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私はフリージア


挿絵(By みてみん)



「お嬢様、お目覚めでございますか」


「お食事のご用意ができておりますので、朝の身支度を整えましょう」


 入ってきたのは、専属メイドのランだった。


 ランは由緒ある貴族の出身で、成績も優秀。


 さらに光と水、二つの魔法属性を扱えるかなりの実力者らしい。






 王族に仕える者は、それほど優秀でなければならないのだという。






 ランは、私が生まれた時からずっとそばにいてくれた。






 お父様とお母様が公務で忙しい時も。




 兄姉たちが学園へ行っている時も。






 いつだって隣にいてくれた、優しいメイドだ。






 ……もう家族みたいな存在である。






 ちなみに。






 私の家族は――






 お父様とお母様。






 長兄ロータス。




 次兄アスター。




 長女の姉リリィ。




 三兄シルヴァン。






 そして末っ子の、私フリージア。






 ついでに言うと――お爺様は、この国の王である。






……これだけ聞くと、そんなに




『家族に愛されてないんじゃない?』とか思うかもしれない。




私が愛されてないって……いや、そんなことはない。




むしろーーその逆だ。




だって。




お父様は、ほぼ毎朝こうして私を迎えにくる。




ほら、ちょうど今もーー。




廊下の向こうから、ドスドスっと早歩きの足音が近づいてくる。






――やがて、声が響いた。






「フリ~~ジア……♪ おはよう」




「愛しのフリージア~♪」




 ただの、親バカである。




 




 ……来た。




 忙しいはずなのに、この時間だけは絶対に欠かさない。




『ほーら、ほら。これで愛されてないって言えないでしょ』




 




 ガチャッーードン!




 勢いよく扉が開き、父が部屋に入ってきた。




 そう、めちゃくちゃイケメンの父が。




 ブロンドの髪に、スカイブルーの瞳




 額に小さな傷跡があるけどーーーそれすらも妙にかっこよく見える




 そう、イ・ケ・メ・ンがきたー!!!




 その父が、そのまま私をひょいと抱き上げた。




「フリージアやっと目覚めたか。昨日は1日眠っていたから心配したぞ」




「怪我は大丈夫か?痛くないか?一緒に朝ごはん食べるか?」




 ほっぺをすりすりしながら朝の質問攻めである。




「おとぅしゃま、フリージアはもう大丈夫だから一緒にご飯たべよう」




 ちょっと引きつった笑顔でそう答えると、




 お父様はぱあっと表情を明るくして、私を抱えたまま部屋を出た。






食堂へ向かう途中、前方にアイシーピンクの髪が見えた。




 次兄のアスターだ。






「アスターお兄しゃま〜」






声をかけると、アスターは立ち止まり、ぱっとこちらを振り向いた。






「お、フリー! 起きたのか!」




 嬉しそうに駆け寄ってくる。




「怪我したって聞いた時、マジで焦ったんだぞ?」




「俺も行ってたら、あんな魔獣まとめてぶっ飛ばしてやったのに!」




 ぐしゃぐしゃっと私の頭を撫でながら、悔しそうに眉を寄せた。






 アスターは、どちらかというとやんちゃなタイプだ。




 勉強より体を動かす方が好き。




 魔法は火と土の二属性だけど、一番得意なのは剣術らしい。






 オリーブグリーンとペールグリーンが混ざった瞳が、楽しそうに細められる。






 ……あぁ〜。




 なんてイケメンスマイル。






 兄だから恋愛感情なんてこれっぽっちもない。




 ……ないんだけど。




『この顔は反則だよ〜……』






「アスターお兄しゃまと歩きたいから、おろして」




 そう言うと、お父様はものすごく不満そうな顔をしながらも、しぶしぶ私を降ろしてくれた。




「むぅ……仕方ない」




 私はそのままアスターと手を繋ぐ。




 するとアスターが、どこか勝ち誇ったように笑った。




 ……子供か。




 そんな二人に挟まれながら、私は食堂へ向かった。






 食堂へ入ると、すでに他の家族たちが席についていた。






長兄のロータスお兄様は、落ち着いた表情で私たちを出迎えてくれた。




 静かで穏やかな正統派の美形で、家族の中で一番頼りになる存在だ。






 長女のリリィお姉様は、ふわりとした金髪を揺らしながら、私を見てぱっと顔を輝かせた。




「フリー! 起きたのね! よかった〜!」






 すると、ペールグリーンの髪を揺らしながら、一人の少年がこちらへ駆け寄ってくる。三兄のシルヴァンだ。お兄様は、人懐っこい笑顔でむにっと私の頬をつまんだ。




「フリージア〜、もう大丈夫ぅ? 昨日会えなかったから心配してたんだよ〜」




 




「あふぃがとうぅ、もぅだいじょうふ……」




 そのままの状態でなんとか答えると、シルヴァンは満面の笑みを浮かべた。




 




「よかったぁ。じゃ、ご飯食べよ〜」




 




 そう言って手を引かれ、私は席へ連れていかれた。




 席につくと、隣には超絶美人なお母様。




 反対側にはシルヴァンが座っている。




 向かいには、ロータスお兄様、アスターお兄様、リリィお姉様。




 そして一番奥の上座には、お父様が腰掛けていた。






 お母様が優雅に紅茶を傾けていた。




 エメラルドグリーンの瞳が、私を見て柔らかく細まる。




 お母様は、お父様とはまた違う種類の美しさを持つ人だ。




 穏やかで、でも芯が強い。






「おはようございます、フリーちゃん♡体の具合はいかがかしら?」






「大丈夫です、お母しゃま」






食事が始まってすぐ、お父様が嬉しそうにこちらを見た。




「フリージア、もう怪我は大丈夫だろう? ご飯のあと、パパとお散歩しないか?」




 優しく微笑みながら、そんなことを言ってくる。




 ……が。




「ダメです。このあと会議があります。それに午後もご予定が入っております」




 横からすっと入ってきたのは、秘書兼第一隊隊長のリンドール。リンドールさんの冷徹な少し呆れたようなツッコミに、父は肩を落とした。




 ……分かりやすい。






 私は見かねて声をかける。




「お父しゃま、また今度お散歩しよう?」




 その言葉に、父は首を縦に振りぱっと顔を明るくした。




すぐに気を取り直したように、優しい笑顔を私に向ける。




「そうだな。フリージアの為なら、どこにだって連れていってやる」




 その言葉に、周りの兄姉たちも「ずるいぞ、俺が連れていく!」「次は私とデートね!」と口々に声を上げる。




 相変わらず賑やかで、愛情に満ちた家族だ。




 私は美味しそうに並ぶ朝食にフォークを伸ばしながら、




 そのまま、私は気になっていたことを聞いてみた。




「ねえ、魔獣と戦ってる時に赤く光ってたやちゅ……あれ何でしゅか?」






 「ああ、あれは紅光弾だ」




 父は優しく答えた。




「王族、もしくは護衛団の副隊長以上しか扱えない魔法でな。緊急時の連絡に使われる」






「そんなにしゅごいの……?」






「ああ。手のひらに収まるほどの小さな球だが、指定した相手へ確実に届く。救援要請には欠かせないものだ」






「へぇ……」




 つまり――あれが使われた時点で、ただ事ではないということだ。




「赤いのはわかったけど……きいろいのもあったよね」






「ああ、あれは黄光弾だ」




「護衛団が使う連絡用の魔法でな。部隊同士の位置共有や指示のやり取りに使う」






「じゃあ、赤ほど緊急ってわけじゃないの?」






「そうだ。ただし戦場では重要だ。あれがなければ連携が崩れる」




 私は「なるほど〜」と頷きながら、さらに気になったことを口にした。






「あの魔獣って、強かったの?」




「ああ……あいつか。ヴァルガノンキングだ」






 父は少しだけ表情を引き締める。




「なぜあの場所に現れたのかは分からないが、Aランクの魔獣だ。通常種のヴァルガノン――グリーンならCランクだが、あいつは別格だ」






「へぇ……」






「本来ならわたし一人でも倒せたんだが……フリージアが怪我をしたのが見えて、少し気が動転してしまった」




 お父様は苦笑しながらそう言った。






「お父しゃまって、そんなに強いの?」




 すると、お母様が優しく微笑む。




「ええ。あなたのお父様はとても強いのよ。この国でも一番と言っていいくらいにはね」






 その言葉に、お父様はどこか得意げな顔をした。






 すると今度は、横からシルヴァンが勢いよく身を乗り出してくる。




「お父様! その時に取った魔石ってどうしたの!? 魔道具にするの? それとも武器!?」






『……やっぱり魔石、あるんだ』






「ああ……あれか。武器にしようかと考えている」






「えっ、それ僕がもらっていい!?!?」




 シルヴァンが目をキラキラさせながら食いついた。






 お父様は苦笑する。




「それは、完成してから考えよう」






「えぇ〜〜!」




 不満そうに頬を膨らませるシルヴァン。






 そんな様子に、食堂の空気が少し和んだ。




『魔石って何かに使えるんだ』




 少し気になるが食事を続けた。




 




 お父様はそのまま視線を移し、みんなへ今日の予定を聞き始める。




 最初に口を開いたのは、ロータスお兄様だった。




「本日は、朝の第三刻からアイリオン先生が来られる日なので、兄弟全員参加で魔術の練習です」




 ロータスお兄様が落ち着いた声で答える。




 (ちなみに、朝の第三刻は現代でいう十時頃にあたる)






「そうか。アイが来るのか。しっかり励むんだぞ」




 お父様が頷きながら言った。






「えぇ〜……私も授業あるの〜? 先生、難しいの出してくるからやだ〜……」




 リリィお姉様が露骨に嫌そうな顔をする。






 するとアスターが、にやにやしながら口を挟んだ。




「お前、この前のテストもギリギリだっただろ? ちゃんと勉強しろよ〜」






「〜〜っ!」




 リリィお姉様はキーッとした顔でアスターを睨みつける。






 お母様はそんな二人を、ただ微笑ましそうに見ている。






「僕は先生好きだよ〜。いろんな魔法見せてくれるし」




 シルヴァンが楽しそうに言った。






お父様もニコニコしながら、その様子を眺めている。






 ……魔術の訓練。






 その言葉を聞いた瞬間。




 胸が、ぐっと高鳴った。




 ウズウズする。




 やりたい。




 魔法、やりたい。






 ロータスお兄様が何か言いかけた、その瞬間――






「フリーもやりたい!!!!!」






「まほうやりたい!!!」




 気づけば、私はそう叫んでいた。






 家族全員が、驚いた顔でこちらを見る。




 ……それもそうだ。




 いつも本ばかり読んでいる私が、こんなふうに「やりたい」と主張するのは珍しいらしい。






 それに、まだ3歳。




 前世の記憶が戻ったとはいえ、感情まで完全に大人になるわけじゃない。




 興奮すると、どうしても子供っぽさが出てしまう。






 ロータスお兄様が、優しく言い聞かせるように口を開いた。




「フリージア、魔法は学園に通い始めてからでいいんだよ。今はたくさん遊んで過ごしなさい」






「そうだ怪我したら大変だろ。フリーは俺が守るから大丈夫だ」




 アスターも続けて言う。




 お父様も静かに頷いた。




 みんな、心配してくれている。




 それはちゃんと伝わってくる。






 でも――




 やりたいものは、やりたい。




「やりたい! まほう使いたい!!」




 私はもう一度、声を張り上げた。




 そして追い打ちをかけるように――。




「お父しゃまや、お兄しゃま、お姉しゃまみたいに……フリーも、かっこよくなりたいの」




 少し甘えるように、言葉を続ける。




 




「それに……学校が始まったら、お兄しゃまたち、いなくなっちゃうでしょ?」




「だから……なるべく一緒にいたいの……」






 その瞬間。




 兄たちの動きが、ぴたりと止まった。






 そして――




 みるみるうちに頬が赤くなっていく。




 分かりやすいくらい、にやけていた。






『……よし、落ちた』






 誰かが何か言おうとした、その時だった。






「いいんじゃないかしら。訓練くらい」




 横から、お母様の穏やかな声が響く。




「どうせ、いつかは学ぶものですもの。少し早く始めるだけよ」




 そう言って、お母様は優雅に紅茶へ口をつけた。




「アイもロータスもいるのだから、危険はないでしょう?」




 そして、ふっと私へ視線を向ける。




「それに――できるかどうかは、また別のお話だもの」




 エメラルドグリーンの瞳が、優しく包み込むように微笑んだ。






その言葉に、お父様は少しだけ考え込み――






「……わかった。アイに頼んでおこう。ただし、危険なことはするなよ」




 そう言った瞬間。




 お父様の指先から、白い光の球がふわりと生まれ、そのまますっと飛んでいった。






 庶民でも広く使われている連絡用の魔法――白光弾だ。






 私は、これ以上ないくらいの笑顔で返事をする。




「はい! お父しゃま!」






 その瞬間。




 家族全員が、ぴたりと動きを止めた。




 ……完全に癒やされている。




 お父様なんて、今にも倒れそうな顔をしていた。




 ――そんな周囲など気にもせず、私はパクパクと朝ご飯を食べ続けた。


食事を終えると、ランと一緒に庭園でお散歩することに。




 「お嬢様、足元にお気をつけください」




 ランに手を引かれながら、私は石畳の小道を歩く。




 目の前に広がるのは、手入れの行き届いた美しい大庭園だ。




 色とりどりの花が咲き誇り、甘い香りが風に乗って鼻をくすぐる。




 3歳の短い足でトコトコと歩きながら、私はひそかに周囲を観察していた。




『よし、誰も見てない……よね?』




 ふと、ステータス画面のことを思い出す。




 全属性魔法、アイテムボックス、そして――鑑定。




 せっかく手に入れたチート能力だ。




 使わない手はない。




「鑑定」




 心の中で小さく唱えながら、近くに咲いていた青い花に視線を向けた。




 瞬間、目の前にスッと情報が流れ込んでくる。




【名称】:ブルー・セージ




【種類】:薬草/観賞用




【効果】:精神を落ち着かせる香りを持つ。微量の魔力を回復する効果あり。




『おぉ……! すごい、本当に詳細が出る!』




 




 次は、鮮やかな赤い薔薇のような花。




【名称】:フレア・ローズ




【品位】:中級素材




【効果】:微量の魔力を帯びた観賞用の花。薬草の調合や、染料の原料としても使用される。




「すごい……」




 思わず呟いた声に、ランがふっと優しい笑みを向けた。




「おや、お嬢様。そのお花が気になるのですか? とても綺麗に咲いていますよね」




「うん! きれい!」




 私はあわてて子供らしい笑顔を作り、無邪気に手を伸ばしてごまかした。危ない危ない、独り言には気をつけないと。




 それにしても、これは面白い。




 私は次々と視線を動かし、庭園の木々や石畳、さらには近くを飛んでいた小さな蝶にまで『鑑定』を飛ばしていく。




 面白くなって、今度は庭園の隅にある大きな木に視線を移す。




【名称】:アイアン・オーク




【種類】:植物系モンスター(低級)




【効果】:数百年かけて魔力を吸い、魔獣化することがある。現在はただの樹木。




『……危なっ! モンスターの卵みたいな木だったのかこれ!』




 知らずに近づかなくてよかったと、私は内心で冷や汗をかいた。




 この「鑑定」スキル、危険回避にもめちゃくちゃ使える。




 神様、本当に素晴らしい能力をありがとう。




「お嬢様、どうかなさいましたか? そんなにじっと木を見つめて」




 ランが不思議そうに首を傾げ、私の顔をのぞき込んできた。




 その瞳には、純粋な心配の色が浮かんでいる。




「ううん、なんでもないの! あの木が大きなあって思って」




 私はできる限りの“可愛い3歳児スマイル”を作ってみせた。






「ふふ、お嬢様は本当にお花や植物がお好きですね」




 ランは柔らかく微笑むと、私の頭を優しくなでてくれた。




 その温もりにほっこりしていたら。




 その時だった。




 背後から、聞き慣れた慌ただしい足音が聞こえてきたのは。




「フリーーーー!!! 待ってくれ、僕も混ぜてくれよ!」




 振り返ると、三兄のシルヴァンお兄様が、走ってきていた。




「何、アイアンオークが気になったのか?」




 私が先ほど心の中でびびっていた大きな木を見ているこに気づいたシルヴァンお兄様が駆け寄ってきた。




シルヴァンお兄様は土魔法が得意だから自然と植物に詳しい。




 




「ふふっ、シルヴァン様、あまりお走りに なるとお転びになりますよ」




 ランがクスリと笑いながら、ハンカチを差し出す。




「はぁ、はぁ……大丈夫だって! それよりフリー、お前もあの木が気になったのか?」




 シルヴァンお兄様は額の汗をぬぐいながら、私と先ほどのアイアンオークを交互に見やった。




私がだまっていると、得意げに胸を張って解説を始めてくれた。




 




「この木は本当はモンスターだけど、もうおじいちゃんでただの樹木になっちゃったんだよ。しかもここでは悪さもできないだろ? こんな魔力の高いエルフたちが周りにいてらさっ。だからそのまま大きな樹木になったんだよ」




 ふむふむ、と私は大きく頷いてみせる。




 本当はステータスの鑑定で全部頭に入っていたけれど……。




「お兄様は詳しいんでしゅね」




 私はぱぁっと顔を輝かせ、ニコッと満面の笑みで答えた。




 ――うん、分かっていたけれど、ここは可愛い妹としてお兄様の顔を立てておかなきゃね!




 シルヴァンお兄様は私の言葉に満足しつつも照れている。




『あぁ〜、かわいい』




 そぅ心の中でクスリと笑っていると、少し遅れてロータスお兄様たちがやってきて、「そろそろ時間だよ」と声をかけてくれた。




 えっ、もう?




 そんなに経ってないと思ったのに。




 転生前の大人だった感覚のままだと、時間の流れの早さにびっくりしちゃう。




 すると、ロータスお兄様が私をひょいっと軽々と抱き上げた。




「それじゃあ、一緒に行こうか」




 そのまま高い高いされるみたいに抱っこされたまま、私たちは訓練場へと向かう。




 まだ庭の植物たちをじっくり鑑定したかった気もするけれど、待ちに待った魔法の練習もできるから仕方がない。




 私は気を取り直して、ロータスお兄様の肩越しにワクワクとした目を向けたのだった。

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