3、予想外の連続
黒い空間は狭い。少し歩いていると、すぐに端にぶつかった。
空間が捻れ、気付くと白い空間に戻っている。どういう構造をしているのか、全く分からない。
もしかしたら、この黒い空間自体、神の気まぐれによって造られた意味のないものなのかもしれない。
無数に存在する黒い空間のうち、次のひとつに入ってみる。
そして、そこには何度か会ったことがある知り合いがいた。
赤い髪を流した幼女。――ファイヤードラゴンだ。
ソータは驚き、彼女に尋ねる。
「なぜお前がここにいる?」
「前に会った時、神に会いに行くと言ったはずじゃが……。まぁ、要するに、神はわしの古い友人なのじゃ!」
「っ!? じゃ、じゃあお前は神の居場所を知ってんのか!?」
「あぁ、勿論知っとるぞ。教えてやらんがの」
この段階で、ソータは魔法を使った。
生命魔法。極限まで衰弱させ、神の居場所を聞き出そうとした。
ファイヤードラゴンは復讐対象でないので、わざわざ痛めつける必要はない。
ただ動きを封じ、情報さえ聞き出せれば良いのだ。弱ってさえいれば、拷問のようなことをしなくても、魔法で情報など容易く聞き出せる。
「ふふ、その程度の魔法でわしの動きを封じられると思ったかの? この格好でもドラゴンはドラゴン。生命力は無限に近いのじゃよ」
ソータは歯軋りする。
最初の一撃で自由を奪えなかった。
ファイヤードラゴンの強さは未知数だ。
最初に出会った時、確かに殺したはずだったのに、生きていた。
しかも、神と友達。ブラックは、明らかに前よりも強くなっていた。ファイヤードラゴンも、神と関わることにより、何らかの力を得ている可能性が高い。
このファイヤードラゴンが本気を出したら、ソータでさえ太刀打ち出来るかわからない。
「で、お前はどうするんだ? 俺を殺すのか?」
「殺す? とんでもない。神にはお主を生きたまま捕らえろと言われておるからのう」
「は? どういうことだ?」
「さぁ? どういうことじゃろう……なっ!」
語尾を強め、魔法を放ってくる。
手から放たれる火魔法。そう聞くと可愛らしい弾を思い浮かべるかもしれないが、実際はそんな生ぬるいものではない。
ソータの体を覆い尽くせるほどの、巨大な殺戮の嵐。そんなのがいくつも、絶え間なく放たれる。
素早く反応して、右に避ける。しかし、あろうことか炎の弾は方向を変え、真っ直ぐにソータの方に向かってくる。
さらに右、左、上と、何度もフェイントをかけながら何とか避けようとするも、振り切れる様子はない。
ソータは咄嗟に転移魔法を使う。
そして転移先に弾が追いついてくる僅かの間を使って、強力な弾を打ち破れる強力な魔法を練る。
「はぁっ!」
気合いの声とともに放たれた魔法は、ソータの狙い通りに炎を消し去る。
「ほぉ、なかなかやるようじゃな……。では、これならどうじゃ?」
さらなる魔力を込めたのを、ソータは感じた。恐らく、さっきの魔法よりもさらに強力なもの、あるいは厄介なものがくる。
ソータは予め避ける準備をしておくことにした。ソータの手にも、魔力が込められる。
――ファイヤードラゴンが、笑った。
放たれるのは、相手の魔力を掻き乱して暴走させる魔法。こんな魔法、ソータは見たことがなかった。
咄嗟のことにソータはこれを制御することができず――爆発する寸前、ファイヤードラゴンの背後に転移した。
手をファイヤードラゴンの胸の位置に回す。
爆発が起きた。
あらゆる音が消え去り、その直後でソータの耳を轟音が叩く。
煙が撒き散らされ、視界を隠す。
そして、煙が晴れた時、そこに立っていたのはソータ一人だけだった。
ソータは、爆発と同時に、自分に叩き付けられる衝撃を、炎を、光を、全てエネルギーに変換したのだ。
とはいえ、爆発が起きた腕は無事ではなく、右肘から先が跡形もなく消えている。それより上も焼け爛れた跡は残っている。
それに対して、ファイヤードラゴンは予想外の反撃に、何の手も打てなかった。胸――心臓の真上で起きた衝撃に耐えられるはずもなく、その場から姿を消したのだ。
ソータは安堵し、すぐに失態に気付く。
殺さずに情報を聞き出す予定だったファイヤードラゴンを、跡形もなく消し去ってしまった。
このままだと、聞けるはずだった情報を何も得られなくなってしまう。
やってしまったものはしょうがない。そうでもしないと倒せない相手だった。
ソータはそうやって自分を慰めるが、納得出来ようはずもない。
「くそっ……」
この先、どう立ち回れば良いのかわからない。
黒い空間を徹底的に調べるのか、別の黒い空間に行ってみるのか、あるいは先程までのように白い空間を歩き続けるのか。
ソータは頭を悩ませて、最初に白い空間を歩き続けるという案を却下した。あれは苦痛だ。意味もなく歩き続ける意味がない。
とりあえずは黒い空間を調べようと決断した時――黒の中に圧倒的な金を見た。
「は、はぁ……?」
唐突に現れた金色の光に、ソータの理解は追い付かない。
『ふふふ……。ようやくここまで来たか……』
頭の中に、直接言葉が滑り込んでくる。
こんな経験は、覚えている限り今までに一回しかない。
ソータの理解が追い付いていなかった頭は、一瞬にして悟った。
――すなわち、これが神なのだと。
次回は一週間以内に投稿します。




