レース前
前線
筑波サーキットのピットロードは、
朝の曇り空の下で独特の緊張感に包まれていた。
エンジン音が遠くで唸り、
タイヤウォーマーの機械音が低く響く。
遼は歩きながら、
胸の奥がじわじわ熱くなるのを感じていた。
(……風見さん、どこだ)
ピット番号を確認しながら進むと、
その奥で――
黒×青のレーシングスーツを着た風見が、ZX-6Rの横に立っていた。
ヘルメットはまだかぶっていない。
髪を後ろに撫でつけ、
真剣な目でバイクを見つめている。
その横顔は、
昨日までの風見とは違う。
“走る人間の顔”だった。
遼は思わず足を止めた。
(……風見さん、完全に戦う顔してる)
その瞬間――
風見がゆっくりと顔を上げた。
遼と目が合う。
そして、
緊張で固まっていた風見の表情が、
ふっと柔らかくなった。
風見「……来たか。最終調整もさっき終わった…」
遼「……ああ」
風見はほんの少しだけ笑った。
その笑顔は、
緊張と、安心と、覚悟が混ざった笑顔だった。
風見「遼が来ると……
なんか落ち着くんだよな」
遼「……緊張してんのか?」
風見「してるよ。
大会は何回出ても慣れねぇ」
遼「……でも顔はいつも通りだな」
風見「そりゃそうだ。
お前に弱いとこ見せたくねぇし」
遼「……昨日倒れたくせに」
風見「それ言うなよ。
今日は走る日なんだから」
風見はZX-6Rのタンクを軽く叩いた。
風見「遼が仕上げたバイクだ。
絶対に走れる」
遼「……風見さん」
風見は遼の肩を軽く叩いた。
風見「見てろよ。
風、掴んでくるから」
遼は強く頷いた。
遼「……絶対見てる」
曇り空の下、
二人の間に静かな熱が流れていた。
風見はヘルメットを手に取り、
深く息を吸った。
その背中は――
今日、戦いに向かう男の背中だった。
緊張が伝わる




