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1、二つの世界の狭間

 ソータは空間が捻れ、時間が歪んだ世界の狭間を歩んでいた。

 歩むという表現が正しいのかわからない。空間が捻れたこの世界では、いくら足を進めたところで前進しているのかわからないのだから。


 だけど、ソータはそんな中を、着実に一歩ずつ踏みしめていく。

 目指すのはとある一箇所だ。その一箇所がどこを指しているのか、ソータにはわからない。

 そもそも、その一箇所に向かって、地球から転移してきたハズだったのだ。それなのに、実際に転移してみれば全く知らないところに居た。

 理解が追い付かない。しかし、歩き続ける。


 どこに目を向けても、永遠の白。何の面白みもない空間だ。

 目指した場所は、時空がねじ曲がっているという点ではここと同じだが、永遠に白い空間ではなく、一点に収束する極めて限定的な黒い空間だった。

 ソータはそこを目指して歩き続ける。例え意味がなかったとしても、復讐と、少女の為に。


 ソータは歩きながら思い出す。

 二つの世界での異様に執拗な苛め。

 異世界での、様々な人の言葉。

 異世界転生の経緯。


 露骨なまでに張り巡らされた伏線に、ソータの頭の中に浮かんだ一つの可能性。ソータを異世界転生させた神が、裏で何かをしてソータへの苛めを仕組んだという可能性だ。

 だからソータは、一度だけ立ち入ったこの世界に転移してきた。事実を確認する為に。復讐を終わらせる為に。一人の少女を救う為に。


 しかし、そこに辿り着くことはない。

 いくら歩いても、目的地へのヒントすら見つからない。


「はぁ……はぁ……」


 ソータの体を段々と疲れが支配していく。

 それでも確実に歩んでいく。

 一歩、また一歩と。


 しかし、限界は訪れるもので、視界は汗に塞がれ、微かな目眩で向かう足がはっきりしない。胃の中がひっくり返りそうだ。足がもつれる。

 疲れで、その場に崩れ落ちる。魔法で作った水を一気に飲み、脂肪魔法でエネルギーを補給する。

 そこまでしたら、もう耐えられなかった。電池が切れたように眠りに落ちる。


 しかし結局、この空間では深く眠ることはできずに、またすぐに目を覚ましてしまう。

 大した体力の補給にはならない。一応エネルギーだけなら脂肪魔法で補給できるが、精神的な疲れはどうやっても癒すことが出来ない。


 そんな状態のまま、体感で数ヶ月は歩き続けている気がする。もしかしたら、実際は違うかもしれない。

 いや、時間が歪んでいるこの空間では、正常に時を刻むことはできない。実際は確実全然違う時間の上を歩いているのだ。

 そういう時間に対する疑いが、ソータの疲労をより加速させる。


 不意に、声が聞こえた。


 ――どうしてそんなに苦しみながらも復讐をしようとするんだ?

 ――もうやめてしまえ。そっちの方がお前にとっても良いだろう?


 ソータは、そのどこからともなく聞こえた声を一蹴せず、ついつい考えてしまう。

 ソータにとっての復讐は、何よりの楽しみである。

 要するに、楽しくない復讐は意味がないのである。

 疲れたソータは、そろそろ復讐をやめようかとも思い始める。


 勿論、ソータにとって復讐はそんなに軽い存在ではない。

 今回の復讐は、今となっては唯一信頼できる少女の命もかかっている。

 しかし、ただただ何も変わらない道を、存在自体が不明な目的地に向けて歩くというのは、かなりの精神力を使う。


「ふぅ……」


 首を横に激しく振って、一度頭をリセットする。首を振ると同時に、かいた汗が遠心力でどこかへ飛んで行った。

 冷静になった頭で、周りをもう一度見渡してみる。

 そして、気付くまでは一瞬の出来事だった。


 ――今まで気付かなかった景色があった。


 白い空間に、無数に存在する極小の粒。

 どうやら復讐を焦りすぎていたらしいと、ソータは後悔する。

 冷静に見てみれば、ソータが目指した世界はすぐそこにあった。

 それをついに見つけた喜びよりも、どうしてそれを見つけられなかったのかという後悔の方が大きかった。


「…………」


 無言で後悔を飲み込み、ソータは粒の一つに触れてみる。


「うあっ!?」


 その瞬間、粒が絶大な引力を持った。

 元気が枯れて、今まで出す気にすらならなかった声が、今は何も意識することなく自然に出た。

 そのことに自身が気付くこともなく……ソータの体が、触れた極小の粒の中に吸い込まれていく。


 体が歪むのを感じる。

 こんな小さいところにはいるのだから、体を歪めずに入ることなどできるはずがない。

 気持ち悪い感触だけで済んでいることは、逆に感謝すべきだろう。


 そうして、意識が飛んで――



   ▼



 気付くと、黒い空間にいた。

 紛れもなく、初めて異世界に転移した時に来たところだ。

 あの小さいところに、無事入ることが出来たのだろうか。そこまで考えて、出来ていないならこんなところにいないかと、思い直す。


 一旦落ち着いたので、周りを見渡してみる。

 視界に映るものは、黒、黒、黒、黒、黒……そして、その存在に気付いて、ソータは驚きに目を見開く。


 そこにいたのは――《勇者》だった。

いよいよ最終章。

最終章は五話程で終わる予定です。

最後までお付き合いお願いします!


次回の更新は水曜日です。

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