第26話 初王城
「サン。今すぐ王城に来い」
次の日トキ用の朝食を作っていると、突然店の玄関が叩かれた。
出てみるとそこには昨日の夜も見た顔があり、その顔は少し焦りと疲労が感じ取れる。
「どうしたんだ?」
突然のことなので説明を求めたのだが、その説明を後回しにされて馬車に詰め込まれてしまった。朝食を食べていないので不機嫌なトキも一緒にだ。
「おいおい。説明してくれよ」
「上層部から先日の魔人や特異個体の件で詳細な話を聞きたいと要望があった。だから今からお前は王城で王や騎士団長に説明をしろ」
「はぁ?」
まさか昨日キャンセルされた王城訪問がこんな形で叶うとは思ってもいなかった。
ただこういう展開は望んでいない。俺はただトキを迎えに行く過程で少し城の中を見学させてもらえればと考えていただけだ。
「いいか。俺にしているような態度はするなよ。相手はこの国の王だからな」
「いやしねえけどよ」
俺の事を何だと思っているのだろうか。トワが自らを王子だと明かした時には敬語を使おうとしていただろ。
一応伯爵家の子なのでその辺の礼儀は母上から教わっている。ほとんど忘れてしまったが。
面倒そうに大きな溜息を吐くトワ。その顔にはクマができており、寝ていないんだろうな、と少しだけ同情した。
王都の中央に聳え立つ巨大な城の中に馬車ごと入っていき、気づけば城内へと案内されていた。
西洋風の豪勢な装飾で、まさに日本にあるRPGゲームのソレだった。
トキは話には参加しないようで、途中でメイドらしき人に連れていかれた。
トキが警戒していないところをみるに昨日対応してくれた人なのだろう。後で感謝をしておかないとな。
俺とトワはトキと別れた後に廊下を歩き続け、一際大きな扉の前に立った。
訊かなくてもわかる。これは王の間の入り口だ。魔王城とかならこの先に入るとラスボス戦が始まるんだ。
「失礼します」
騎士らしき人に扉を開けてもらい中に入ると、体育館くらいはありそうな大きな空間が広がっていた。
その奥には大きな玉座に豪勢な衣装を身に纏った偉そうな人が座っている。他にも司祭のような服を着たおじさんや、怖そうな顔の鎧を着たお姉さんなど何人か立っている。
「お主がサントール・クロムスか」
「はい」
膝をついて頭を下げる。すると、低く威厳のある声で話しかけられた。
謁見するときって何か作法みたいなものがあるのだろうか。昔教わったような気がするが完全に忘れてしまった。
「……ふむ。どこかで見たことがある気がするな」
「えっ、マジすか?」
「サン」
「あっ! すみません」
こんな威厳たっぷりな人と面と向かって話した記憶は無い。
まさか王が俺のようなガキを認識しているとは思えないが、どこかで会っていただろうか。
びっくりしたことでつい普段の態度が出てしまって、隣に居るトワに結構強めな力で突かれてしまった。
「……思い出したぞ。サントール、確かサントスレアの子ではなかったか?」
「はい。確かに私はドトール・サントスレアの息子ですが、どこかでお会いしましたか?」
まさか父の名を出されるとは思ってもいなかったので、正直に答えてしまった。
いや、どうせ王の前で嘘を吐くことはできない。後が怖いからな。どうせ父から後々説明があるだろうし、バラしたって問題は無いだろう。
「何度かドトールの領地に赴いたことがある。その時に顔を合わせたことがある。……が、確か最後に見た時はまだ赤子だったな。記憶が無いのも当然のことか」
ほう、まさか俺が赤子の頃に出会っていたとは。
転生しているとはいえ、子供の頃の記憶は薄れつつある。やはり物心つく前というのは意識があっても分からないものなのだな。
しかし赤子の頃しか見ていないのに気付くとは、このオッサン只者ではないな。……と思ったがこの国の王様だった。
「しかしクロムスと名乗っているのは何故だ?」
「少々事情がありまして、今は家を出て冒険者をしております。後々、父から詳しい説明があるかと」
「なるほどな。あやつも子育てに苦戦しているというわけか」
父と王は仲が良いのか、王は顎に手を当てながらにやりと不気味に笑った。
「王、そろそろ本題に」
「そうだったな」
懐かしのサントスレアトークが始まりそうというところで、強面女騎士が口を開いた。
「サントール。此度は特異個体の討伐、ご苦労であった」
「ありがとうございます。しかし、その言葉は共に戦ったクランの皆にかけてあげてください。私はあくまで助けてもらった身ですので」
キングゴブリンを倒したのは風花雲月の彼らだ。
俺はただ何発か矢を撃っただけ。俺に王からのお言葉を独占する権利は無い。
「風花雲月といったか。彼らにも褒美を渡すことにしよう」
王がそう言ってくれたので、俺は感謝の言葉を告げる。
これで彼らも懐が暖かくなることだろう。俺にも報酬を分けてくれたお礼だ。これで良い物を食べてくれるといいな。
「どうやら魔人と相対したらしいな」
「はい」
「詳細を聞かせてくれるか?」
王に頷き、俺はトワに話したことと殆ど同じような内容を王や他の皆さんに説明するのだった。




