二人乗り
MT-09
バイト終わりの夕暮れ。
ピザ屋の裏口でヘルメットを外していると、
店の前に低いエンジン音が響いた。
ドゥルルルル……ッ
遼が振り向くと、
黒い大型ネイキッドがゆっくりと停まった。
YAMAHA MT-09。
黒とオレンジのボディ。
獣みたいなヘッドライト。
アイドリングだけで胸に響く鼓動。
風見「よぉ遼。
今日は“特別授業”だ」
遼「……そのバイク、風見さんの?」
風見「そう。俺の相棒、MT-09。
乗りたくなるだろ?」
遼「……正直、ちょっとビビる」
風見は笑ってヘルメットを二つ掲げた。
風見「川口オート連れてく。
本物の“風を掴む走り”を見せてやる」
遼「……は? いきなり?」
風見「いきなりじゃねぇと、風は掴めねぇんだよ」
遼は恐る恐る後ろに跨った。
シートは高く、
エンジンの振動が太ももから伝わってくる。
遼「……これ、マジで大丈夫か?」
風見「大丈夫じゃねぇよ。
“最高”なんだよ」
遼「意味わかんねぇよ」
風見「分かるようになる。
しっかり掴まれよ。
MT-09は原付みたいに優しくねぇからな」
風見がキーを回す。
バァァァァン!!
遼「っ……!!」
原付とは比べ物にならない爆発音。
胸が震える。
背骨が震える。
風見「行くぞ遼。
風を掴みに行く」
アクセルが開く。
ドガァァァァァッ!!
遼「っ……!!!!!」
身体が後ろに引きちぎられそうになる。
風が顔に叩きつけられる。
景色が一瞬で流れ、
街の光が線になっていく。
遼(心の中)
(……速ぇ……!
これ……バイクってレベルじゃねぇ……!)
風見「どうだ遼!
これが“風を掴む”ってやつだ!」
遼「……すげぇ……!!」
風見「まだまだこんなもんじゃねぇぞ。
本物はこれからだ」
MT-09が止まったのは、
巨大な照明とスタンドがそびえる場所。
川口オートレース場。
遼は思わず息を呑んだ。
遼「……でけぇ……」
風見「ここが俺の夢の場所。
そして――
お前の未来になるかもしれねぇ場所だ」
遼「……未来?」
風見「そうだよ。
お前の目、完全に“走りたい”目してる」
遼は否定できなかった。
風見「俺はここを走りたかった。
でも心臓の持病で無理だった」
遼「……」
風見「だから今はサーキットで走ってる。
“本気じゃない走り”なら問題ねぇからな」
遼「……風見さん、悔しくねぇの?」
風見「悔しいよ。
でもな――」
風見はコースを見つめた。
風見「夢を諦めたわけじゃねぇ。
風を掴むってのは、
どこでもできるからな」
遼の胸が熱くなる。
ちょうどその時、
練習走行のエンジン音が響いた。
ドォォォォォン!!
遼「……っ!!」
バイクがコーナーを倒し込み、
黒い影が風を切って走り抜ける。
遼の目が、
その瞬間だけ大きく開いた。
遼(心の中)
(……これが……“走り”……)
風見「なぁ遼。
今の見て、どう思った?」
遼「……俺……」
風見「言えよ」
遼「……走りたい」
風見は満足そうに笑った。
風見「だろ?
お前は今日、風を掴んだんだよ」
三気筒




