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無力の俺による世界革命物語──早くて安くて美味い料理を知った。クソマズ飯しかない世界を変えようと思う。──  作者: 御魂海色
第六章 牛丼を作ろう

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第40話 お米が炊けました

「そろそろかな」


 トキの魔法の練習を眺めていると数十分が経過した。


「できた?」


 疲れた様子のトキが隣に立って鍋を覗こうとする。


「開けるぞ」


 俺はトキを抱え上げて、片手で鍋の蓋を持つ。


 トキはまだ背が低いのでシンクと同じくらいに目線がある。そのせいでコンロに乗っている鍋の中身が見えない。だから抱えることで目線を高くして見えるようにした。


 せっかくだからな。一緒に完成を見ようという話だ。


「ハハッ、ちゃんと出来てんじゃねえか」


 湯気に包まれたそれは炊く前よりも一回りほど大きくなっており、白く輝いていた。


「……これがアシヤミ?」


「そうだぞ。お前の生まれた国の飯だ」


 自分の記憶と違うのか目を見開いて驚くので、俺はクスっと笑って事実を告げる。


「美味しそう……」


 トキはそう呟きながら目を輝かせる。


「食べてみようか」


 抱えたトキを下ろしてから、俺はしゃもじのようなものを使って鍋から丼へアシヤミを移す。


 せっかく食べるのなら座って食べたい。ということでカウンターに回った俺たちは席に着いた。


「いただきます」


 俺は米という日本食を前にしたからか小さな島国を生きた記憶が戻ってきてしまい、つい手を合わせてしまった。


 この世界にそういう風習など無いんだけどな。俺は癖が抜けずに「いただきます」と「ごちそうさまでした」は言い続けていた。


「……いただきます」


 その慣習がいつの間にかトキにも馴染んでしまい、彼女もまた俺と同じように両手のひらを合わせていた。


 トキと同時に、膨らんだアシヤミを口に含む。


 粘り気があるもちもちとした食感で、噛むと甘みが広がる。


「なにこれ……」


 トキはアシヤミを見つめて呆然とする。


「ハハッ、成功だ」


 あまりに想像通りの味に仕上がっていて、俺はつい笑みを零してしまった。


 これまでの食材達はそれなりに癖があったし日本の食材とは味が異なっていた。


 だがアシヤミに関してはまんま米と言っても差し支えないだろう。そう言い切れるくらいには再現度が高かった。


 紹介してくれたトーさんに大感謝である。


 しかしよくもまあこんなものを知っていたものである。この世界の人は米というものを知らないはずなのだが。


「これがアシヤミ?」


 自分の記憶にあるものとの差が激しいのか、トキは目の前にあるものをアシヤミだと認識できていなかった。


「ああ。初めて食った味だろ」


 個人的な感覚だが、米というのは独特なものだと思う。


 日本人にとっては当たり前のもので特に違和感など覚えないだろうが、こんな食感の食べ物は他に無い。


「ねえサントール、貴方はどうしてこんなものを知っているの?」


 心の底からの疑問なのだろう。トキは真っ直ぐ俺の目を見つめていた。


「トーさんが教えてくれたんだよ」


 ここで俺が転生者であると正直に話すわけにはいかない。そのため俺は誤魔化すためにトーさんの名をあげた。


 実際アシヤミはトーさんから提案されたものだし、間違ってはいない。


「トーさんって何者?」


「さあな。俺も知りたい」


 この世界で美味しいと思う料理を使っていたり、未知の料理だとしても作り方を想像で当ててしまう。


 あの人は本当に何者なのだろう。その疑問はトキだけではなく俺も抱えていた。


「プレオープンの時にでも訊いてみようかな」


 そういえば直近でトーさんと会うイベントがあったではないか。その時に質問をすることにしよう。まだ来てもらえるか分からないが。


「プレオープン、いつするの?」


 トキの質問で、俺はうーんと唸った、


「まだ決めてないんだよな」


 そう、プレオープンをいつ行うのか、これが今の俺達の課題だった。


 この世界で関わった人でなるべく多くの人に来てもらいたい。だからこそ俺は悩んでいた。


「アシヤミが問題無さそうだったからな。そろそろちゃんと決めないと」


 もう肉の部分は完成している。後は米だけの状態だったが、今日それも完成した。


 パズルのピースが全て出揃ったのだ。


 後は店を開くだけ。だが出だしでミスる訳にはいかない。このプレオープンはとても重要だ。


「トワとか来れるの?」


「さあな。アイツならいつにしても来そうだけど」


 アイツはあれでも王子だ。それなりに忙しい立場だろう。


 トキもそれを理解しているのか来れなさそうな人として真っ先に彼の名を挙げた。


 だがトワならどれほど忙しくても無理やりにでも来そうだ。


 自意識過剰かもしれないが、アイツは俺が店を開くことを楽しみにしている。ので誘えばいつでも来てくれそうだ。


 だが王子のお仕事を邪魔するのは気が引ける。


「まっ、その辺もゆっくり考えようぜ」


 どうせ本人が居ないと予定の擦り合わせが出来ないので、俺はとりあえずアシヤミを楽しむことにした。


 そうして再びアシヤミに手をつける直前にトキの手元をちらっと見ると、いつの間にか皿の中身が空っぽになっていた。


 ……マジックかよ、と思ってしまったが本人が満足気なので何も言わないことにした。

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