さよならは言わないよ
白い花の香り
葬式を終え、
遼とほのかは式場の外へ出た。
白い花の香りがまだ鼻に残っている。
胸の奥は重く、空気は冷たく、
世界の色が少し薄く見えた。
遼はゆっくりと外に出て、
曇り空を見上げた。
その瞬間――
ふわり、と風が吹いた。
強くもなく、弱くもなく。
ただ、優しく遼の頬を撫でるような風。
遼「……風見さん……?」
ほのかは驚いたように遼を見た。
ほのか「遼……?」
遼は風の中で目を閉じた。
胸の奥が熱くなる。
(……この風……
風見さんの走りの時と同じだ……)
深夜の工業地帯で、
風見の背中にしがみついて走ったあの夜。
大会前夜、GARAGEで聞いた風見の声。
“風を掴んでくる”
風見が最後に遼へ言った言葉が、
風と一緒に胸に蘇った。
遼「……風見さん……
まだ……走ってんだな……」
ほのかは遼の横顔を見て、
そっと手を握った。
ほのか「遼……
風見さん、きっと……見てるよ」
遼はゆっくりと息を吸った。
風が胸の奥まで入ってくる。
そして――
遼の中で、何かが“決まった”。
遼「……俺、決めた」
ほのか「……え?」
遼「俺……
風見さんの夢、継ぐ」
ほのか「夢……?」
遼「オートレーサーになる。
風見さんが諦めた夢……
俺が叶える」
ほのかは目を見開いた。
でもすぐに、
涙をこらえながら微笑んだ。
ほのか「……遼なら、できるよ」
遼は曇り空を見上げた。
風がまた吹いた。
遼「風見さん……
俺、走るよ。
風……掴みに行く」
風は答えるように、
遼の頬をもう一度撫でた。
それはまるで――
風見が「行け」と背中を押してくれたようだった。
ーお前なら大丈夫だよ。風を掴んでこいー
まだ……走ってんだな……




