第43話 プレオープン
「さてトキ。準備はいいか?」
「うん。いつでも大丈夫」
店の準備をしているうちに、気づけば二日が過ぎ去っていた。
俺はトキの目をジッと見つめて笑うと、少女も口角を上げた。
「さあ、開店だ」
そう言って、俺は外に出た。
「よう。……はっ、立派じゃないか」
出てすぐに見えたのは、我が友の顔だった。
「あたりめえだろ」
俺はドヤッと自慢げに笑ってみせて暖簾をかける。
トワの後ろを見ると、クリスさんや風花雲月メンバー、トーさんにレイチェルとカナリアさんと招待した全員が居た。
「いらっしゃいませ。どうぞお入りください」
そんな彼女たちに挨拶をして、俺は店の戸を開く。
「綺麗な店だな」
「開店したてだもん」
「ふぉっふぉ、邪魔するぞ」
トワとクリスに続いて、風花雲月のメンバーが中に入っていく。
「へえ、店主が違うだけで雰囲気は結構変わるものなのね」
「新鮮で面白いですね。うん、良い内装だ」
前のオーナーとその孫も楽しそうに店内を見回しながら入る。
「ほんとにお店開くんだ……」
そして最後にカナリアさんが信じられないといった顔で入ったことで全員を店内へと案内することができた。
「お好きな席におかけください。順番に注文をお伺いします」
俺は中に入った全員に声をかけて、そのままキッチンへと入った。
「トキ、お冷」
「わかった」
俺と似たデザインの制服を身にまとった少女に指示を出して、俺は肉鍋の前に立った。
温度は大体九十度。沸騰する手前くらいの温度にタレを熱しておいた。
「やるか」
ふぅ、と息を吐いて仕事を始めることにした。
まずブラッド・ブルのバラ肉を入れる。
多少料理をかじったことがある人ならここで疑問に思うかもしれない。 なぜシンの根ではなく肉を先に入れたのか、ということに。
理由のひとつが玉ねぎに比べてシンの根は火が通りやすいということ。これによって火の通りにくいものから入れるというセオリーに従わなくても問題なくなった。
そうしてもう一つ、どちらかといえばこちらの方が理由としては大きい。
それは火の通っていない肉を無くすためだ。
シンの根が先に入ると視認性が悪くなるためピーク中に焦って煮た時に赤肉—火が通っていない肉のこと—が混じってしまうかもしれないからな。少しでもクレームを防ごうという話である。
そうして肉に火が通るまで攪拌をしたり浮いてきた油を取ったりする。
目視で赤肉が完全に無くなったことを確認すると、次に俺は大きめに切り刻んだシンの根を入れた。
肉を上に被せることでシンの根を沈めて火を通りやすくしておく。
後は沸騰しないようにだけ気をつけて定期的に油を取りながら放置だ。
「サントール、注文来た」
「おーけー」
タイミングよくトキがキッチンに戻ってきた。どうやらお冷を出す際ついでに注文も取ってきたらしい。
「トキ、トッピング出してくれ」
「うん」
見やすいところに伝票を貼って、俺はそれを読みながらトキに指示を出す。
それから既に炊いておいたアシヤミを丼に盛っていく。
日本に居た頃は自動で米を盛ってくれる便利な機械があったが、この世界にそれは無い。
今度作ろうかな。実は魔道具作成もやってみたいと思っていたところだ。丁度いいかもしれない。
手でいちいち盛るのも面倒だしな。特にウチのような速度を求められて米を大量に消費する店であれば。
そんなことを考えているといつの間にか飯を盛り終わったので、一度肉鍋を確認してみる。
やはりシンの根は火が通りやすいらしく、かき混ぜてみるとすでに根は茶色に染まっていた。
これで準備完了だ。
俺は火を保温する程度に弱める。肉煮が終わったのでもう温度を上げる必要はないからな。
そうして穴の空いた円柱型のレードルを手に持つ。
サイズの違う四つのレードルのうちの一つを用いて、肉を掬う。
ここで平たい底面を使って軽く飯を平にすることがコツである。こうすることで綺麗に肉を盛ることができるのだ。
肉を盛って多少形を整えて、次にトッピングを乗せる。
この注文はシンたま牛丼。日本風に言うならネギたま牛丼だ。なので乗せるのは卵とシンの茎だ。
店を開く前に小皿に取り分けておいた刻みシンの茎を上に乗せる。それから調味料をかけて、卵を割って丼のど真ん中に落とす。
これでネギたま牛丼もといシンたま牛丼の完成だ。
「行ってくる」
「任せた」
完成した丼をカウンターに出すと、トキはそれを盆に乗せて客のもとへ歩いていった。
俺と違ってトキは飲食店での勤務経験が無いと思うのだが、想定以上に動けている。
トッピングの準備も的確。これは掘り出し物を見つけたかもしれんな。
俺はそんなことを考えながら、牛丼を作っていく。
ロッピー、ナノハなどのトッピングを乗せる。まだ数は少ないが、まず牛丼の時点で十分な衝撃だろう。
「……ふぅ、終わりかな」
最後の一品を作り終えて、俺は張り詰めていた息を吐いた。
まだ牛丼しかメニューに無いからか、想定よりは簡単に作ることができた。今後は別のメニューも増やしていきたいな。
気が早いとは思いつつも今後のことを考えながら、俺は店内へと顔を出した。
「おいサン、なんだこれは!?」
その時トワの大声が店内に響き渡った。見ると、我らが王子が顔を顰めてこちらを睨みつけているではないか。
「何かあったか?」
まさかプレオープンからクレームだろうか。
気づけば俺の顔は強ばっていた。血の気が引いていくのを感じる。
トキも大声に驚いたのだろう。サッと俺の後ろへ隠れてトワの様子を伺っていた。
「なんかも何も……」
ワナワナと視線を下げたトワは震える。他の皆さんも何かしら思うところがあったのか、静かにこちらを見つめていた。




