↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/61

死んだと思ったら、どうやらここは異世界らしい


挿絵(By みてみん)



第1話


私は目を覚ました。






 ……ここは、どこ……?






 視界いっぱいに広がるのは、鮮やかな緑。




 木々の隙間から差し込む光が揺れ、ぼやけた意識をゆっくりと刺激する。






 何度か瞬きを繰り返す。




 頭がうまく回らない。






 ――確か、仕事帰りだった。




 スマホを見ながら歩いていて……その時。




 ドンッ――と、強い衝撃が走った。




 熱い。




 違和感を覚えて視線を落とす。




 私の腹部から、赤い血が溢れていた。




「……え……?」




 何が起きたのか理解できない。




 震えながら顔を上げる。




 そこにいたのは――元カレだった。




 周囲では誰かの悲鳴が響いている。




 けれど、そんな音も次第に遠ざかっていく。




 意識が、ゆっくりと闇に沈んでいった――。






 …………。






 そして今。






『…………え……?』




 頭がぐるぐるする。




『ま、待って……私、死んだよね……?』




 確かに刺された。




 お腹から血が流れて――意識が途切れた。






 なのに、どうして。




『なんで……生きてるの……?』




 混乱したまま周囲を見回す。




 視界を埋めるのは、一面の緑。




『木……?』




 風に揺れる枝葉。




 湿った土の匂い。




『ここ……森……?』




 ズキン、と頭に鋭い痛みが走る。




『っ……』




 うまく体に力が入らない。




 息も浅い。




 混乱したまま、ゆっくりと上半身を起こす。






 そこでようやく気づいた。




 ……私、なんか小さくなっている……?




 次の瞬間。




 温かいものが頬を伝った。




『え……』




 それは血だった。




『いっ……!』




 片目を押さえながら周囲を見る。




 すると、すぐ近くに人影が倒れていた。




 いや――




 あれは、本当に“人”なのか……?






 耳が、長い。




 さらに視線を奥へ向けると、




 同じように倒れている者が何人もいる。






 その時だった。






「グゥアオオオオオオオオン!!」






 聞いたことのない、低く腹の底を震わせるような咆哮が、背後から響いた。




 反射的に振り返る。




 そこにいたのは── 見たこともない存在だった。




 巨大な体。




 鋭い牙。




 肌を刺すような禍々しい赤黒い鱗に覆われた巨大なモンスターが、ゆっくりと唸り声を漏らす。




 その体躯は優に3メートルを超え、恐竜を思わせる頭部には、獣じみた凶暴さが宿っていた。




 さらにその周囲には、一回り小さい緑色の個体が何体もいる。




 細長い瞳を爛々と光らせ、獲物を囲い込むようにじりじりと位置を変えていた。






 生物としての“何か”は感じる。




 だが、あれを動物とは呼べなかった。




 あまりにも異質で、あまりにも禍々しい。




 ──モンスター。




 そう呼ぶ以外に、言葉が見つからなかった。




 そしてそのモンスターと、誰かが戦っている。






「殿下お守りしろ!」




 兵士が叫んだ。




 視線の先には一人だけ異なる装いの人物。




 美しく整った衣装を纏い、剣を構えている。






「援護要請はしたのか!」






「先ほど紅光弾を飛ばしました!!」




 緊迫した声が飛び交う中、兵士たちは必死にモンスターを押しとどめていた。






「持ちこたえろ!援軍が来るまで耐えるんだ!」






 その時――




 別の兵士が、小さな黄色の光の球を生み出した。




 それは一瞬だけ明滅すると、一直線に空間を滑るように飛び、先ほどの赤い球と同じ方向へ消えていった。






 戦いが、目の前で繰り広げられている。




 私はただ、その光景を呆然と見つめるしかなかった。






「お嬢様ご無事ですか!」




 突然、兵士の一人と目が合った。




「そこから動かないでください!!」






『……お嬢様? えっ、私のこと?』




 そう思った瞬間、兵士が駆け寄ってきた。




「失礼します!」




 有無を言わさず抱き上げられる。




『えっ、ちょ――』




 兵士は私を庇うように、倒れた馬車の陰へ滑り込んだ。




「申し訳ありません、お嬢様。お怪我を…………!」




 私の額から流れる血を見て、兵士の顔が一気に青ざめる。




「くそっ……」




 悔しそうに顔を歪めたのも一瞬だった。




「俺のそばから離れないでください!」




 庇ってくれた兵士が片手を前へ突き出す。




 次の瞬間、その掌の先に赤い光が灯った。




『……え?』




 ボッ――と炎が弾け、緑色のモンスターへ向かって飛んでいく。




 爆ぜるような音と共に、モンスターが低い唸り声を上げた。






その時、少し離れた位置に立つ隊長格の兵士が鋭く怒鳴った。




「魔獣が興奮している! 反撃するぞ!」




 




 兵士たちは素早く隊列を組み直し、魔獣へ向かっていった。






 私はただ、その場で息を呑むことしかできなかった。




 ここはどこなのか。




 私は、誰なのか。




 目の前で起きていることが現実とは思えない。




 モンスター――いや、魔獣。




 そして兵士たちの手から放たれる光。




 ……あれは、魔法?




 ここは……まるでファンタジーの世界みたいだ。




 




 ぼんやりと、この身体の記憶が蘇り始める。




 私は“お父様”と遠征から帰る途中だった。




 そして突然、魔獣に襲われた――。




 断片的だった記憶が、少しずつ繋がっていく。




 




 その時、後方から鋭い声が響いた。




「殿下とお嬢様をお守りしろ!!」




 数十人もの兵士たちが一斉に駆けつけてきた。




 戦況は一気に変わった。




 光、水、火――さまざまな魔法が戦場を駆け抜け、轟音が響き渡る。




 兵士たちは次々と魔法を放ち、押し寄せていた魔獣を一気に押し返していく。






 そして――




 最後の一体が、重い音を立てて地面に崩れ落ちた。




 一瞬の静寂。




 辺りを見回した兵士たちの間に、ようやく安堵の空気が広がっていった。






 その中で――先ほど“殿下”と呼ばれていた人物が、真っ直ぐこちらへ駆け寄ってくる。




「フリージア、怪我は!? どこか痛いか!?」




 両手で私の顔を包み込み、真剣な表情で全身を確認してくる。






「……おとうしゃま」




 口から出た言葉が、自分でも驚くほど幼かった。




 その瞬間、お父様の顔が、ぐしゃりと崩れた。






「よかった……! 本当によかった……!!」




 ぎゅっと抱きしめられる。




 大きくて、温かい腕だった。




 なぜか、その温かさに涙が出そうになった。






 周囲では、援軍が到着して魔獣の討伐が進んでいる。




 隊長格の兵士が次々と指示を飛ばし、整然と動く兵士たちの連携は見事だった。




 やがて、最後の咆哮が遠ざかり、静寂が戻ってきた。






「殿下、魔獣の討伐が完了しました」






 部下の報告に、お父様――いや、殿下と呼ばれるその人は私を抱いたまま頷いた。




「負傷者の確認を。それと、護衛の者たちへの手当てを最優先に」






「はっ!」






お父様は少し安堵したように息を吐くと、私を抱き上げた。




「手が空いた者は馬車の準備を。連れて帰る。」






「はっ!」




 




 凛とした声で指示を出すお父様は、さっきまでの必死な顔とは別人のようだった。






 私は抱かれながら馬車の中で意識を失った。






私は眠りの中で、前世と今世――そのすべての記憶を思い出していた。






 まず、前世の私は……やはり、あの時死んだらしい。




 元カレに刺され、そのまま命を落とした。




 そして死んだ後、私は“神様”に会った。




 神様曰く、私は“選ばれた”のだという。




 理不尽で残酷な最期を迎えた者の中から、時折こうして救済として異世界へ転生させることがあるらしい。




 ……まあ、本人は「気まぐれだけどね〜」とか軽く言っていたけど。




 しかも、おまけに能力までくれるという。




 もちろん断ることもできた。




 このまま魂の流れに従えば、元の世界で普通に生まれ変わることも可能だと言われた。




 でも私は――迷わなかった。




 だって、ファンタジーが大好きだったから。




 確かに殺されたのは最悪だった。




 けれど、元の人生に強い未練があったわけじゃない。




 多少の後悔はある。




 親にもう会えないのは寂しい。




 でも、どうせ生まれ変わるなら。




 私は、新しい世界に行ってみたかった。




 私はダメもとで神様にお願いした。




 チート能力をたくさん。




 美男美女の家族。




 できればイケメンに囲まれて、恋愛とかもしてみたい。




 ……欲望には正直にいくスタイルである。




 すると神様は、そんな私を見てくすっと笑った。




「なるべく希望に沿えるようにしてあげるね」




 そう言いながら、目の前に現れた半透明のパネルを操作し始める。




 ……あ、絶対これ私の能力いじってる。




 私は思わず、ニヤッと口元を緩めた。




 しばらくして、神様がふっと距離を詰めてくる。




「その代わり、ひとつ頼みごとがあるんだ」




 穏やかな笑みを浮かべたまま、神様は続けた。




「君がこれから行く世界では、今、種族同士の争いが起きようとしている」




「その混乱に乗じて、魔界から“よくないもの”が出てこようとしているんだ」




 さらっと、とんでもないことを言った。




「もしよければ――それを止めてくれないか」




   ……いや、軽く言うな。




「いや、私はのんび――」




 反論しようとした、その瞬間。




 神様が私の額を、ちょんっと指で押した。




「じゃ、お願いね」




『えっ――』




 そのまま視界がぐるりと反転する。




 倒れ込むような感覚と同時に――私は目を覚ました。






 




そして現在。




 私はエルフ族のフリージア・フェリア、3歳。




 どうやら神様の計らいで、幼少期は前世の記憶が戻らないようになっていたらしい。




 ……確かに、前世の記憶を持ったまま赤ちゃん時代を過ごすとか地獄である。




『神様グッジョブ!』




 心の中で全力で親指を立てた。




 でも、幼なさはまだある。




 少し動きにくいが受け入れるしかない。




 記憶が戻る前の私は、どうやらかなり内気な子だったらしい。




 あまり部屋から出ず、いつも本を読んで過ごしていたようだ。




 たまに庭園でお菓子を食べながら、花を眺めるのが好きだったらしい。




 ……うん、完全にインドア系である。




 幼いこのフリージアも私。記憶が戻った前世の私も私。




 ちょっと不思議な感覚だけど、とりあえず起きてみよう。




 どうやらここは私の部屋らしい。




 目が覚めた私は、ゆっくりとベッドから降りる。




 そして部屋の中を、落ち着かないままぐるぐると歩き回った。






そして――




 ピタッと鏡の前で足が止まる。




 この、美貌である。




 今まで気づかなかった。




 でも、記憶が戻った今、改めて自分の顔を見ると……。




『超絶美少女なんだけど!?』




 いや、ほんとに。




 まだ3歳だから幼さはある。




 けど――これはもう、“将来有望”とかいうレベルじゃない。




 確定で美人。




 こんな顔に生まれて幸せすぎるんだけど。




『……え、これ勝ち確では?』




 じわじわと、不気味な笑いが込み上げてくる。






 ブロンドというより、透き通るような淡い色の髪。




 絹みたいになめらかで、光を受けるたびにふわりと輝いている。




 瞳はエメラルドグリーンに、ほんのりピンクが混じった不思議な色。




 スタイルはまだ子供だから未知数。




 でも、これはたぶん期待していいやつだ。




 ……と、そんなことを考えていた時だった。




 前世では感じたことのない、不思議な感覚に気づく。




 身体の奥を、何かがぐるぐると巡っている。




 ――これが、魔力。




 なぜか自然と理解できた。




 しかも、その量がおかしい。




 明らかに多い気がする。




 初めての感覚なのに、不思議と気持ち悪さはない。




 むしろ――




『……これ、使いこなせたら絶対楽しいやつでは?』




『よし』




『身体も動くし、頭の傷もだいぶ良くなってる』




『まずは自分の状態チェックかな』




『ステータスって……見れる?』






半信半疑で、よくあるファンタジー作品を思い出しながら――




小さく呟く。




「ステータスオープン」




その瞬間。




目の前に、光のウィンドウが開いた。




◆ CHARACTER STATUS ◆




Name:フリージア・フェリア(Freesia Feria)




Age:3歳




Race:エルフ




Level:Lv72(F)




知識E 武術F 魔術F 剣術F




Magic:全属性魔法(All Elements)




Skill:・アイテムボックス ∞(Unlimited Storage)




   ・???(1%コ%#/*全#!%ない)




Resistance:毒耐性(Poison Resistance)




Spirit Pact:精霊契約(Spirit Pact)




    ※信頼関係が必要




鑑定:あらゆる物・人物を解析可能




Profile:




 幼い見た目に反して、膨大な魔力を秘めたエルフの少女。




 全属性を扱う希少な存在であり、その力は未知数。




 静かで無垢な瞳の奥に、計り知れない可能性が眠っている──はら






※全言語理解(神様プレゼント)




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







 ――出た。




『でたでたでたでた!!』




 これ、完全にファンタジーのやつ。




『レベルの基準が分からないからすごいのかな?でも、だいたいFって下だよな』




『いや、ちょっと待って?その下』




 全属性魔法。




『……は?』




 フリージアとして本で読んだ知識が自然と浮かぶ。




 魔法属性は火、水、土、風、光、闇。




 そこから組み合わせや派生で、さらに広がっていくらしい。




 けれど普通は一属性。




 多くても三属性程度。




 なのに私は――全部。




『これ、もうレアとかいうレベルじゃなくない?』




 さらに視線を下へ移す。




 アイテムボックス。




 しかも無限。




『え、なにそれ最高なんだけど』




 普通は小さなバッグ程度。




 魔力が多ければ馬車くらいまで広がるらしい。




 なのに、無限。




『いや、無限ってなに』




 もう笑うしかない。




 しかも鑑定まである。




『うわぁ……憧れスキル……後で絶対使お』




 文字化けしている項目もあるけれど、たぶんレベル不足だろう。




『まあ、レベル上げたら解放されるやつかな?』




 深く考えるのはやめた。




 次。




 精霊契約。




 “信頼関係が必要”。




『まあこれは後でいいや。会えたらラッキーくらいで』




 私は小さく息を吐く。




『……神様、本当にチートくれたんだ』




『もしかして私、思ってた以上にとんでもないの引いてない』






 ……うん、ヨシ。




 考えるのは後!




 ちょっとやってみちゃう⁈




 ニヤけながらそして手を前にかざした。






「水よ、出ろ!」






「…………」






 出ない。






『あれ?』






 しーん、と静まり返る部屋。




 もう一度試したが変化せず。




『……うん、そんな簡単にはいかないか』




 たぶん練習が必要なんだろう。




 魔法はまた後で試そう。




 気を取り直して。




『じゃあ、アイテムボックスは……使えるかな?』




 小さく息を吸って……




「アイテムボックス!」




 次の瞬間、目の白く光る箱のようなものが現れた。




『おお……出た』




 試しに目の前にあったひざ掛けを手にとった。




 そっと触れると、少し吸われる感じで中に消えた。




『ほんとに入った…………』




 もう一度意識してみると、今度は簡単に取り出せた。




『すご……めっちゃくちゃ便利じゃん。』






そんなことを考えてるとーーー




コンコン、とドアのノック音が鳴った。




私は慌ててアイテムボックスをしまい、ソファに腰かけた。




 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。