第23話 初王城キャンセル
「ただいまー」
ガラガラと店の玄関を開けて中に入る。
「って、誰も居ないか」
返事が一切返ってこなかったので、俺はふうっと溜息を吐いた。
玄関の鍵が閉まっていたので何となく察してはいたが、トワとトキはどこかにでかけてしまったらしい。
アイツめ、うちの看板娘を危険に晒したらただじゃ済まないからな。
看板娘を連れ去った我が友人へと念を送りながらキッチンに回ると、まな板の上に一枚の紙が置いてあった。
置手紙だろうか。こんなところに置かないでほしい。せめてカウンターとかにしてくれ。
「えーっと、なになに。『お城に行ってきます。帰ってきたら迎えに来てください』と」
ほう。トワの奴、ウチの娘を家に連れ込むとは随分とやり手ではないか。仕方がない。アイツには魔法の存在を知られているしな。少しばかり本気でじゃれついてやるとしようか。
と思ったが早急にトワに会わないといけないので丁度良い。このタイミングの良さに免じて今回は許してやることにしよう。
ちなみに今回のクエストにて、合計でいえば特異ブラッド・ブル発見の十分の一程度しか貰えなかった。それも四人で分けるので、更に少ない。
ただCランククエストらしく薬草採取ではいただけない金額だ。
更に特異個体キングゴブリンの討伐報酬も後日いただけるらしい。
今回持ち帰った指は残念ながら道具作成には使えないらしいが、何かの研究に送られるんだとか。そのためギルド側で買い取ってもらえることになり、その分報酬もプラスだ。
誘ってくれたアーリーには感謝だな。
そういえば、今回俺がおとりとなったことで魔人の襲来というイベントがあったのにも関わらず誰一人死ぬことなくクエストを達成できたが、俺が参加しなかったら誰かは少なくとも命を落としていたな。
下手すれば風花雲月というクランそのものが消えてしまうかもしれない。
アイツらは運すらも味方にすることができる強者なのかもしれないな。今後とも、機会があれば仲良くしたいものだ。
「仕方ねえ。王城とやらに行くとするか」
生まれてこの方一度もラヴィ―ナ城に行ったことがないので、何気に初めて城へ向かうことになる。
というか、そもそも俺は最近までサントスレア領から一歩も出ていなかったからな。
もう少し幼い時に外に出てみたかった気持ちもあるが、今こうして新鮮な気持ちで楽しめているのでこれはこれで良かったのかもしれない。
「さて、王城はどっちかな――」
「――なんだ。帰ってきていたのか」
家を出た瞬間、最近よく聞く声が聞こえてきた。
「……ああ、今帰ってきたんだよ」
さらば、俺の初ラヴィ―ナ城。
「なぜ残念そうな顔をしている。クエストに失敗でもしたか?」
俺が自覚している以上に楽しみだったのか、どうやら落胆の気持ちが顔にまで出てしまったらしい。呆れた顔をしたトワが肘で俺の脇腹を突いてから店の中に入っていった。
「サントール。おかえり。そしてただいま」
「ああトキ。ただいまとおかえり。そんなことより慰めて」
俺はあまりにもタイミングが良すぎるトワのことが嫌いになりそうで、とりあえず看板娘をひしッと抱きしめるのだった。
「どうしたの。どこか痛い?」
驚いたような声色だったが、頭を撫でてくれる。
この子は優しい子だな。ぜひともこの子を産んだ親に感謝の言葉を伝えたい。
「腹は痛い。殴られた」
嘘は吐かない。実際魔人に殴られた箇所はまだ痛い。
「えぇ、大丈夫?」
「そんなことより心がつらい。おもちゃを取り上げられた子供の気分」
王城なんて絶対豪勢な場所じゃん。一度はそういうところ見てみたいじゃん。サントスレアの家も中々に豪華ではあったと思うけど、一国の中心なんてレベルが違いそうじゃん。見てみたいじゃん。
「何それ。とりあえず中に入らない? ここだと恥ずかしい」
トキのそんな言葉で俺は我に返り、跳ねるようにトキから離れた。
「……悪い」
「疲れてる?」
「そういうわけじゃ……いや、そうだな。そういうことにしておいてくれ」
俺らしくない行動をしてしまった。我に返った今先程の行動を酷く後悔していた。
「……お前ら、何をしているんだ?」
その時、玄関からトワの呆れた声が聞こえてきた。
さっき中に入ったはずなのだが、俺達が中々入ってこないので様子を見に来たのだろう。
「なんでもねえよ。ほら入った入った」
俺は先程の事を忘れるべく雑にはぐらかしてトワを店の中へと押し込んだ。
「そうだ。お前、その子どういう育て方をした?」
俺に押され続けて結局カウンター席に座ったトワが渋い顔をしたままそんなことを訊いてきた。
「はあ? そもそも育てるほどの時間経ってねえよ。俺ら出会ったの数日前だぞ」
キッチンに回りながら、俺は変な質問をするトワに溜息を吐いた。
俺とトキが出会った経緯は伝えたはずなのだが、一日も経たずに忘れてしまったのだろうか。それならコイツの頭は随分とポンコツだ。日本にある旧世代のパソコンくらいの脳と記憶容量だ。
「……先程まで飯を食わせていた。その結果、うちの食材の殆どを持っていかれた」
真顔で告げるトワの言葉が理解できず、俺は数秒頭の中で咀嚼する。
「はぁ!?」
そしてようやく言葉の意味を理解し、俺はあまりの驚きで大きな声を上げてしまった。
急に叫んだことで隣に並んできたトキがびくっと震える。
「お前今までずっと飯食わせてたのか!?」
クエストに出たのは昼前、そして今帰ってきて夜……深夜に片足を突っ込んでいるくらいの時間帯だ。要は半日くらい経っているということである。
その時間全てを使ってトキは暴食の限りを尽くしていた、ということだろうか。
「ずっとお腹空いたって言うから仕方なく飯を与えていただけだ。そしたら止まることなく今まで……」
そこは途中で止めろよ。と思ったが、城には無限ともいえるくらいの食料が集まっており問題は無いと判断したのだろう。相手が暴食獣だということを知らずに。
「……トキはな。与えた飯は全て食べちまう偉い子なんだよ」
「限度があるだろ」
「ないんだよ。コイツには」
トキの胃袋がどうなっているのか調べたい。中にブラックホールでもあるんじゃないだろうか。それくらいコイツはよく食べる。
「……次からは気をつけてくれ」
「まず預けるな」
「それは約束できん」
クエストに行くときはトキを放置しないといけないが、こいつのみで留守番させるのは流石に危険だ。
エルフとはいえまだ幼い。それに魔法もまだ覚えていないんだ。できるなら信頼できる誰かに預けたい。
「サントール。お城のご飯美味しかったよ」
「そうか。それは良かったな。また行きたいか?」
「うんっ!」
ご機嫌なトキの頭を撫でながら、俺はニヤリと笑みを浮かべてトワの方を見た。すると最も信頼できる我が友人は頭を抱えながらはぁ……と大きな溜息を吐くのだった。




