第41話 家凸
「さて、まずはトワに連絡しないとな」
牛丼が完成して数日後、俺達は街を歩いていた。
「そうだけど、どうするの?」
手を繋いで隣を歩くトキが首を傾げた。
俺達は今遠隔で連絡を取る手段が無い。
この世界に日本のようなスマホなんてものは無いし、みんなが使うような通信魔術を俺達は使えない。
相手から連絡は来ることがあっても、俺達からすることは出来ないのだ。
「簡単さ。家凸すんだよ」
俺はニヤッと笑みを浮かべる。
そう、連絡手段が無いのであれば実際に会ってしまえばいい。
アイツの予定? そんなもの知らん。
「すみませーん!」
気がつけば城の前にまで来ていた俺は門番に声をかける。
「おや、貴方がたは……」
門の前で仁王立ちをしていた騎士の方は俺の顔を見ると不思議な反応をした。
言葉にするならなんだろう……息子の友達を街で見かけたような表情、という表現が一番似合う気がする。
俺とこの人は会ったことがないと思うんだけどな。どこで知られたのやら。
「トワイライト様のお連れの方ですね。今日はどうされましたか?」
ああなるほど。城の中では俺のことが知られているのか。
「トワに用事があって来ました。今って大丈夫ですか?」
「そうですね……小生では分かりかねます。メイドのクリス様でしたら知っておられるかと」
困った表情をした門番はクリスさんの名を出し、俺達を中に入るように促した。
「お二人でしたら問題ないでしょう。どうぞお通りください」
「すみません。ありがとうございます」
こんなにもすんなりと入れるとは思わなかった。門番が優しい方で助かったな。
「クリスどこかな」
城の敷地内へと足を踏み入れながら、トキが少し楽しそうに言った。
トキは随分とクリスさんに懐いているらしい。俺以外とも良好な関係を築くのは良い事だ。
「お世話になったら感謝をするんだぞ」
これは俺が日本で学んだことだ。人に感謝をすること。その重要さは言わずとも分かるだろう。
「分かった」
トキはコクりと頷いて、少しだけ歩く速度を上げた。
そんなにもクリスさんに会いたいのかよ、と思ってしまった俺はそこでふと気がついた。
そういえばコイツは両親と離れ離れになってしまっていたな。もしかすると、クリスさんに母親を重ねているのかもしれない。
一応今は俺が親代わりではあるが、男と女ではやはり違うのだろう。
「クリスっ!」
嫉妬などではないが複雑な心境になっていると、トキが顔をぱあっと明るくして駆け出した。
「トキちゃん!?」
思わぬ来客によりクリスさんは目を見開いて驚いた。その間にトキは彼女に飛びつく。
「すみません。お邪魔してます」
俺は先に行ってしまったトキに追いついて、クリスさんに声をかける。
「サントール様、トワ様にご用事ですか?」
「はい。……今忙しいですか?」
すぐに察したのか、クリスさんはトキの頭を撫でながら笑った。
「今はお部屋に居ると思いますよ。ご案内しましょうか?」
「お願いします。正直広すぎて迷ってたので」
この城に来るのは二度目、しかも前回に関してはトワに引っ張られていたので殆ど初めましてのようなものだ。こんな広い場所で迷わないわけがなかった。
「ねえサントール、クリスも呼ばない?」
さっきまでクリスさんに抱きついていたと想えば、ちょこちょことこっちに寄ってきてそんな提案をしてきた。
「忙しいだろうし厳しいんじゃねえかな」
確かにせっかくなら来てもらいたい。しかしクリスさんはメイド長らしいし、忙しいのではないだろうか。
「私がなんですか?」
俺たちの会話を聞いて、何も知らないクリスさんは頭の上にハテナマークを浮かべた。
「ああいや、実は今度知り合いを呼んでお試し的な感じで店を開こうと思うんですよ。それでクリスさんもどうかなーって」
「なるほど。トワ様に御用というのもその関係ですかね?」
察しの良いメイド長である。ニヤッと笑ったその顔を見て俺はフッと笑った。
「正解です。……で、どうですか?」
「んー、厳しいですね」
「あはは、ですよね」
笑った顔からもしかすると行けるかもしれないと思ったのだが、キッパリと断られてしまった。
「これでもメイド長なので簡単に離れるわけにはいかないのですよ」
やはりお忙しい立場なのだろう。申し訳なさそうにへにゃりと眉を下げて笑った。
「そっすよねー」
「そうなんですよー。トキちゃんもごめんね?」
「……むー」
「こらトキ。不服そうにしない」
断られたことでプクっと膨れてしまったトキに苦笑を浮かべる俺とクリスさん。
「じゃあ俺の付き添いって事ならいいんじゃないか?」
その時、真後ろから俺達の誰のものでもない声が聞こえてきた。
「トワ……いつの間に?」
「いや話し声が聞こえてきたんでな。少しだけ盗み聞き……様子を伺っていたんだ」
「おい隠しきれていないぞ」
俺は軽く小突きながらも、少しだけありがたいと感じた。説明が省けるからな。
「で、空いてる日はあんの?」
話を聞いていたのなら問題無いと判断し、俺は単刀直入に訊くことにした。
「三日後なら空いているぞ」
「オッケー。他には?」
「それ以降は忙しくなるから厳しいな」
では三日後で確定だな。我が友人には一番に来てもらいたい。
「じゃあ三日後ウチに来てくれ」
「了解。クリスも空けといてくれよ」
「分かりました」
これで他の人が三日後に来れなかったらどうしようか。……まあ、それはそうなった時にでも考えよう。最悪プレオープンを何日か設ければいい話だしな。
「用ってのはそれだけか?」
腕を組んで壁にもたれかかる王子様。
関係無い話だが、まるでイケメンがするような仕草をしても違和感がないあたりコイツは本当にイケメンなんだな、と思った。
「ああ、そんじゃ次があるから。またな」
「クリスまたねー!」
俺はそう言って、トキと共に歩き始める。
「その為だけに城まで来たのかよ……」
後ろからトワが溜息を吐いたのが聞こえたが、気にしないことにしよう。




