第34話 スーパーポジティブ
「魔力も落ち着いたし再開しよう」
「うん」
立ち上がった俺がそう告げると、トキも立ち上がって首肯した。
「さっきも言ったが、次は今回のメインディッシュである魔力制御の練習だ」
今日はこれを覚えさせるためにここに来た。といっても、すぐにできるとは思っていない。
ここからは練習法さえ分かってしまえば家に帰ってからでもできる。だから今日できなくてもいつか出来たらそれでいい。
誰も居ない平野に連れてきたのは先程の荒療治をするためだからな。
「魔力制御なんだが、魔法を扱えるようにするのが手っ取り早い」
というか俺はこれ以外の方法を知らない。
魔人の奴らとかなら効率的な練習法を知っているかもしれないが、残念ながら奴らとは敵対関係にある。
俺は我流で魔法を習得した。それは魔力制御も同じだった。
「いきなり?」
「何でもそうなんだよ。使ってりゃできるようになる。そんで魔力制御を最も使うのが魔法だ。だからそれを練習する」
筋トレや歌と同じだ。結局やればできるようになるし、やらないと一生かけてもできない。
「継続は力なりという言葉がある。魔力制御はそういうもんなんだ」
だから俺は今日で習得できると思っていなかったのだ。
「実際俺も物心ついた時から練習して今に至るが、ケツァールには遠く及ばなかったしな」
あの時は魔法で勝てないと思ったから殆ど筋肉でゴリ押した。
だから奴の防御魔法を貫くことができなかったのだ。
奴の魔力制御は桁違いとはいえ、それでも悔しいものは悔しい。
次会う時には絶対魔法で奴に勝つ。俺は密かにそう決意していた。
「サントールって悔しいとか思うんだ」
「……なんだ。読心魔法でも使えるのか」
悔しいと思ったことは口にしていないのだが、なぜかトキは意外とでも言いたげな顔をした。
読心魔法なんてものは俺の記憶の限りでは存在しないのだが、コイツはそんなものを覚えているとでもいうのか。
「使えないよ。なんとなくそうかなって」
それはそれで疑問が浮かんでくるが一先ず置いておく。
どちらかといえば俺の感情を言い当てた次の言葉が気になる。
「俺のことなんだと思ってんだよ。人間なんだから感情はあるぞ」
魔王様とかであれば感情なんてものは無いのかもしれないが、残念ながら俺は人間だ。
「サントールって基本的に達観してるというか、そういう事思わないと思ってた」
「なわけないだろ。俺の事どう見えてんだ」
あまりにも変なことを言うので、俺はついクスッと笑ってしまいながらトキの頭に軽くチョップを当てる。
「とりあえず練習始めるぞ」
このままでは日が暮れてしまうので、俺はパンッと手を叩いて切り替えた。
「お前に覚えてもらう魔法は……そうだな。さっき見せたやつにするか」
「あれをやるの?」
「そう」
不安そうな顔をするので、頬を軽く引っ張っておく。
「やる前からそんな顔するな」
二回ほど人間をやってみて思ったことなのだが、なぜやってみてもいないのに出来ないと決めつけるのだろうか。
まあトキはエルフだが、どうやら奴らも人間と同じようなものらしい。
試してみて自分に不向きだと思うことは分かる。
ただコイツらは推測のみで物事を決める節がある。それが理解できない。
「やってみろ。出来ないなら出来るようになるまで練習しろ。お前らに不可能なんてないんだ」
俺がこの体で魔法を使えるように。人間に出来ないは無い。
得手不得手があるだけなのだ。
ただソイツが苦手としているから今出来ないことがあるだけで、言ってしまえば無限の時間があれば何でもできる。
少なくとも、俺はそう思う。
「サントールはポジティブだね」
「俺はただ自分を信じてるだけだ」
ポジティブだとかネガティブだとか、そんな話ではない。
自らのポテンシャルを信じているだけ。ただそれだけなのだ。
「……そっか」
「ああ。同時に、お前の事も信じている」
「え?」
俺はなるべく優しい笑みを作るように意識してニッと笑う。
「だってお前はウチの看板娘だからな」
先程の感覚を掴ませる練習で、俺はコイツに才能を感じていた。
俺は暴走する前提であれを行ったのだがトキは自力で抑えることに成功した。
普通であれば魔力に振り回されてしまうところを、俺の補助があったとはいえ、自らの力で"制御"したのだ。
だからこそ彼女ならば俺の魔法を扱えると思ったのだ。
「……分かった。やってみる」
俺の言葉を聞いてトキは自信がついたのか、拳を固めて覚悟を決めた顔をした。
「おーけー。じゃあ俺の『太陽の腕』を教える。面倒だし一回しか説明しないからな。よく聞けよ」
そうして俺は彼女に魔法の発動の仕方と『太陽の腕』の術式を伝授した。
魔法とは魔力と術式によって構成される。
魔法術式と呼ばれるそれは、魔力の変化の仕方を特殊な言語で記したものだ。
通常はそれを地面に書いたり魔力で作ったりした魔法陣に記して、そこに魔力を通すことで発動する。
簡単に言ったが、記し方にもルールはあるし、魔力の通し方だって魔法によって異なる。
「『太陽の腕』の場合は魔力を腕に纏わせて腕ごと魔法陣に通すんだ。纏わせる魔力の量で威力が変わるが、難易度も変わるから最初は薄く纏うんだ」
魔力は多ければ多いほど強力で、扱いにくいものになる。これくらいは想像が容易だろう。
「サントールは魔法陣使ってなかった」
よく見ている子である。
俺は少しだけ感心しつつも苦笑を浮かべた。
「俺はちょっと例外なんだ。今教えたのが基本的な発動方法だからまずはそっちを覚えてくれ」
ベテランが過程を省略するようなもので、俺もまた早く発動できるように工夫していた。
ただこれは初心者が真似をするものではないのでトキにはやらせないようにした。
「サントールの方法でやりたい」
すると何故かトキはそんな要望をした。
「……多分できないぞ」
「できる。出来なかったら練習すればいいんでしょ?」
トキは先程の俺の話を引っ張り出してきた。
俺には少女の考えが分からなくて困惑してしまった。




