第37話 最後のパーツ入手
次の日を迎え、俺たちは再びミライ商店を訪れていた。
「やっぱりここ商店に見えないね」
店の前に来るやいなやトキがそんな事を言った。
大変失礼だがこの店の外見からはただ珍しいものを扱っているだけの商店だなんて思えないので、少女の言葉を止めることもできなかった。
違法な武器とか、危ないクスリとかを売っている裏の世界のお店だと思うだろ。こんな路地裏にあったら。
「そうだな。俺ら以外の客って居んのかな」
少女に同感した俺はふと気になったことを呟きながら店の扉を開く。
怪しい人達が間違えて入ることはあるかもしれない。
なんでここに店を開いたのか。一度訊いてみたいものである。
カランコロンとドアに取り付けられたベルが鳴る。
中に入ると気怠げなアーリーがカウンターに突っ伏していた。
相変わらずやる気のない様子で、俺はつい呆れて溜息を吐いてしまった。
「来ましたよ。アーリー」
「おうお前らか! よく来たな」
取り敢えずカウンターに近づいて声をかけると、彼はこちらを見てぱあっと顔を明るくした。
今日もアーリーが担当なのか。
もしかしたら俺達が来ると分かっているからあえてアーリーが店番をすることにしたのかもしれない。
「アシヤミ届いてるぜ」
アーリーはそう言うと、カウンターの下から重そうな袋を取り出した。
米の入った袋のような見た目で勘違いしそうになるが、これは米ではなくアシヤミだ。
「にしても珍しいもん使うよな」
興味深そうに笑うアーリーの顔を見て、俺はとあることに気づいた。
そういえばアーリーに何を作るのか教えていなかったっけ。
といってもこの世界の人に『牛丼』と伝えたところで伝わらないんだけどな。
「どんな料理作るんだ?」
「牛丼っていう料理です。……簡単に言うと、ブラッド・ブルの肉を煮込んでアシヤミの上に乗せた料理です」
本来は違うが、この世界で俺が考えた作り方を教えた方がいいだろう。
そう考えながら俺は牛丼という料理を簡潔に説明する。
「へえ、知らない料理だな」
やはりアーリーはその存在を知らないようで、頭の上にはてなマークを浮かべた。
「どこで知ったんだよそれ」
「企業秘密です」
「なんだそれ」
テキトーに隠しておくと、彼は眉をへにゃりと下げて笑った。
日本のことは明かしてはいけないことだと思う。
日本からこの世界に来て以降転生という言葉は一度も聞いたことがないし、多分今の俺はイレギュラーな状態なのだろう。
だからアーリーにも、トワにも、トキにだって転生者であることは隠している。
そのせいで定期的に不思議がられるんだけどな。
「にしても美味そうな料理だな」
「美味しいですよ。それはもう既存の料理が不味いと感じてしまうほど」
「そんなにかよ」
俺は至って真面目に言ったのだが、呆れ混じりに笑われてしまった。
だが嘘は吐いていない。
実際俺は日本で飯を食って感動したし、転生してからはこの世界の飯が受け付けられなくなった。
それほど日本の料理というものは美味で、衝撃的だったのだ。
「まだ詳しくは決まってないんですけどプレオープンをしようと思うので、その時はぜひいらしてください」
「ああ勿論。楽しみにしてるぜ」
アシヤミが使えなかった時はまた考えるしかないが、今のところほぼ牛丼は完成しているのでプレオープンを宣言したっていいだろう。
「ちょっと他のものも見ていいですか?」
「ああ勿論。なんでも見てくれ」
この店には珍しいものが多い。だから以前来た時から詳しく見たいと思っていたのだ。
「トキ、なんか欲しいものあるか?」
俺がアーリーと話している間トキは商品の棚をじっくり眺めていたので、何か欲しいものがあるのかと気になって声をかけた。
「ううん。特に」
だが俺の推測は外れて、少女は首を横に振った。
「のわりには真剣に見ていたな」
「見たことないものが多いから面白い」
目を輝かせて、トキは再び視線を棚に戻した。
「どのお店も私が居た国とは全然違う」
そういえば以前も似たようなことを言っていたな、と俺はふと思い出した。
「ファンカトリってのはそんなに流通が少ないのか?」
ミライ商店以外にアシヤミを含めたファンカトリ産の商品が売っているところが見つからなかった。
だから輸出はあまりしていないのかと思ってはいたが、輸入すらしていないのだろうか。
「うん。売っているものなんて極わずかだよ。特に外国のものなんて殆ど無い」
なるほど。今のファンカトリは江戸時代の日本のようなものなのか。
確かに、ファンカトリに関しては物どころか情報すら殆ど回ってこない。
所謂鎖国ってやつなんだろうな。
そう考えるとここにアシヤミが売っているのは結構な幸運だったのかもしれない。
「ファンカトリ……ね」
俺はトキの顔を見つめながら溜息とともに言葉を零してしまう。
「行きたい?」
上目遣いで俺の顔を見つめるトキに軽く笑いかけておく。
「いいや。店で忙しいし」
ようやく牛丼のパーツが全て揃ったというのに他国にまで行く暇は無い。そんな時間があるなら店を開く。
「一応聞くが、欲しいものはあるか?」
「無い」
「そっか」
念の為訊いてみたのだが、やはり首を横に振られてしまった。
珍しいものといえど、その殆どが食材だ。
俺のような珍しいものを欲する料理人でも無い限り望むものはないだろう。
俺は目を輝かせながら店内を見て回るトキについて行きながら何か面白いものは無いかと探すのだった。




