エリート同士
静かに
コース脇。
黒瀬隼人は、颯斗とひかりの前に立っていた。
無駄のない姿勢。
鋭い目。
言葉は少ないのに、圧がすごい。
颯斗もひかりも、自然と背筋が伸びる。
黒瀬「……お前らのコーナー、
“倒してるだけ”だ。」
颯斗「……っ」
ひかり「……どういう意味ですか」
黒瀬は二人を見渡し、淡々と続ける。
黒瀬「倒すのは誰でもできる。
問題は――“どこで倒すか”だ。」
その言葉に、二人の表情が変わった。
黒瀬はマシンに跨り、
エンジンをかける。
音は静か。
無駄な吹かしが一切ない。
そして――
コーナーへ向かって走り出した。
颯斗とひかりは息を呑む。
倒し込みが、
異常に早い。
ラインが、
異常に深い。
そして立ち上がりが、
異常に速い。
颯斗(心の中)
(……速い。
いや、“速い”じゃない。
正確すぎる……!)
ひかり(心の中)
(……ラインがブレない。
全部計算されてる……)
黒瀬は戻ってくると、
二人に向かって言った。
黒瀬「見たか。
倒すのは“ここ”だ。」
黒瀬はコーナーの入口を指差す。
黒瀬「神谷。」
颯斗「はい。」
黒瀬「お前は倒し込みが遅い。
スピードに頼りすぎだ。
“速さ”じゃなく、“準備”で勝て。」
颯斗は悔しそうに唇を噛む。
黒瀬「白石。」
ひかり「……はい。」
黒瀬「お前は逆だ。
倒すのが早すぎる。
怖さを消すために“先に倒してる”。
それじゃ立ち上がりが遅くなる。」
ひかりの胸に刺さる。
(……見抜かれた)
黒瀬は二人をコーナーへ連れていき、
ラインを指でなぞるように説明する。
黒瀬「コーナーは三つで決まる。」
- ① 入る前の準備
倒す位置を決める。迷わない。
- ② 倒す角度
深く倒すんじゃない。
“必要なだけ”倒す。
- ③ 立ち上がりの姿勢
ここで勝負が決まる。
速い奴はここが速い。
颯斗とひかりは真剣に聞き入る。
黒瀬「お前らは入る前が甘い。
だから倒す角度と足り上がりが全部ズレる。」
二人は同時に息を呑んだ。
黒瀬「じゃあ走れ。
俺が後ろから見る。」
颯斗「……後ろから?」
黒瀬「安心しろ。
抜く気はない。」
ひかり「……抜けるんですか?」
黒瀬「簡単だ。」
二人「……っ!」
黒瀬は淡々と続ける。
黒瀬「お前らの“癖”を全部見抜く。
逃げるな。」
颯斗は拳を握る。
(……この人に認められたい)
ひかりは胸が熱くなる。
(……負けたくない)
颯斗が先頭、ひかりが続く。
黒瀬はその後ろを一定の距離で追う。
ミラーがない世界。
だからこそ――
黒瀬の“気配”が背中に刺さる。
颯斗(心の中)
(……黒瀬さんが後ろにいる……
絶対にミスできない)
ひかり(心の中)
(……怖い。でも……逃げない)
コーナーへ入る。
黒瀬の声が飛ぶ。
黒瀬「神谷、遅い!」
颯斗「っ……!」
黒瀬「白石、早い!」
ひかり「……!」
黒瀬「二人とも――
“倒す位置”を変えろ!」
二人は必死に修正する。
黒瀬「そうだ。
そのまま立ち上がれ!」
風が変わる。
音が変わる。
ラインが変わる。
二人の走りが、
少しずつ“本物”に近づいていく。
数周後。
黒瀬は二人を止めた。
黒瀬「……悪くない。」
颯斗は驚いたように顔を上げる。
ひかりも息を呑む。
黒瀬「まだまだだが、
“変わろうとしてる走り”は悪くない。」
二人の胸に、
静かに火が灯った。
灯る




