


「じゃあ、そこを三等分?」


「三人がそれで納得するならね」


 私はすぐにガルドとレイを見た。


「私はそれがいい」


「僕は……別にもらわなくても」


「ダメ」


「…………」


「ガルドも!」


「わしもいらんと言っとるじゃろ」


「ダメ!」


「なんでじゃ!」


「三人で作ったから!」


「またそれか!」


「またそれです!」


 しばらく睨み合う。


 先に折れたのはガルドだった。


「……分かった、分かった! 好きにせい!」


「じゃあ三等分!」


「はいはい」


 ガルドは面倒そうに手を振っているけれど、少し笑っていた。


 レイも最後には小さく頷いた。


「では、その形で登録の手続きを進めよう」


「お願いします!」


 お父様が書類に何かを書き始める。


 私はその様子を眺めながら、ふと思った。


『……あれ?』


 髪を乾かしたかっただけなのに。


 気づけば魔道具を作って、権利を持って、これから売ることになっている。


『なんか、話が大きくなってない?』


 でも――。


 売れたら、たくさんの人がこれを使うことになる。


 そう考えると、ちょっとわくわくした。


 ――ところが、それから間もなく。


 私はまた、お父様に呼び出された。


『今度はなんだろ?』


 部屋に入ると、お父様の前にはガルドとレイがいる。

 そして机の上には、完成したドライヤーと、魔力がなくても使えるよう改良中のもの。

 さらに、水洗トイレの試作品まで並べられていた。


『……あ』


 なんとなく呼ばれた理由が分かった。

 お父様は机の上に並んだものを見てから、ゆっくり私に視線を向けた。

 

「この前、私が見たのは一つだったと思うんだが」


「えーっと……増えました」


「……増えたな」


「はい」


 お父様が額に手を当てた。


『怒られる?』

 恐る恐る様子をうかがったけれど、顔を上げたお父様は怒ってはいなかった。

 ただ、机の上に並べられた魔道具を見ながら、何かを考えている。


「それなら、一つずつ権利を登録するより、別の形にした方がいいかもしれないな」


「別の形?」


「三人を一つの共同開発者として登録する」


「共同開発者?」


 聞き慣れない言葉に首を傾げる。


「ああ。ただし、本来ならこんなに簡単に認めるものではないよ」


 お父様の表情が少し真剣なものに変わった。


「一つ、二つ新しい魔道具を作ったからといって、その者たちを共同開発者として登録するなんてことは普通しない」


「じゃあ、なんで私たちはいいの?」


「これがあるからだ」


 お父様は机の上に並んだ三つの魔道具へ目を向けた。


 普通のドライヤー。

 魔力を持たない者でも使えるよう改良したドライヤー。

 そして、まだ試作品の水洗トイレ。


「完成品でなくとも分かる。この三つだけで、十分すぎるほど価値がある」


「そんなに?」


「そんなに、だ」


 お父様は最初のドライヤーを手に取った。


「まず、異なる属性の魔石を組み合わせ、一つの働きを生み出した。これだけでも今までの魔道具とは考え方が違う」


 次に、改良された方へ視線を移す。


「さらに、使う者自身の魔力に頼らず動かす仕組みまで考えた。これが完成すれば、魔力の有無に関係なく魔道具を使えるようになる」


 そして最後に、水洗トイレ。


「こっちは生活そのものを変える可能性がある。衛生面だけを考えても、屋敷一つの話では終わらない」


「…………」


『そこまで考えてなかった』


 髪を楽に乾かしたい。

 トイレの臭いをどうにかしたい。

 私としては、本当にそれだけだった。


「だから今回、三人を共同開発者として登録する」


 お父様は私だけではなく、レイとガルドにも目を向けた。


「フリーが私の娘だからではない。この三つを実際に見た上で、それだけの価値があると私が判断した」


 ガルドがにやりと笑った。


「見る目があるのぉ」


「誰に向かって言ってるんだ」


「ガハハハ!」


 お父様は呆れたように息を吐いてから、私たち三人を見る。


「それに――この先も増えるんだろう?」


「…………」


 思わずガルドを見る。

 

「わしに聞くな。お嬢ちゃんの頭ん中のことなんぞ、わしゃ知らん」

 あっさり突き放された。

 今度はお父様の視線が私に戻ってくる。


「…………」


「た、多分……増えると、お、思う」


 だって、まだ作ってみたいものはいくらでもある。

 前世では当たり前に使っていたのに、この世界にはないもの。

 魔石を使えば再現できそうなものだって、きっとまだある。

 お父様はしばらく私を見つめたあと、納得したように頷いた。


「……なるほど」


「なら、なおさら今のうちに形を整えておいた方がいい」


「おお! そりゃ楽でええ!」


 ガルドが嬉しそうに声を上げる。


「ただし」


「なんじゃ?」


「新しいものを作ったら、ちゃんと申請はしてもらうぞ」


「……面倒じゃな」


「そこはやれ」


 お父様は、やれやれとでも言いたげな顔をした。


 話が終わると、ガルドはさっそく工房へ戻ろうと立ち上がった。

 私とレイも一緒に部屋を出ようとすると――。


「フリーとレイは、少し待ってくれ」


「?」


「ガルド、ありがとう。戻っていいよ」


「おう!」

 ガルドは片手を上げると、そのままさっさと部屋を出ていった。


『なんだろ?』


 私とレイは顔を見合わせてから、ソファに並んで腰掛けた。

 その向かいに、お父様が座る。

 さっきまでとは少し雰囲気が違った。


「二人には、少し話しておきたいことがある」


 お父様は私とレイを交互に見た。


「二人とも、もう少しずつ物事を理解できる年になってきただろう。だから、今のうちに話しておこうと思ってね」


「うん」


「はい」


「まず――私の考えでは、二人が同じ年頃の子供たちより、ずっと優れていると思っている」


「…………」


「前にも話したがこの年齢で、これだけ安定して魔法を扱えること自体が異例なんだ。それだけじゃない。教えたことを覚えるのも早い。考える力もある。そして今度は、今までになかった魔道具まで作り上げた」


 そこで、お父様は一度言葉を止めた。

 部屋が少しだけ静かになる。


「勘違いしないでほしい。怒っているわけでも、二人を責めているわけでもないよ」


 お父様の声は優しかった。


「ただ、心配なんだ」


「心配?」


「ああ」


 お父様は小さく頷いた。


「二人のような子供は、そうはいない。優れているということは、それだけ人の目につくということでもある」


 私は黙って話を聞いた。


「今までは屋敷の中でのことだった。魔法のことも、勉強のことも、知っている者は限られている。だが、このドライヤーが世に出れば話は変わる」


 お父様が机の上のドライヤーに目を向ける。


「ガルドの名前も出るだろう。だが同時に、開発者としてフリーとレイ、二人の名前も世に出ることになる」


「……有名になるってこと?」


「おそらくね。それも、二人が思っているよりずっと早く」


「…………」


「五歳の子供が新しい魔道具を作ったとなれば、面白がる者もいる。褒める者もいるだろう。会ってみたいと思う者も出てくる」


 そこで、お父様の表情が少しだけ険しくなった。


「でも、世の中にはそれだけじゃない人間もいる」


 レイが静かにお父様を見つめている。


「利用しようとする者。自分のところへ引き込もうとする者。二人が持っているものを欲しがる者も出てくるかもしれない」


『……そっか』


 前世では、便利なものを思いついたところで、自分で作ることなんてできなかった。

 だから、そこまで考えたこともなかった。


「だからといって、作るのをやめろとは言わない」


「え?」


「二人が楽しんでいることを、私が止めるつもりはないよ。それに、これは多くの人の生活を良くするものだと思っている」


 お父様は少し笑った。


「ただ、自分たちが人より目立つ存在だということは、少しずつ覚えておいてほしい」


「……うん」


「はい」


「それから、知らない者に何でも話さないこと。自分たちだけで勝手に遠くへ行かないこと。そして何かおかしいと思ったら、必ず私たち大人に話すこと」


「分かった」


 レイも隣で頷いた。


「分かりました」


「よし」


 お父様の表情がようやくいつもの優しいものに戻った。


 でも――。


『目立つ、かぁ……』


「それと、もう一つ」


「?」


 お父様は私とレイを交互に見た。


「二人には、学園へ入学する前に貴族としての作法を覚えてもらう」


「…………」


「特にフリージア。お前は王族の娘だ。これから人前に出る機会も増えるだろう。王族として恥ずかしくない、気品ある振る舞いを身につけてもらいたい」


『気品ある振る舞い……』


 ものすごく嫌な予感がする。


「レイシオンも同じだ」


「はい」


「アイリオンの名を汚すようなことがあってはならない。それに、これからフリージアと共に行動するのであれば、なおさら必要になる」


「分かりました」


 レイは素直に頷いた。


『えっ、そんな簡単に!?』


「明日から早速始める。二人とも、よろしく頼むよ」


「はい」

 

レイは迷いなく返事をした。


「…………」


 私は思いっきり眉をひそめた。


「フリージア?」


「…………」


 返事をせずにいると、お父様が苦笑する。


「フリージア。その顔がすべて物語っているけど……頼むよ」


「……はい」


 渋々返事をする。


 もう分かっている。

 前世の私は、休みの日なんて家でぐーたら。

 寝転がりながらお菓子を食べて、気が向かなければそのまま一日中だらだら。


『気品ある女性って……』

 

『そんな言葉、私の辞書にはありません!』


作法の勉強が始まることを考えるだけで、今から気が重い。


『そもそも、ただ髪を楽に乾かしたかっただけなのに……』


 ドライヤーを作っただけで、販売だの権利だの、目立つから気をつけろだの、ずいぶん大きな話になってしまった。


『……ん?』


 でも、ちょっと待って。

 貴族の作法って、ドライヤーを作ってなくてもやらなきゃいけなかったんじゃ……?

 私は王族の娘。

 しかも、もうすぐ学園にも入る。


「…………」


『くっそー! 全部必然かー!』


 どうやら、何も作らず大人しくしていたところで、気品ある女性への道からは逃げられなかったらしい。


『……諦めよう』


 それはそれとして、ドライヤーの件で目立つ可能性が増えたのは確かだ。


『次からは、作る前にちょっと考えた方がいいのかな』


 そう思ったけれど。

 頭の中にはすでに、ほかにも作ってみたいものがいくつか浮かんでいた。


『…………まあ、それはそれ、かな』


 そして、魔力を流して使う方のドライヤーは、すぐに販売されることになった。

 


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