深夜の工業地帯
アクセルワーク
土曜日。
店を閉めて、佐伯店長が帰ったあと。
GARAGEには風見と遼だけが残っていた。
風見はMT-09のキーを指で回しながら、
遼をじっと見た。
風見「遼。
今日は“お前が運転する番”だ」
遼「……は? 俺、大型二輪の免許はねぇぞ」※原付の免許はあります。
風見「知ってるよ。だから深夜にやるんだよ。
人も車もいねぇ。
誰にも見られねぇ」
遼「……いやいやいや……
それ、完全にアウトだろ……」
風見「しょうがねぇだろ笑」
時間もねぇしな…
遼は心臓が跳ねた。
風見の目は、サーキットで走る前の“戦う目”だった。
MT-09を押して、
GARAGE裏の人気のない工業地帯へ。
風見「ここなら誰も来ねぇ。
遼、乗れ」
遼「……マジで言ってんの?」
風見「マジだ。
お前、走りたいんだろ?」
遼「……まぁ、ちょっとな」
風見「ちょっとじゃねぇよ。
お前の目、完全に走りたい目してる」
遼「……うるせぇよ」
風見は笑いながら、
MT-09のシートを叩いた。
風見「ほら、跨れ。てか原付は乗ってんだろ?」
遼「マニュアル車はちょっとだけ…」
風見「なに乗った?」
遼「エイプ50なら…」
風見「なら基本的な操作はいけるな」
遼はゆっくり跨った。
初めて大型に触る“自分が操るバイク”の重さに、
手が震えた。
風見は遼の背中に手を置き、
クラッチレバーに遼の指を誘導した。
風見「まずはクラッチ。
ここが走りの全部だ」
遼「……緊張で手汗やべぇんだけど」
風見「いいじゃねぇか。
初めての走りは誰でも震える」
遼「風見さんの手、近すぎだろ……」
風見「お前が下手だから近くで見てんだよ」
遼「うるせぇよ!」
風見は笑った。
風見「じゃあ、かけろ」
遼「……いくぞ……」
キュルル……バァァァァン!!
遼「っ……!!
自分でかけると……なんか……違う……!」
風見「そうだ。
“自分のバイク”みたいに感じるだろ?」
遼「……ちょっとな」
風見「じゃあクラッチゆっくり離せ。
アクセルはほんの少しだ」
遼「……こ、こうか……?」
風見「そうだ。
遼、行け」
MT-09がゆっくり前に進む。
遼「……動いた……!
俺が……動かしてる……!」
風見「遼、前見ろ。
走りは“景色を追う”んじゃねぇ。
風を掴むんだ」
遼「意味わかんねぇよ!!」
風見「そのうち分かる。
ほら、もう少しアクセル開けろ」
遼「え、ちょっと怖い――」
風見「怖いなら開けろ。
怖さはアクセルで消すんだよ」
遼「意味わかんねぇよ!!」
風見「走りは全部意味わかんねぇんだよ。
でも気持ちいいだろ?」
遼「……気持ちいい……!」
ドォォォォン!!
MT-09が加速する。
遼の身体が後ろに引っ張られる。
遼「っ……!!
やべぇ……!!
これ……気持ちよすぎる……!!」
風見「それが走りだ。
忘れんなよ、この感覚」
遼「……忘れねぇよ……!」
深夜の工業地帯で、
遼は風見に導かれて“走りの世界”に足を踏み入れた。
“走りの世界”に足を踏み入れた。




