第25話 おやすみ
「そんで対峙してみて分かったことなんだがな。多分奴らに今攻められたら簡単に落ちるぞ」
話を戻して、俺は端的にその事実を伝えた。
「……そうか」
トワも思うところがあったのか、特に反論するなり驚くなりすることもなくただ眉間に皺を寄せるだけだった。
今回ケツァールと対峙して分かった。今のままでは奴らと戦うのは厳しい。
アイツの実力が高いのはそうだが、それ以上に人間側の実力が落ちているのだと思う。
俺の妹は魔術に長けており『天才』と称されていた。
ただ、そんな彼女でもケツァールには遠く及ばない。
今後成長の余地はあるかもしれないが、それでも埋めることができないくらいには差が大きい。
だから彼女が天才と呼ばれる世界では勝ち目がないと思ったのだ。
そう考えると、過去の勇者とやらは人間の特異個体なんだな。
「それにアイツらは何かしらの方法で特異個体を生成できるかもしれない」
「――ッ!?」
どうやら驚きのあまり声が出ないようだ。
それもそうだろう。トワも特異個体の危険性は理解している。それが量産されてしまえばどうなるかもな。
「あのキングゴブリンからは僅かにだがケツァールの魔力を感じた。それは俺の気のせいじゃなくて、同行したクランの魔術士も感じ取ったことだ」
「……それは、穏やかじゃないな」
顔の前で手を組んで、トワは深刻な顔をしていた。
「分かった。このことは上に報告しておく。同行したクランの名は?」
「風花雲月。Cランククランだ」
「了解した。それじゃあな」
あまりに重大なお話だったからか、トワは眉間に皺を寄せたまま早々に店を出ていった。
「話、終わった?」
「ああ」
トワが出ていったことを見ていたらしく、先程までテーブル席に座ってボーっとしていたトキがトコトコと近づいてきた。
「先寝てても良かったんだぞ。もう遅いし」
「エルフは夜行性」
「嘘吐くんじゃねえ。目開いてないぞ」
瞼はギリギリ開いているのかどうかというくらいで、一目見ただけで眠いのだと分かった。
トキはまだ子供だしな。
もう日も跨いでいるし、普段なら寝かせている時間だ。今日はよく起きている方だな。
「寝よ」
瞼を擦りながら服の裾を引っ張ってくるので、俺はクスっと笑みを浮かべた。
「今日は疲れたしいっぱい寝ようか」
眠そうなトキが何かにぶつからないように手を繋ぎながら、キッチン側にある階段から二階に上がって住居スペースに入る。
少し前まではこの時間はまだ活動していたが、トキと出会ってからは寝るようになってしまった。
なぜなら、この家にベッドが一つしかないからだ。
ベッドを二つ買うことも考えたのだが、
「一緒に寝たらいい」
とトキに言われてしまったので一つのベッドで寝ている。
俺もなるべく出費を減らしたかったので賛成してしまった。しかしまさか生活習慣を正されることになるとはな。
「そういえば、それなあに?」
まだ意識はあるらしく、トキは俺が持っている弓矢を指差した。
「弓だよ。貰った」
そういえばこの弓をもらったのは今日だったな。一日があまりにも濃いせいで勘違いしていたがトキは知らないのか。
「要らなくない?」
トキは俺の戦闘スタイルを知っているので不思議そうな顔をしていた。
そんな彼女に苦笑いを浮かべながら説明をしてやる。
「魔法なんて人は使えないし、俺みたいに素手で魔物を殴るバカは居ないんだよ。そんで俺は注目を浴びたくない。だから弓使いってことで隠してるの」
今日クエストに行ってみて分かったが、弓というのは俺と相性がいい。
魔力を乗せやすい。特に金属であると余計に。木でもいいのだが魔力が通りにくいんだよな。個人的な感覚だが。
剣でも似たようなものだが、あの程度のリーチなら殴った方が早い。
弓の利点は遠距離攻撃であることだ。
魔力の乗った攻撃を遠くへ飛ばすことができる。
クエストでは試さなかったが、魔法を付与することも出来ると思う。
「弓、楽しい?」
「意外とな。今度やってみるか?」
「……やってみたいかも」
「じゃあ暇な時に試してみるか」
やるとしても金属の弓ではダメだろうな。あれは俺だから使えるだけで、普通の人……特にトキのように幼い子では引くことができないと思う。
今度安めでいいから木製の弓を買うことにしよう。
「冒険者楽しそう」
「辞めとけ辞めとけ。危ないぞ」
今回はイレギュラー中のイレギュラーだが、冒険者は常に危険が付きまとう。
そんなものをトキにやらせるわけにはいかない。
危険は可能な限り無くす。ウチの大事な看板娘だからな。怪我ひとつさせる気はない。……料理中のミスは除く。
母上も父上もこういう気持ちだったのだろうか。申し訳ないことをしたかもしれない。
「サントールが護ってくれたら安心」
「俺を過大評価しすぎだ」
俺だって常に護れるわけではない。
「そもそも店開いたら忙しすぎて冒険者どころじゃないぞ」
牛丼なんて料理この世界のどこを見てもきっと存在しない。この飯を食った人は必ずビックリ仰天するだろう。
まだ開店前だが、俺は大繁盛する予感がしていた。
「忙しくなるといいね」
「なるさ。俺の勘はよく当たるんだ」
知らないけど、きっと当たると思う。そう信じている。
「ほら寝るぞ」
明日以降もまた忙しくなる。金はまた当分持つと思うので、アシヤミの入手に向かいたいところだ。キングゴブリンの報酬も貰わないといけないしな。
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
先にベッドに潜り込んだトキが微笑みを浮かべてそう言うので、俺も笑みを返してからライトを消した。




