風をつかんだか?
レーサー
ピザ屋のバイトを始めて数週間。
遼は配達のたびに、
風を切る感覚に少しずつ魅了されていった。
そんなある日の夕方。
雨上がりの道路を原付で走っていた遼は、
ふと視界の端に“それ”を見つけた。
店名は 「MOTO GARAGE 」
シャッターは半分開いていて、
店先には数台の中古バイクが並んでいる。
遼は無意識に原付を止めた。
遼(心の中)
(……なんだ、この店。雰囲気が違う)
店の奥には、
黒いレーサータイプのバイクが一台。
夕陽を浴びて、
まるで“呼んでいる”ように輝いていた。
遼は吸い寄せられるように近づいた。
遼「……かっけぇ……」
その瞬間――
背後から声がした。
――「お、風をつかんだか?」――
振り返ると、
作業着姿の青年が立っていた。
年齢は22歳くらい。
髪は少し伸び気味で、
どこか飄々とした雰囲気。
青年「その顔、完全に“風を掴んだ”顔だな」
遼「……は? 何それ」
青年「俺の口癖。
バイクに惹かれた瞬間のことを、
“風を掴む”って言うんだよ」
遼「……変な口癖」
青年「だろ? でも当たってるだろ?」
遼は否定できなかった。
風見「俺、風見。
この店でバイトしてるフリーター」
遼「……フリーター?」
風見「そう。
元々オートレーサー目指してたんだけどな」
遼「……え?」
風見は笑って肩をすくめた。
風見「心臓に持病があってさ。
受験資格が通らなかった。
だから今はサーキットで走ってる。
“本気じゃない走り”なら問題ないからな」
遼「……そうなんだ」
風見「でもよ、夢は諦めてねぇよ。
“風を掴んで走る”ってのは、
どこでもできるからな」
遼はその言葉に、
胸が少し熱くなるのを感じた。
風見「お前、バイク好きになるタイプだな」
遼「……なんで分かるんだよ」
風見「目がいい。
バイク見た時の目が、俺と同じだった」
遼「……」
風見「興味あるなら、触ってみるか?」
遼「えっ……いいのか?」
風見「いいよ。
バイクは“触った瞬間”に人生変わるからな」
遼はゆっくりと、
黒いレーサータイプのバイクに手を伸ばした。
金属の冷たさと、
どこか生き物のような存在感。
遼(心の中)
(……すげぇ)
風見は満足そうに笑った。
風見「ほらな。
風、掴んだだろ?」
遼は何も言えなかった。
ただ、胸の奥が熱くてたまらなかった。
遼はまだ知らない。
この出会いが、
自分の未来を大きく動かすことを。
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