長老会
「福寿先生、相当な軋轢がありそうですが…」
小宮は少し不安げに聞いた。
「そうですね…軋轢や反発はあると思います。もしそれが出てきたら、『間違っていたもの』が表面化されてきたということです」
翌日から福寿の「職場環境改善提案書」に基づいて、職場内の規律が一斉に改められた。
注意事項や取り組みが明文化された上で、内容が職場内に貼り付けられた。若手職員からは、概ね歓迎の声が聞こえている。
「こんな当たり前の事を、こうしてわざわざ伝えなくてはいけないのが情けないよ。言われないと分からないのかな…」
昼休みに外のベンチに座り、前原が正木に話す。
「かなり改善項目が細分化されているから、これで『長老会』も大人しくしてくれると良いんだけどね」
正木は缶コーヒーを手に言う。
「結局のところ、自覚がないんだよ。考え方のズレだけじゃない。自分たちがこの職場の中心であり続ける為には、支配を続けられる構造を保つしかない…そう考えたんだろうね」
前原が眉をひそめてつぶやいた。
「なんかさ、残念だよね…分断を招くようなことを、よりによって長く在籍する人たちがやるなんてさ。どうにも僕には理解が出来ないよ」
二人のところへ、同じ部署の中川が現れた。前原より5年早く入職している。
「良い季節になったね」
春の心地良い風が吹いている。
「中川さんは、『長老会』について、どう思いますか?」
前原が聞くと、中川はしばらく宙を見つめた。
「あの人たちは、他人を蔑む事でしか自分を保てない」
静かに中川が話し始めた。
「ただ、『長老会』も一枚岩ではないんだよ。実際に問題を起こしているのは、5〜6名くらいじゃないかな。吉川、篠宮とか、その一派」
「そうなんですか?」
正木が驚いて身を乗り出した。
「と思うよ。あの連中と全くつるんでいない人たちもいるしね。あの一派の中でも、温度差はあるはずだよ」
「確かに、神田さんや寺本さん、窪井さんは違いますね。そもそも、再雇用というだけで、『長老会』メンバーかというと、ちょっと違いますよね」
前原が思い返していた。
「問題はその少ない人数の『長老会』が、さも大勢であるかのように振る舞っている事だと思う。もっと言うと、それを『文化』として後輩の俺たちにも押し付けていることかな」
中川が言った。
「『イジり』なんて称して軽口叩いている人もいるけど、あれも不快だよ。関係性も無いのに。台本がある舞台じゃないんだからさ」
前原が不快な表情で言った。
「これからどう変わるかだね。でも忘れてはいけないことは、そういう一派のせいで、異動したり退職者が出ても、『本人の責任』で片付けてしまってきたことだよ。今後はもうそれは通用しない。職場も、長老会の一派にもね」
中川は言い切った。




