第33話 スパルタ特訓
これが俺が編み出した人間の魔法、『太陽の腕』だ。
やっていることはとても単純で、ただ腕に炎を纏う程度。
しかしこの炎は魔力で作られているため、実質魔力を腕に纏っているようなもの。簡単に言うなら、炎属性の付与と身体強化を同時に行う魔法だ。
「グルァッ!」
急に炎が発生したことで一瞬怯んだように見えたが、それでも臆することなく突撃してくる鹿。
「シッ!」
当たったらひとたまりもないであろう突進をギリギリのところで回避して、横から炎を纏わせた一撃をお見舞いした。
「ギュオァ……」
吹っ飛んでいった魔物は再び立ち上がろうとしたが、俺の攻撃がよっぽど効いたのか力なく倒れた。
「さてさて、失礼しますよっと」
俺は軽く手を振って炎を消してからウキウキで魔物の死体に近づく。
それから少しだけ魔力を通じてコイツの体内にある目的のものを見つけると手を突っ込んで無理やり抜き取る。
その際紫色の血のようなものが出たが、魔物に血は無い。
これは魔力が物質化して液体のようになっているもので、大気に触れると魔力が空気に溶けていくので蒸発するように消えていく。
血のように残ったりしない点でいえば魔物のこれはありがたい。
ただ見た目がグロいのは変わらないので、なんでこの世界を作った神様は魔物をこの仕様にしたのか疑問に思う。
「それは何?」
興味津々といった様子のトキが小走りで近づいてきて顔を覗き込んでくる。
「これは魔石だよ。お前にもあるだろ」
トキの首から少し下あたりをトンッと叩く。
エルフは確かここに魔石がある。トキもそれは例外ではないようで、少しだけビクッと震えて後退った。
「なんで魔石?」
魔石とは魔物の心臓のことだ。もっと詳しく言うと魔力の生産工場。
ここから魔力を生成するので魔物にとっての心臓ということだ。
魔物にとっての魔力は俺達にとっての血液と同じようなものだからな。つまりここさえ破壊してしまえば魔物は死に至る。
なのでいつもであれば魔物と遭遇した時は魔石を壊して終わらせるのだが、今回はその魔石が必要だったのであえて壊さずに命を奪った。
「これを使って魔力の感覚を掴んでもらう」
トキへ向けて山なりに魔石を投げる。少女は慌てたように両手でそれをキャッチして、僅かに頬を膨らませた。
「危ない」
「落としても問題ねえよ。魔石はそんな柔くできてない」
まあそれでも傷が入ることはあるので、なるべく落とさないでほしいんだけどな。
「いつ効果が切れるか分からないからな。悪いが少しだけ無理やり覚えさせるぞ」
俺はニヤッと笑って、その魔石をトキの目の前で砕いた。
魔力の生産工場の形が崩されたことで、中から大量の魔力が紫の気体となって溢れてくる。
色が出るほどの魔力ということは相当濃いものだ。
「さ、サントール!?」
トキは俺が何をしたのか理解しているらしく、驚きのあまり口をパクパクさせていた。
その間にも魔力は周囲へと散らばっていくが、やがて宿主を見つけたかのようにトキのもとへと集まっていった。
「耐えろ。そんで魔力の流れを掴め」
俺はトキに両手を向けて、集合していく魔力を整理して流れを一方通行にしていく。
「これ……やばい……」
トキは身体の中に入ってくる大量の魔力に苦しんでいるようで、胸を押えて蹲った。
「落ち着くんだ。体内に流れてくる魔力を全身へ巡らせろ」
流石に厳しいか。
魔力が刺々しくなっていく。出会った頃と似たような感じだ。
そろそろ限界かと思い止めようと思ったのだが、そこで俺は気づいた。
ほんとに少しずつではあるが、トキの体内へと入り込んでいった魔力が全身へと巡り始めていた。
「いいぞ。その調子だ」
俺はその現象を見て思わず笑みを浮かべてしまった。
これは荒治療であり、暴走の可能性があまりにも高い危険な行為だった。
ただこの後に始まる本格的な魔力制御の習得が最も大変で時間がかかるため、こんなところに時間を使う訳にはいかないのだ。
なので俺の技術を全力投入して暴走を抑えながら感覚を覚えさせようとしたのだ。
「――はぁ、はぁ」
「お疲れ」
それから少しだけ時間が経って、トキは全ての魔力を吸収することに成功していた。
「サントール……何考えてるの?」
あり得ない、といった表情をするトキに笑みを見せる。
「言ったろ。無理やり覚えさせるって」
「限度がある。暴走させたいの?」
地面にペタリと座りこみながら肩を揺らすトキはまるで悪魔を見るかのような目でこちらを見てくる。
雇用主にそのような視線を送るなんてクビが飛んでもおかしくないことではあるが、今回は俺が悪いので何も言えない。
俺はとりあえずトキの頭を優しく撫でておいた。
「させるわけがないだろ。俺なら暴走を止められるからな」
魔石を砕いた瞬間は魔力に愛されているトキに集まっていったが、やろうと思えば集まる街灯を俺に変更することも出来た。
その方法を用いることでトキが限界を迎える前に魔力の供給を止め、彼女の体内に溜まった魔力を出してやれば暴走なんてしないのだ。
「食いな」
そういって俺はこの平野に来る前に買った干し肉を手渡した。
「……これ、なんか懐かしい感じがする」
小さな口で肉を齧る少女を横目に俺は近場の岩に腰掛ける。
「お前を拾った時に食わせた肉と同じ細工を施してある。それで落ち着くだろ」
抑制肉を念の為作っておいてよかったかもしれない。
自力で流れ込む魔力を抑えることに成功したとはいえ、それでも暴走しかけている。まだ魔力制御を覚えていないトキにはそれを戻すのは難しいからな。
それに相当疲れただろうしな。トキのことだから食欲が湧いていることだろう。
「なんか不思議な感じがする。体の中に何かがあるのが分かる……かも?」
「それが魔力だ。次からそれのコントールの練習な」
自分の手を見つめて首を傾げるトキ。
そんな彼女の様子を眺めながら、俺は小さく笑みを浮かべた。




