第36話 トッピングを集めようって話
「さて、今日は何をすると思う?」
昨日に引き続き俺達は昼頃から王都の市場に足を運んでいた。
「……分からない。アシヤミは明日でしょ?」
恒例になりつつあるスケジュール確認がてらトキに訊いてみたが、残念ながら今回は分からなかったようだ。
「正解はトッピングの入手だ」
アシヤミを手に入れる目途が立ったからといってその日まで何もせずに過ごすわけにはいかない。
俺達は牛丼屋にとって必要不可欠なトッピングも手に入れないといけないのだ。
だから今日もまた億劫になりながらも外に出てきたというわけだ。
「トワが言ってたロッピーってやつ?」
「それそれ。今日はまずそれをゲットする。他にも使えそうなものがあったら入れよう」
幸い、ロッピーはそこら辺に売っているらしい。
昨日アーリーの店に行く道中で屋台をチラチラ見ていた時に何度か見かけた。
「今後のことを考えると、安定して仕入れられるルートを見つけた方がいいな」
店を続ける上で仕入れ先というのはとても重要だ。
今の俺には人脈というものがあまりに少ない。
トーさんであれば市場の人達にも名が通っているかもしれないが、今は引退して穏やかな日々を過ごしていることだろう。そんな人を俺の都合で呼び出すわけにはいかない。
「ミライ商店は?」
「確かに一番信頼できるのはあそこだろうな。でもそれで全部賄える訳じゃない」
アーリーであれば信頼出来る。……が、先日赴いた際にチラッと他の商品も見たがロッピーは取り扱っていないようだった。
あそこは珍しいものを多く取り揃えているようだが、その反面普遍的なものは数が少なかった。
細かく探せばトッピングに使えそうなものが見つかるかもしれない。また明日探すことにしよう。
「じゃあどこで仕入れるの?」
「そこなんだよ。市場で探すのが一番なのかなぁ」
「王都は何でもあるから、多分それでいいんじゃない?」
トキはそう言いながら、屋台の商品に視線を向けた。
「ここはあの国と違って何でもある」
好奇心全開の瞳で商品を眺めている少女を見た店主さんはニカッと笑いながら話しかけた。
「何かご入用かい?」
「あっ、いえ……」
俺やトワ、クリスさんとは普通に話していたトキだが、強面のゴツいおじさんとは厳しいらしい。
ビクッと震えて縮こまってしまった。
「あーすみません。ロッピーとか売ってないですか?」
俺は固まるトキの頭に手を置きながら店主に話しかける。
「ロッピーか? ああ極上のものを仕入れてるぜ。料理でもすんのかい?」
「そうなんですよ。今度飲食店を開こうと思ってて、そこで出す料理に使いたいなと」
「おお! そいつは良いねぇ」
まさかトキが捕まったから寄った店に目的の品があるとは思わなかった。
「じゃあロッピーもそうだが、こういうのもどうだい?」
今がチャンス、と言わんばかりのニヤつきを見せた店主さんは置かれている品物の数々からひとつだけピックアップした。
「これは……?」
見ると、赤色の何かだった。見た目から予想するにキムチだろうか。
「ナノハって言ってな。草を香辛料に漬けたもんさ。ピリッと辛くていいアクセントになるぜ」
話を聞いた感じ、やはりキムチと似たようなものなのだろう。
キムチ牛丼というのは日本にもあった常設のメニューだ。
最初のメニューはやはり定番のもので攻めたいな。
「じゃあそれもください。後は……」
俺はそう言って雑多に並べられた商品たちを見渡していく。
「あっ、これ!」
俺は何かに導かれたかのようにひとつの商品に視線が吸い寄せられていき、つい声を大きくしてしまった。
「キチンの卵だな。お前さんまた珍しいもんうに目をつけるな」
店員のおっちゃんはガハハと笑いながらその手のひらサイズの楕円に似た球体を持ち上げた。
これはどう見てもニワトリの卵だ。
卵は勿論あるとは思っていたが、まさかニワトリの卵と瓜二つのものがあるだなんて思わなかった。
「これもくれ!」
奇跡的な出会いに俺は興奮のあまり前のめりになってしまった。
「お、おう。構わねえけどよ……」
流石のおっちゃんも俺のテンションについていけなかったのか少しだけ引いていた。
店員の様子に目もくれず、俺は頭の中でメニューを考えていた。
卵があるだけで料理の幅は百倍にも膨れ上がる。それは牛丼屋も例外ではない。
まずネギたま牛丼が作れるようになった。
俺が働いていた店に限らず、牛丼屋ではネギたま牛丼がチーズ牛丼に負けず劣らずの人気商品だった。きっと、この世界でも多くの人に好まれることだろう。
温泉たまごにしてカレーに入れたりするのもいいな。
ああそうだ。シンプルにたまごかけご飯もいいだろう。この世界の人にはそれだけで十分衝撃な料理なのではないだろうか。
考えるだけで楽しくなってくる。
そうだ。今日はとりあえずこの店で欲しいものを買って帰宅することにしよう。そしてメニューを作ろう。
「楽しそうだね。サントール」
「そりゃあな」
「ガハハ。たくさん買ってってくれや!」
俺の様子を見て、トキもおっちゃんも笑顔を浮かべた。
その顔を見てハッとした俺は恥ずかしくなって視線を逸らしてしまうのだった。




