第27話 お偉いさん方とお話
「『幻想のケツァール』……か。これはまた厄介な相手だな」
話を終えると、強面女騎士さんが小さく呟いた。
「十年前サントスレア領の近くで発見された時以来大人しくしておったが、また動き始めているとはな」
お偉いさん方はみんな揃って眉間に皺をよせていた。
「特異個体の生成、もしそれが可能なら……何日持つ?」
「一日と持ちませんよ。三体でも同時に送られてしまえばね」
司祭と騎士がそんな話をしているので、俺は少しだけ口を挟むことにした。
「多分、意図的に生成した特異個体は自然発生するものよりは弱いと思います」
「ほう。その根拠は?」
俺が実際に戦ってみて感じたことを伝えると、王は興味深そうな顔をした。
「風花雲月はCランクのクランですし、私もまだFランク。その四人で戦って損害を出すことなく討伐に成功したからです。自然発生した個体であれば、歴戦の猛者を何人と集めても損害は発生するはずかと」
「確かに、先日の『荒れ狂うブラッド・ブル』は精鋭を集めた討伐隊も過半数が負傷しています。幸い死者は出ていませんが、これまでの特異個体の討伐では壊滅することもありました。それを踏まえると、確かに特異個体にしては弱いですね」
強面女騎士さんが顎に手を当てながら語る。
荒れ狂うブラッド・ブル……というのはあのクソマズ牛のことか。討伐隊の手柄になっていてよかった。トワがバラしていないようで安心である。
「では、まだその技術は未完成だと考えてもいいということか?」
「断定はできませんが、可能性は高いかと」
希望が見えてきたのか、顔が明るくなり始めるお偉いさん方。しかし王と女騎士のみ未だ暗い顔をしていた。
「だが、未完成の特異個体といえど通常個体より脅威であることに変わりはない。それを何十体も量産されてしまえば同じ話だな」
王が以前重い雰囲気を漂わせている理由が明かされると、再びお偉いさん方は顔を暗くしてしまった。
「詳細な対策は後々考えるが、一先ず魔人への警戒を強めつつ、兵力強化を急げ」
「「「はっ!」」」
王の指令を受け、お偉いさん方は頭を下げた。
「サントールもご苦労であった。ドトールからも話は聞くが、今度また落ち着いたときにでも話を聞かせてもらうぞ」
「分かりました」
「それと、愚息と親しくしてくれていることも感謝する。そやつの相手をするのは大変だろうが、よろしく頼む」
「お、お父様……」
一瞬威厳のある王から一人の父親の顔になって、俺はつい笑みを浮かべてしまった。
トワもしっかり親から愛情を注がれているらしい。
それを知ることができてよかった。世の中には我が子のことを放置したり虐待する親も居ると聞くからな。
「おいサン。どういうことだ?」
話が終わったので王の間を出ると、なぜか肩を掴まれて顔を近づけられた。
これがガチ恋距離というやつか。確かにイケメンに寄られると緊張してしまうな。
「なんのこと?」
今更コイツに驚かれる要素なんてあっただろうか。
魔法のことも、特異個体討伐のことも、トキのことだって全て先んじて話をしているというのに。
「お前、サントスレア伯爵のご子息なのか!?」
なるほど。そのことだったか。そういえばトワには明かしていなかったんだったな。
「そうだよ。まあ追い出されたから今は違うとも言えるんだけど」
家を追い出されたあの時から俺はクロムスを名乗るようになった。
それからはもうサントスレアの人間ではない。
「……確かにお前の事情では追い出されるのも仕方ないとは思うが、もしかして家族にすら言っていないのか?」
信じられない、といった顔をするトワ。彼が言っているのはきっと俺の魔法のことだ。
「妹は知ってるよ。ただ両親は知らない」
アイツは俺の事が嫌いだとは思うが、それでも兄妹であるからか時間を共にすることが多かった。
その結果、一度だけ魔法を発動している場面を見られてしまったのだ。
一応口止めはしたし、妹も明かす気は無いらしく数年経った今でも親にはバレていなかった。
「妹……ああ、あの『天才』か」
俺の自慢の妹がちょっとした有名人だからか、トワも知っていたらしい。
「正反対なんだな。お前達は」
俺達の性質があまりに対称的なことが面白いのか、トワがそんな事を言った。
魂力を持たず魔術を扱えない無能な俺と、数多の魔術を行使する天才の妹。
確かに、面白い兄妹だと思う。
「アイツは俺と違って魔術の才があったからな。今も苦労してるだろうよ」
妹は幼いながら魔術に長け、世界中の人々から天才ともてはやされた。
複数の国から招待もされていた。英雄にならないか、という安っぽい誘い文句とともに。
どうしてそんなことをするのか、それを説明するのはとても簡単だ。
今世界の至る所で戦争が始まろうとしている。一触即発という言葉がピッタリ当てはまるのだ。だから各国は戦力を求め、優秀な人材を招き入れようとする。
その話を聞いた当時の俺は我が妹を戦力としか見ていない国々に怒りを覚えたが、本人が楽しそうに魔術を学んでいるので気にしないことにした。
才能が無いと苦労するが、類い稀な力を持つこともまた大変であると知った。だから俺は妹に同情しているし、少し罪悪感を感じている。
才能がない人間は捨てられるだけだからだ。
ひたすら期待を背負う人生を俺は楽しいと思えない。だから妹が見せたあの笑顔も、仮初のものなんじゃないかと思えてしまう。
「サンって案外シスコンなんだな」
どうやら俺は感情が顔に出やすいらしく、ジッと俺の顔を見つめていたトワがクスッと笑った。
「家族を愛することが悪いかよ」
「いーや。素晴らしいことだ」
煽りに思えたので肘で腹を突いたのだが、どうやら褒め言葉だったらしい。
ただその笑顔が気に入らなかったので、俺は再び腹を肘で突いた。




