第四章 金色の宝物 ③
「フィリップ様がいらしているのですね」
背後から声がして俺は振り返る。そこには、チョコレート色の長い髪を後ろで一括りにした、灰色の瞳の青年が立っていた。ブラウニーである。
俺はがくりと肩を落とした。
「うん、そう。なんなんだあの人……エドのお兄さんとは思えないよ」
「フィリップ様は、昔から当主になるべく厳しく躾けられておりましたから、少々気難しい性格になってしまいました」
「少々、かなぁ……。うっ、英語のこと言われたのは、地味に刺さった」
「英語のこと、とは?」
「汚いとか、きつい訛りとか……」
「ああ、なるほど。ユウタ様は、ここへいらした時に比べれば随分と達者にはなりましたが、たしかに訛りはありますね」
「やっぱり」
頑張っているんだけど、と悲しい気持ちになる。
別に、完璧で上品な英語を流暢に話したいわけではない。けれどやはりエドワードの隣にいるからには、彼が恥ずかしく思わないように話したいとは思っていた。
しかし母語の癖は抜けないし、英語の上品な言い回しだって全然身に付かない。
トホホという気持ちで手を動かしていると、ブラウニーは隣に立って、俺から紅茶を取った。どうやら代わりにやってくれるらしい。
「気になさらなくて良いですよ」
「え? 何を?」
「英語です。貴方には、貴方の言葉がある。イギリスにどれだけのアクセントがあるかご存じですか? どんなに少なく見積もっても五十、詳しく見て行けば百を超えると言われています。出身地域ごと、階級ごとに、使っているアクセントが異なるからです」
「えぇ、そんなに……」
「ある程度傾向を纏めれば、もっと少なくはなるでしょうが……メジャーなアクセントだけでも十個は優に超えます。つまり、貴方のアクセントは、貴方のルーツを表すものでもあるのです」
「それって、話すだけで出身がバレるってことだよね。良いことなのかな」
「そこで扱いに差が生まれるならば、問題もありましょう。けれど、己の出自を誇るならば、きっとそれは強い武器になります。ようは、気の持ちようです」
「そんなもん?」
俺が不安そうに尋ねると、ブラウニーはくるりと俺に向いて、頷いた。
ブラウニーはいつだって真顔だが、今日は瞳がどこか優しい。
「そんなもんです。胸を張りましょう。貴方はきちんと成長している。それに、言葉が通じていないわけではないのですから」
「ぶ、ブラウニー……っ!」
俺は抱き着きたくなった。しかしそんなことをすれば、今まさにポットへ注いでいるお湯が零れてしまうので、ぐっとこらえる。
たまに英語のダメ出しをされることはあっても、彼とはあまり話す機会が無い。それに何を考えているのかも分からないし、愛想だってない。だから、ブラウニーがそんな風に思ってくれていたとは思わなかった。
落ち込んでいた心は、すっかり元に戻っていた。今ならば、フィリップに何を言われても大丈夫だろう。
「さあ、できました。持って行って差し上げてください」
「ありがとう!」
俺は足取り軽やかに、応接室へと向かった。




