第42話 グッドタイミング
「次はここだな」
俺とトキは城を後にして、薄暗い路地裏に来ていた。俺達がこんなところに目的地があるとしたら候補はひとつしかないだろう。
「こんにちわー」
「おう、サンじゃねえか!」
ミライ商店の中に入ると、カウンターにアーリーが居た。相変わらずだるそうな様子である。
「結構高頻度で居るんすね」
確か親の手伝いで店に出ていたと思うのだが、俺が店に来た日は毎回アーリーが店番をしている。
風花雲月はあまり動かないクランなのだろうか。
活発なところは殆ど毎日どこかしらに遠征に出ているので暇な時間とかは無いと思うんだが。
「カルメもマスキュルも忙しいからな。あんま集まんねえのよ」
なるほど。風花雲月は本当に暇らしい。
「それで今日はどうしたんだよ」
「実は牛丼が完成しまして。プレオープンのお誘いに来ました」
「まじかっ!?」
ガタッと勢いよく立ち上がるアーリーにビックリしたのか、トキは俺の後ろに隠れてしまった。
「はい。三日後空いてませんか?」
「全然行ける!」
先程までの話を聞いていて薄々感じていたが、やはり空いていたか。
「なんなら風花雲月のメンバーも呼ぼうぜ!」
「お忙しいのでは?」
「予定なんてすっぽかして来るだろ。お前が店を開くとなったらアイツらだって行きたいはずだぜ」
そんなことはないと思うのだが、クランリーダーであるアーリーが言うので嘘だと断定できない。
「じゃあせっかくなんで誘ってみてください」
「おう、任せとけ!」
これでトワとアーリー……多分風花雲月メンバー全員の参加が決定した。
「後はトーさん?」
路地裏を出て大通り沿いを歩いていると、トキが口を開いた。
「そうなんだが、トーさんもまた連絡手段が無いんだよな」
トワと同様、トーさんにも連絡を入れることができない。
以前彼から連絡があったが、それはあちらが通信魔術を使ったからだ。
「サントール、不便」
「といわれましても」
ジッと睨まれてしまうが俺にはどうしようもない。
「通信用の魔法でも作ろうかなぁ」
「意志伝達魔法ならあるでしょ。使えないの?」
「そう簡単に使えると思うな。あんなの回路に負荷がかかりすぎて一回で死ぬわ」
一般的な魔法は人間には扱えない。それは法力回路への負荷が大きいのが原因だ。
俺が普段扱っている魔法は全て俺用に改良したもので、全部が回路への負荷を最低限にしたもの、もしくは負荷を無くしたものなのである。
だから世界に通信用の魔法が有っても俺用に改良しなきゃ使えないのだ。
「今まで必要としていなかったから作らなかったが、これからは要りそうだな」
「作って」
「難しいことをさらっと言いやがる」
魔法を作るということは想定よりずっと難しいことだ。
そうだな……数学の公式を新たに生み出すこと、といえば分かりやすいだろうか。魔法を作るというのは簡単にいうとそういう事なのである。
「試してはみるが、時間はかかるぞ」
出来ないとは言っていない。ただそれなりに時間を要する。最低でも年単位の話になってしまうだろう。
「むむ……じゃあそれまでの連絡手段を考えないと」
「そうだな。流石に不便だ」
などと話しながらトーさんに連絡する手段を考えていると、目の前を見たことがある顔が通った。
「あれ、サントール?」
大きなカバンを背負った少女は俺の顔を見て不思議そうな顔をした。
「レイチェルじゃねえか!」
「え、えぇ……久しぶりね。どうかした?」
こんな偶然あると思っていなかったので俺がオーバーなリアクションをしてしまうと、レイチェルは俺の反応に気圧されて後退った。
「丁度良かった。トーさんに用があってよ。伝えてくんねえか?」
レイチェルはトーさんのお孫さん。そして俺の話もすぐに彼女へと伝わっていたことからそれなりの頻度で連絡を取れるということだ。
これは好機、と笑みを浮かべて俺はレイチェルに伝言を頼むことにした。
「構わないわ」
悩む素振りを見せず、レイチェルは微笑んだ。
その顔を見て俺は感謝を述べながらさっそく伝えたいことを告げる。
「……それ通信魔術じゃダメなの?」
「俺魔術使えねえから」
「マジ?」
「大マジ」
そういえばこの事はトワとカナリアさんくらいしか知らないんだったな。
といっても俺の体を巡る魂力を見れば俺がおかしい人間であることはすぐに分かる。
「……アンタ、あの弓使えたの?」
「ああ。めちゃくちゃ助かったよ」
今はレイチェルに会うとは思っていなかったので持ってきていないが、クエストの時にとても助けられた。
「アンタ見かけによらず力があるのね」
「これでも鍛えているんでな」
実はそれなりに鍛錬は積んでいる。
魔法を使えるといっても高火力なものはまだ習得していない。そのため肉弾戦が基本戦術になるのだ。鍛えなければこの世界でやっていけないのである。
「とりあえず分かったわ。三日後ね」
「おう。せっかくだしレイチェルもどうだ?」
「私もいいの?」
「もちろん。弓借りてるしな。お返しだ」
「律儀ね。気にしなくていいのに」
「そういうわけにもいかないんだよ」
これは俺が日本人を経験したが故のことかもしれないが、貰った恩は返すものである。
「じゃあお邪魔するわ。おじいちゃんも多分行けると思う」
「それは良かった。じゃ、また三日後な」
「ええ。楽しみにしてるわ」
最も大変だと思われるトーさんへの連絡が完了して、俺は笑みを隠せなかった。
「サントール、顔」
それをトキに指摘され、口元を隠す。
ポーカーフェイス習得しようかな……




