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風を追う — オートレーサーを目指す少年  作者: sasaki


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30/50

女子プロ

本物

スタート地点では、玲奈が遼とまどかを前に

にっこり笑っていた。

……が、その笑顔はどこか“危険な香り”がした。

まどか(心の中)

(れ、玲奈さん……優しそうだけど……なんか怖い……)

遼(心の中)

(この人……絶対ヤバいタイプだ……)

玲奈は手を叩き、明るく言った。

「よーし!

じゃあ二人には、今日から“スタートの基礎”を叩き込むよ!」

遼とまどかは同時に背筋を伸ばす。

玲奈「まずね――

君たちのスタート、遅い!」

遼「ぐはっ!」

まどか「ひゃっ……!」

玲奈は笑顔のまま続ける。

「でも大丈夫。

遅いってことは、伸びしろがあるってことだから!」

遼(心の中)

(ポジティブなんだかネガティブなんだか分かんねぇ……)

玲奈は遼とまどかをコース脇に呼び寄せた。

「二人とも、スタートは良くなってきたね。

じゃあ“走行そのもの”を教えるよ。」

その声は明るいのに、

内容は完全にプロのそれだった。

遼とまどかは自然と姿勢を正す。

玲奈は二人の前に立ち、

手でまっすぐなラインを描くように動かした。

「直線はね、

アクセル全開で走る場所じゃないの。」

遼「えっ……?」

まどか「全開じゃ……ないんですか……?」

玲奈は笑って首を振る。

「全開に“する瞬間”が大事なの。

ただ開ければいいわけじゃない。」

そして、玲奈は遼の肩を軽く叩く。

「遼くんは開けるのが早すぎる。

マシンが暴れてるのに無理やり開けてるから、

次のコーナーで“余計に戻す”ことになる。」

遼「……図星です。」

まどかは小さく笑ってしまう。

玲奈は続ける。

「直線はね、

マシンが“まっすぐ走りたがってる瞬間”に開ける。

そのタイミングを感じるのが大事。」

遼は真剣に頷いた。

玲奈はまどかのマシンの横にしゃがみ込む。

「まどかちゃん、

コーナー入る前にアクセル全部戻してるでしょ?」

まどか「は、はい……怖くて……」

玲奈は優しく微笑む。

「怖いのは普通だよ。

でもね、全部戻すとマシンが不安定になるの。」

遼も横で頷く。

「俺もそれ言われた。」

玲奈は指で“ほんの少し”の幅を示す。

「アクセルはね、

1割だけ残すの。

その“残した回転”が倒し込みを安定させる。」

まどかは目を丸くする。

「……そんな少しで変わるんですか?」

玲奈「変わるよ。

むしろ、その少しが命取りになる世界なの。」

遼(心の中)

(……この人、やっぱり本物だ)

玲奈はコーナーの入口に立ち、

二人に手招きする。

「倒すときにね、

“倒そう”って思うと身体が固まるの。」

遼「分かります……」

まどか「私、まさにそれです……」

玲奈は笑って言う。

「倒し込みは“流れ”でやるの。

アクセルを残したまま、

身体を“置いていく”ように倒す。

力で倒すんじゃない。」

遼とまどかは同時に息を呑む。

玲奈「倒す位置は黒瀬さんが言った通り。

でも倒し方は――

力じゃなくて、流れ。

これを覚えると一気に安定するよ。」

まどかは胸が高鳴る。

(……私でもできるかもしれない)

玲奈はコーナー出口に移動し、

二人に向き直る。

「立ち上がりでアクセル開けるの、

怖いよね?」

まどか「こ、怖いです……!」

遼「俺もまだ怖いです……」

玲奈は優しく頷く。

「怖いのは、

倒し込みの準備ができてないから。

準備ができてれば、自然に開けられる。」

遼(心の中)

(……黒瀬さんと同じこと言ってる)

まどか(心の中)

(……準備……)

玲奈「だからね、

立ち上がりは“勇気”じゃなくて“準備”。

準備ができてれば、勝手に開けられるの。」

二人は深く頷いた。

玲奈は二人の肩に手を置いた。

「遼くんは“開けるタイミング”。

まどかちゃんは“アクセルの残し方”。

この二つが変われば、

二人とも一気に走りが変わる。」

遼「……やってみます。」

まどか「私も……頑張ります!」

玲奈は満足そうに笑った。

「よし、じゃあ次は実際に走ってみよう。

私が後ろから見てるから!」

遼とまどかは顔を見合わせ、

自然と笑みがこぼれた。

(……怖いけど、楽しみだ)

二人の胸には、

新しい走りへの期待が静かに灯っていた。



心構え

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