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風を追う — オートレーサーを目指す少年  作者: sasaki


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13/50

二度目の挑戦

“怖い”

転倒から少し時間が経ち、まどかはまだ膝を震わせながらも、

遼と成瀬に支えられて再びコースへ戻っていった。

夕方の光がコースに伸び、空気は少し冷たくなっている。

榊教官の声が響く。

「桐生、もう一周いけ。

怖いなら怖いままでいい。前に進め。」

まどかは深呼吸し、押しがけを始めた。

エンジンがかかり、マシンが震える。

(……怖い。でも……逃げたくない)

直線は問題ない。

風が頬をかすめ、胸が少しだけ軽くなる。

だが、コーナーが近づくと、心臓が強く跳ねた。

(また転んだら……どうしよう……)

その瞬間、後ろから遼の声が飛ぶ。

「まどか! 大丈夫だ、俺が後ろにいる!」

成瀬の声も続く。

「焦らなくていい! 手前で減速して、ゆっくり倒し込め!」

まどかは唇を噛みしめた。

(……私、一人じゃない)

コース脇で見ていたひかりは、まどかの動きをじっと見つめていた。

(桐生……さっきより、身体が前を向いてる)

ひかりは自分でも気づかないうちに、拳を握っていた。

コーナー手前で、まどかはほんの少しアクセルを戻した。

(ここで……倒し込む……!)

身体を内側へ傾ける。

怖い。

でも、遼の声が背中を押す。

「いける! そのまま!」

成瀬の声も重なる。

「アクセル戻しすぎるな! 少し開けろ!」

まどかは震える手で、ほんの少しだけアクセルを開けた。

――スッ。

マシンが内側へ吸い込まれるように曲がった。

「……っ!」

視界が流れ、風が頬を切る。

(曲がってる……! 私、曲がってる!!)

まどかはコーナーを抜け、直線へ戻った。

胸が熱くなり、目が潤む。

「やった……やった……!」

遼が後ろから叫ぶ。

「まどか! 今の完璧だったぞ!!」

成瀬も笑いながら続く。

「すごいじゃないか! 本当に曲がったぞ!」

コース脇で見ていたひかりは、思わず目を見開いた。

(……嘘。あの子……あんなに怖がってたのに)

ひかりの胸に、複雑な感情が生まれる。

驚き。

悔しさ。

そして――少しだけ、嬉しさ。

(……やるじゃない、桐生)

ひかりはそっと視線を逸らしたが、頬がわずかに緩んでいた。

一周を終えたまどかは、マシンを止めるとヘルメットを脱ぎ、

涙を浮かべながら笑った。

「……できた……私、できました……!」

遼は親指を立てた。

「おう。よく頑張ったな。」

成瀬も肩を叩く。

「桐生ちゃん、今日の主役は君だよ。」

まどかは胸の前で手を握りしめ、震える声で言った。

「……次は……もっと上手くなりたいです。」

その言葉に、ひかりは小さく呟いた。

「……なら、もっと走らなきゃね」

まどかは驚いてひかりを見た。

ひかりはそっぽを向いたまま、ほんの少しだけ微笑んでいた。

まどかが“怖さを越えた瞬間”は、

同期全員にとっても大きな一歩になった。


超えた瞬間

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