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風を追う — オートレーサーを目指す少年  作者: sasaki


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49/50

二人乗り

MT-09

バイト終わりの夕暮れ。

ピザ屋の裏口でヘルメットを外していると、

店の前に低いエンジン音が響いた。

ドゥルルルル……ッ

遼が振り向くと、

黒い大型ネイキッドがゆっくりと停まった。

YAMAHA MT-09。

黒とオレンジのボディ。

獣みたいなヘッドライト。

アイドリングだけで胸に響く鼓動。

風見「よぉ遼。

今日は“特別授業”だ」

遼「……そのバイク、風見さんの?」

風見「そう。俺の相棒、MT-09。

乗りたくなるだろ?」

遼「……正直、ちょっとビビる」

風見は笑ってヘルメットを二つ掲げた。

風見「川口オート連れてく。

本物の“風を掴む走り”を見せてやる」

遼「……は? いきなり?」

風見「いきなりじゃねぇと、風は掴めねぇんだよ」

遼は恐る恐る後ろに跨った。

シートは高く、

エンジンの振動が太ももから伝わってくる。

遼「……これ、マジで大丈夫か?」

風見「大丈夫じゃねぇよ。

“最高”なんだよ」

遼「意味わかんねぇよ」

風見「分かるようになる。

しっかり掴まれよ。

MT-09は原付みたいに優しくねぇからな」

風見がキーを回す。

バァァァァン!!

遼「っ……!!」

原付とは比べ物にならない爆発音。

胸が震える。

背骨が震える。

風見「行くぞ遼。

風を掴みに行く」

アクセルが開く。

ドガァァァァァッ!!

遼「っ……!!!!!」

身体が後ろに引きちぎられそうになる。

風が顔に叩きつけられる。

景色が一瞬で流れ、

街の光が線になっていく。

遼(心の中)

(……速ぇ……!

これ……バイクってレベルじゃねぇ……!)

風見「どうだ遼!

これが“風を掴む”ってやつだ!」

遼「……すげぇ……!!」

風見「まだまだこんなもんじゃねぇぞ。

本物はこれからだ」

MT-09が止まったのは、

巨大な照明とスタンドがそびえる場所。

川口オートレース場。

遼は思わず息を呑んだ。

遼「……でけぇ……」

風見「ここが俺の夢の場所。

そして――

お前の未来になるかもしれねぇ場所だ」

遼「……未来?」

風見「そうだよ。

お前の目、完全に“走りたい”目してる」

遼は否定できなかった。

風見「俺はここを走りたかった。

でも心臓の持病で無理だった」

遼「……」

風見「だから今はサーキットで走ってる。

“本気じゃない走り”なら問題ねぇからな」

遼「……風見さん、悔しくねぇの?」

風見「悔しいよ。

でもな――」

風見はコースを見つめた。

風見「夢を諦めたわけじゃねぇ。

風を掴むってのは、

どこでもできるからな」

遼の胸が熱くなる。

ちょうどその時、

練習走行のエンジン音が響いた。

ドォォォォォン!!

遼「……っ!!」

バイクがコーナーを倒し込み、

黒い影が風を切って走り抜ける。

遼の目が、

その瞬間だけ大きく開いた。

遼(心の中)

(……これが……“走り”……)

風見「なぁ遼。

今の見て、どう思った?」

遼「……俺……」

風見「言えよ」

遼「……走りたい」

風見は満足そうに笑った。

風見「だろ?

お前は今日、風を掴んだんだよ」


三気筒

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