GARAGE
学校帰り
次の日遼は学校帰りに、自然と MOTO GARAGEに足が向いていた。
店のシャッターは半分開いていて、
奥では風見がMT-09のチェーンを磨いていた。
風見「来ると思った」
遼「……別に、暇だっただけだし」
風見「嘘つけ。
走りたい顔してるぞ」
遼「……まぁ、ちょっとな」
風見はニヤッと笑い、工具箱を指さした。
風見「よし遼。
走りたいなら“整備”からだ。
バイクは身体みたいなもんだ。
仕組み知らずに走る奴は伸びねぇ」
遼「……教えてくれよ」
風見「まずはチェーン。
ここが汚れてると走りが全部重くなる」
遼「こんなに汚れるんだな……」
風見「走るほど汚れる。
人間の心と同じだ」
遼「例えがキモいんだよ」
風見「慣れろ。俺の口癖だ」
遼はブラシでチェーンを擦りながら、
金属の匂いと油の感触を覚えていった。
風見「力入れすぎんな。
チェーンは“優しく速く”だ」
遼「……走りと同じだな」
風見「そういうことだ」
風見「オイルは血液だ。
汚れたら走りが死ぬ」
遼「血液って言うなよ……」
風見「じゃあ魂だ」
遼「もっと意味わかんねぇよ」
風見は笑いながらドレンボルトを外し、
黒いオイルが流れ出すのを見せた。
遼「……こんなに汚れるんだ」
風見「走るほど汚れる。
でも交換すればまた走れる。
人間も同じだ」
遼「またそれかよ」
風見「俺は一生言うぞ」
遼はオイルの匂いを嗅ぎながら、
バイクが“生き物”みたいに思えてきた。
風見「タイヤは命。
ここがダメなら全部ダメだ」
遼「……これ、減り方で走り方分かるのか?」
風見「分かる。
倒し込みが強い奴は端が削れる。
直線番長は真ん中だけ減る」
遼「へぇ……」
風見「お前はまだ“真ん中だけ減るタイプ”だな」
遼「うるせぇよ」
風見「そのうち端まで使えるようになる。
走りを覚えればな」
遼の胸が熱くなる。
風見「オートレースはクラッチ命だ。
だからレバーの遊びは絶対に気にしろ」
遼「遊びってこんなに大事なんだな」
風見「大事どころか“人生”だ」
遼「またそれかよ」
風見「クラッチの遊びが合わないと、
スタートで負ける。
人生も同じだ。
タイミングがズレたら全部ズレる」
遼「……それは分かる気がする」
風見は遼の手を取り、
クラッチの感触を教えた。
風見「ほら、ここ。
この“繋がる瞬間”を覚えろ」
遼「……これが……スタートの感覚か」
風見「そうだ。
走りたいなら、まずはここを理解しろ」
遼(心の中)
(……バイクって、こんなに奥深いんだな)
(走るだけじゃなくて、
整備も含めて“走り”なんだ……)
風見は遼の表情を見てニヤッとした。
風見「遼。
お前、整備の才能あるぞ」
遼「……マジで?」
風見「マジだ。
手の使い方がいい。
感覚がいい。
“走りたい奴の手”してる」
遼「……なんだよそれ」
風見「褒めてんだよ」
遼は照れくさそうに笑った。
風見は全部を丁寧に教えた。
遼は簡単な整備は全部を吸収した。
遼の“走りたい”という気持ちは、
整備を覚えるたびに強くなっていった。
チェーン




