イベント内容の談義
「十曲目のシングルの記念イベントのステージが決定しました」
十曲目のシングル発売日当日。
学校の後、各ショップでの発売イベントに向かう途中の車の中で、蓉子さんから聞かされた。
「場所は湾岸屋外ステージ。『ファルモニカ』オンリーのイベントで、会場の規模は三千人ほどを予定しています」
この春先、私たちの中学卒業に合わせて――あくまでも、私たちの主観ではという意味で――行ったライブイベントは、総合体育館が会場で、収容規模は一万人くらい。
ただし、あのときは『ファルモニカ』だけじゃなくて、『LSG』と『iシナジー』も一緒だったし、琴音はいなかった。
今度は、私たち三人だけのオンリーイベントだ。規模としては大きめだと言えるだろう。
「現在のところ、当日の天気の予報も良好ということで、このままであれば、問題なく開催できると思います」
屋外ステージの場合はそれがネックではある。
季節的に今ではない――ことが多い――けど、たとえば、台風が来ました、みたいなことだと、屋外ステージは使えなくなるからね。もっとも、その場合には屋内であっても、観客の人たちが来られないという可能性もあるから、中止という判断になることも十分にありえる。
もしくは、ネット配信? みたいな形にすることもあるかもしれないけど、そのあたりは、運営側の判断だから。
衣装はいつもの――この前の番組でも使用した、『ファルモニカ』のもの。
あくまでも、番組ではなく、私たちのライブだから、水着みたいなことも、途中で衣装が変わることもない。
「いつもよりも会場の規模が大きめですので、その分、グッズの準備もお願いしますね」
グッズの準備とは、つまり、サイン入れのこと。発注なんかは、私たちはやらない。プロデュースグッズみたいなものもないし。
「ちなみに、販売は明日からなので、今日、チケット販売の列ができたりすることはありませんので」
そこはいつもどおりにネット販売のようで安心した。
今日、イベントで売り出すということになると、数量限定です、後ほど正規の手順でネットでも販売されます、みたいな宣伝をしていても、不要な混乱、騒動が起こるだろうから。
ネット販売はネット販売で、買う側の苦労(例えば、接続過多で繋がらないとか)があるだろうけど、そこには関与できないから。
会場のキャパシティは決まっているからね。
倍率がどれほどのものになろうとも、増やすことができない。
一応、当日、立ち見でとかなら、可能かもしれないけど……その判断も、するのは運営の人たちだし。
私たちにできるのは、良いパフォーマンスを披露することと、当日雨が降ったりしないように祈ることだけだ。
「わかりました」
それにしても、いきなり、三千人か。
この間の、『VIVID EDGE』のデビューを兼ねたライブが、千人未満くらいだったから、いきなり、それも、かなり増えたことになる。
たしかに、私たち個人、あるいは、『ファルモニカ』のファンという意味でも、跳ねた、今なお増えているというのは事実ではあるけど、その全員がライブにまで直接参加するとも限らない。
たとえば、一パーセントが参加してくれるとして――それでも大分多いけど――概算で千人くらい。
私と琴音と奏音、三人それぞれのものを合わせるというのなら、たしかに、そのくらいの数になるんだけど。
つまり、ギリギリということ。
「詩音。もしかして、不安?」
奏音が、心なし、楽しそうに聞いてくる。
そんなテンションで切り出す話題じゃないけど、奏音の言いたいことはわかっている。
「まあ、少しはね。さすがに、当日の天気は私個人ではどうしようもないし」
今の私たちなら、そのくらいのチケット、売り捌けないこともない、と胸を張っておく。
常から、アイドルは自信を持つことが大切だって言っているからね。
それは、ステージ上、あるいは、カメラの前での自分のパフォーマンスにという意味だけど、自分たちの人気についても、気にしていても仕方ないからね。
それよりは、レッスンをして、パフォーマンスのクオリティを上げることを目標にしたほうが良い。
言霊ということもあるし、口にしておけば、達成できるかもしれない。
もちろん、SNSで告知したりもするけど。
「あと、腱鞘炎とかも」
「あははっ」
グッズへのサインの入れすぎで腱鞘炎になったということなら、それはむしろ、勲章のような気もするけど……段取りや効率が悪いとも言えるかな。
それだけの数、捌くことができるだろうと上が判断してくれた、つまり、それだけ期待されているということだから。
実際には、そこまでしてしまうとパフォーマンスに影響が出るから、やらないけど。
「まあ、サインは、スタンプとかプリントよりも手書きのほうが、味があっていいよね」
奏音も頷いて。
実際は、プリントも多いけどね。
とはいえ、直筆サイン入り、となっていると、箔がついた感じがすることはたしか。
「曲は、全部やるということはないわよね?」
琴音がわずかに眉を寄せる。
「『ここにいる理由』はやるとして、絞ったほうが良いと思う」
今、私たち『ファルモニカ』だけでの曲という意味では、十曲。それを記念してのイベントなんだから、当然だけど。
イベント全体の時間は、一時間半から二時間くらいといったところだから、やろうと思えば、全部披露することは可能ではあるとはいえ、間にMCを挟んだり、ライブ以外のイベントもあったり、実際に披露できるのは数曲程度だろうから。
「夏っぽいのがいいんじゃない?」
とは、奏音の意見。
夏っぽい曲、ね。
さすがに、十曲目のシングルリリースを記念してのイベントなのに、新しく、夏っぽさ全開の曲を発表します、というのは無理だから。
「『全力ドリーマー』、『Sparkling days』、『スマイル予報は百パーセント』は夏らしいわよね」
「そうだね」
琴音の挙げた曲は、たしかに、夏らしさを感じさせられるとは思う。春も若干、入っているとは思うけど。
そういうことで、セトリはその四曲に決定。
順番は、まあ、リリースした順で良いだろうね。『ここにいる理由』を最後に持ってくる感じ。
「それで、ステージ以外のイベントだけど」
定番なら、トークとか、握手、サイン、撮影、そんなところだけど。
「トークよりは、特典会のほうに時間をかけたほうが良いんじゃないかと思うんだけど、二人はどう?」
なんだったら、トークはMCだけで全部済ませるくらいの勢いでもいいと思う。
その分、ライブとか、特典会の時間の時間を多くとったほうが、ファンとしても嬉しいんじゃないかなって。
「詩音がそう言うならそうしよう」
「そうね」
二人はあっさり賛成する。
むしろ、提案した私が驚くくらい。
「……私が提案しておいてあれだけど、本当にそれでいいと思ってるの?」
奏音と琴音は軽く顔を見合わせて。
「だって、詩音だし」
「うちで一番、アイドルのファンだものね」
いいんですか、という確認の気持ちを込めて蓉子さんのほうへ視線を向ければ、問題ありません、といった感じのアイコンタクトが飛ばされてきたと思う。
それなら、それで考えるけど。
「じゃあ、ライブが三十分から四十分くらい、トークが二十分弱くらいで、特典会が一時間、場合によってはもう少し延長、くらいの感覚で」
「いいよ」
「問題ないわ」
一応、私が提案して、スタッフの人たちに確認するという形をとるつもりだけど、この場に蓉子さんがいるから、ほとんどそのまま決定みたいな感じだ。




