一瞬
最終コーナー手前
曇り空の筑波。
湿った風がサーキットを抜けていく。
遼は風見の走りを見つめていた。
胸がざわつく。
最終コーナー手前。
風見の身体の動きが、
ほんの少しだけ遅れた。
遼「……?」
倒し込みのタイミングが、
前見た風見じゃない。
(心臓……?
発作……?)
遼の心臓が跳ねた。
風見のZX-6Rがわずかに揺れる。
タイヤが路面を掴み損ねたような、
ほんの小さな乱れ。
遼「……風見さん……!」
風見は立て直した。
いつものように。
前回見た、あの“戻す動き”。
でも――
その瞬間だった。
遼の視界の奥で、
前走者のバイクがスリップし横に流れた。
遼「危ない!!」
風見は避けようとした。
でも、
発作で遅れた“半拍”が、
そのまま致命的な距離になった。
遼「風見さん!!」
音が消えた。
サーキットの喧騒が全部消えた。
風見のZX-6Rが跳ね上がる。
風見の身体が宙に浮く。
遼「……っ……!」
風見が空に投げ出される。
灰色の空を背景に、
ゆっくりと回転しながら。
遼の心臓が握り潰されるように痛んだ。
(嘘だ……
嘘だろ……
風見さん……)
風見の身体が落ちていく。
地面へ――強く叩かれた
遼は叫んだ。
声にならない声で。
マーシャルが走る。
救護スタッフが駆け寄る。
観客のざわめきが止まる。
遼は風見に駆けつけようと走り寄るが
スタッフに止められた。
遼「離せ!!
風見さんが……!!
風見さんが……!!」
声が震えている。
足も震えている。
世界が揺れている。
遼「風見さんー!!」
曇り空が、
さっきよりずっと暗く見えた。
遼の胸の奥で、
何かが“音を立てて”崩れた。
雨がぽつりぽつりと降りだした…
湿った風がサーキットを抜けていく。




