2、復讐の再開は再会に嗤う
白い空間を抜け出して、黒い空間にようやく辿り着いた。
一時は挫けかけていたが、移動の成功による安堵と、移動時の強制的な意識の切断によって、ソータの心は一旦落ち着いていた。
ようやく訪れた心の平和。
ソータは落ち着きをそのままに、周りを見渡してみる。
目に映るのは、ひたすらに黒。黒以外の色など微塵も見当たらない。
ここから白い空間に戻るにはどうすれば良いのかと悩み、それは意味のない悩みだと思い直す。折角神に近付くことが出来たのだから、わざわざ自ら遠のくこともない。
今はとにかく、復讐を前に進めることだけを考える。
「はぁー……」
全力でリラックスする。
復讐はまだ終わっていないし、助けるべき少女を助け終えたわけでもない。
しかし、ここに辿り着くまでに、復讐を始めてからはあまり溜まることのなかったストレスが再び溜まってしまった。
少しくらい休んでも良いだろう。
ソータは、そんな風に考える自身の心理が明らかに以前とは違っていることに気付く。それがどんな変化かはわからなかったけれども。
どちらにせよ、今考えることではないと、ソータは思考を振り払い――
――気配を感じた。
唐突に現れた一つの気配に、ソータは咄嗟に魔法を放つ。
しかし、その魔法はあっさりと霧散してしまう。
命の危機を感じたこともあり、ソータはそこそこ以上の強さで魔法を放った。
それをあっさりと霧散させる力の持ち主。相当の実力者であることが窺える。
当然と言えば当然だ。生半可な力では自力でこんなところに辿り着くことはできないし、かといってそんな人間を神がここにわざわざ立ち入らせることはないだろう。
つまり、ここにいるという事実のみで、強さ、あるいは特異性を示していることになる。
ソータは何者かをキッと睨み付けて、その顔を見た。
「んな……。ブラッ……ク……?」
不意に口から出たのは、疑問だ。
二度とまみえることはないと思っていた存在。
唯一、復讐に失敗した復讐対象。
「まさか……こんなところで出逢えるとは……」
考えてみれば、別におかしいことではない。
元々ソータを異世界に転生させたのも神だ。ここはその時に居た場所だ
神が幾度も同じことをするのは当たり前だし、その対象が強い力を持つブラックだったとしてもおかしくはない。
ソータの口元がグニャリと歪む。
ソータは《勇者》ブラックとの再会を、彼への復讐を再開できることを、心から喜んだ。
ソータの力は相変わらず圧倒的だ。むしろ、多くのエネルギーを吸収したお陰で手札は増えている。
ブラックの力が過去と変わらないのだとすれば、ソータは復讐する余力を十分に残しながらブラックを捕らえることができるはずだ。
二人は睨み合う。
先に動いたのはブラックだった。
圧倒的なスピードを持って、ソータとの距離を一瞬でゼロまで縮める。
それと同時に剣を引き抜き、ソータの首元を狙って刃を飛ばす。
「くっ……!」
ソータは、予想外のスピードに驚き、後ろに転がる。
自身が圧倒的な力を持っているという分析をしながらも、ソータは油断をしていなかった。
それなのに、ブラックの刃はあと一歩でソータの首を引き裂いていた。
恐ろしいほどの成長スピード。あるいは、神がブラックに何らかの力を与えたのか。
むしろ、そっちの可能性の方が高そうだ。ブラックの成長が異常すぎる。
しかし、ブラックの攻撃はソータを討ち取るに至らなかった。
全力の一撃が躱されれば、当然、動きに隙ができる。
一閃。その隙を見事について、ソータの一撃がブラックに突き刺さる。
ソータが放ったのは、手刀だ。単なる手刀ではない。手をエネルギーに変換した手刀だ。
その威力は絶大で、切れないものはない。
事実、手刀はブラックの腕を一本奪っていた。
あまりのスピードと、感触のなさ、断面図の美しさに、ソータもブラックも、世界すらも、腕が切られていることに気付くのに一瞬の間があった。
しばらくして、ようやくブラックの右腕が音を立て、血を吹き出しながら取れた。
綺麗に切れた腕から溢れ出る血液が血溜まりとなる。どんどん出てくる血液に、その大きさは急成長していく。
どうやら、圧倒的な力を手に入れても、ブラックはソータに敵わないらしい。
痛みを感じている一瞬を逃さず、ソータはブラックに触れて魔法を使う。使った魔法は生体魔法。体を動かせないようにする。
いくら《勇者》とはいえ、動きを封じられれば何も出来ない。彼の実力は、単なる身体能力によるものなので、ソータの強力な魔法を打ち破ることもできない。
「ふふ……ふはは……」
笑いが零れる。遂に、念願だったブラックへの復讐ができる。
一度は失敗した復讐。喜びは、いつも以上だ。
ソータは、手刀を作り出す。
そして、それをブラックのあちこちに突き刺す。
あえて急所は避けて。腕に、脚に、腹に。
返り血がソータを赤く染めあげる。顔についた血を舌で掬いとる。
甘い。甘かった。復讐の味は、とんでもなく甘かった。
ブラックを見ると、彼は既に虚ろな目をしていた。腹が小刻みに揺れているので、死んではいないはずだ。
ならば、まだ痛みを感じられるだろうと、今度は左腕を切り落とす。根元からではない。手首に近い、先の方だ。
「が……あ……」
そして、また残った左腕の先の方を切り落とす。
細かく、細かく刻んでいく。エネルギーの手刀ならば、苦労せずに切り落とすことができる。
わかりやすく表現するのならば、みじん切り。それを生きた人間の腕でやるのだ。痛みは絶大。
見ると、ブラックは泡を吐いて意識を失っていた。死んではいない。
復讐の途中に意識を失い、反応を全然示さないことに苛立つ。
ソータはその苛立ちをぶつけるように、一際強い力を込めて腕を根元から切り落とす。
「があああ! が……がぁ……」
仕上げ。最後に喉を突き刺す。
「ヒュー……ヒュー……」
喉から空気が漏れ出て、上手く呼吸が出来ていない。
その様子を見て、ソータの興奮が高まる。
ブラックの復讐までは長かった。
いじめられ、力が足りなくて復讐なんてできなかった。
力を手にしてようやく復讐が出来ると思ったら、今度は唯一信頼できる少女を失った上に、罠にハメられて自らまで殺されてしまった。
そしてようやく今回、息の根を止めることができたのだ。
「ははは……ははっ……ははははははははははははは!」
最後はあまり苦労しなかった。
この空間に辿り着くまでは大変だったが、ブラックを殺すこと自体は容易だった。
拍子抜けはしなかった。むしろ、圧倒的な力でブラックをねじ伏せられたことに、快感を覚えていた。
この復讐だけで、死にかけながらもここまで来た価値はあった。
しかし、ソータの復讐はまだ終わっていない。
ソータは復讐の余韻に浸りながら、再び次の復讐へと歩き出す。
次回は日曜に投稿します。




